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振るっていい暴力は、社会に望まれる暴力

正真正銘の初投稿です。至らない部分も多いですが、楽しんでもらえたら幸いです。

 草木も眠る丑三つ時。夜の街、その裏路地を駆けていく影がひとつ。

 それを追う影が二つ。どの影も黒い服装であり、まるで後ろ暗い仕事に就いているかのようだ。

 実際、追っている側はそれに近しい者達なのだが。

 しばらくして、いつまでも降り切れないことに焦ったのか、追われている影が振り向き追手に向け手を翳す。


 「クソッ、『エアカッター・ワイド』!」

 

 省略した詠唱とともに魔法を放つ。声と体格からしてどうやら若い男らしい。

 使った魔法は幅広の風の刃を飛ばすというもの。人が二人並んで通れる程度の道いっぱいに、並ぶ壁に薄く切り傷をつけながら二つの影を両断せんと迫る。


 「おら、よっと!」

 

 それを、先行する影が両手に握った剣で逆に両断した。

 黒いざんばら髪の大柄な青年で、右手には斧剣(コピシュ)、左手には山刀(マチェーテ)を構えている。顔を隠していた布がかき乱した風で剝がれ、浅黒い肌を晒す。

 

 「よっ、ほっ、たっ」


 もう一つの影は大きく跳び上がり、さらに壁を蹴って前方に加速する。

 白い髪をショートカットに整えた少女で、青い瞳が夜闇の中で輝き、縦に割れた瞳孔が標的を捉える。


 「いい加減、諦めなよっと」

 

 上から艶消しされたナイフを投擲。それと同時に青年も逃走者に向け走り出す。


 「『スライムキャッチ』!」


 男の袖口から溢れ出た粘液が襲い掛かる刃を受け止める。透明なそれはナイフに仕込まれていた毒で黒く染まりながらも刺さった双剣を絡めとろうと蠢く。

 

 「チッ、面倒くせぇの使いやがる」

 

 青年はしっかりと捕まる前に双剣を引き、後ろに下がる。少女は左手を壁にぴったりと貼り付けて、クライミングの選手のような姿勢で男を見下ろしている。


 「何なんだよ、お前ら!俺は何もやましい事はしてないぞ!」


 男が今更のように誰何と弁明の声を上げる。


 「あたしたちは警備員みたいなものだよ」

 「やましい事してるだろうが。発掘中の遺跡に勝手に入りやがって。そんで見咎められたら逃げて、追いかけたら殺傷能力のある魔法バンバン撃って建物やらなんやら傷つけてるだろ」

 「不法侵入と器物破損、傷害未遂に殺人未遂。ついでに公務執行妨害で数え役満ってやつ?」


 二人が自身らが何者かを明かし、弁明を否定する。


 「お前らはどうなんだよ!あそこに居たし、刃物とか持ってるだろ!」

 「そういうお仕事だからね。君みたいなのを捕まえるのが」

 「許可とってあるぞ。てめえみたいなのを切っていいってな」

 「なんでだよ!」

 「何日か前から通報を受けていてね。張り込んでいたんだよ」

 「人を切る許可なんて!」

 「社会に認められてるモンだ。暴れるなら殺してでも止めるのも仕事だろ」

 

 自らの行為を棚に上げて怒鳴るも、淡々と返される。


 「というか君、何してたのあんな遺跡で。ブツブツ壁に向かってひとり言もしてて正直キモかったけど」


 ここで少女も歯に衣着せぬ物言いで質問した。

 これには青年も男がまた突っかかってくるかと思い剣を見えないよう握りなおすが、帰ってきたのは喜色にまみれた声だった。

 

 「それはな、声が聞こえるんだ。小さい女の子の声が」


 「ここから出して、暗いのはもうやだって。あの石碑のところから寂しそうな声がするんだ」


 「この前近くを通った時から夜になると聞こえ出してさ、可愛そうだったんで話し相手になってあげてるんだ」


 男は饒舌に語る。その異常さがわかっていないかのように語る。


 「昔読んだおとぎ話みたいだなって思ったんだ。きっとあの中には精霊が封印されていて、自由になったら俺に幸せをくれるんだ。実際ちょっと力をくれたし。なあ、このことは黙っててくれないか?俺がなんかもらえたら、おすそ分けするからさ。なんなら――」

 「もういいぞ、大体わかったから」


 男の妄言と勝手な取引にもなっていない我が儘を青年が打ち切る。

 青年の黒い瞳は、男ではなくその後ろを捉えていた。

 

 「はい、どうもこんばんは」


 男の背後に音もなくソレはいた。

 ソレは少年だった。髪は赤色の天然パーマで、目は緑色で、青年らと同じような黒い服を着ていた。

 背は大柄な青年より低く、平均的な少女より高い、ちょうど中間くらいだった。

 右手には魔法を補助する短杖(ワンド)だろうか、30㎝ほどの棒を携えている。

 

 「うわ!いつの間に!」

 「今さっき。精霊うんぬんくらいにはいましたよ」


 思わず飛びのき、手とスライムを構えながら問う男。律儀に答える少年。

 なお上から監視していた少女には、すぐ横の細い路地から足音を殺しながら出てくる少年が丸見えだったが、それを全く顔に出さずに男と向き合っていた。

 

 「まぁ、行動はさておきあなたの精霊の話はあながち間違いじゃなかったみたいですよ」


 少年は微笑を顔に浮かべながら話す。


 「やっぱりか!良いことはしておくものだな!」


 男は子供のように喜ぶ。様々な違法行為に対する罪の意識は全くと言っていいほど無い。

 相手をしていた二人はこの話のオチが読めたというような顔をしている。彼がここにいるということは、()()()が片付いたという意味だからだ。

 

 「もっともその石板は叩き壊して、中にいた精霊は殺してきたわけですが」


 男が止まった。

 

 「は?」


 理解できないといった風な男に、少年が続けて話す。


 「でも精霊というか悪霊、怨霊って感じでしたね。そんなんだったら封印されるよなっていうか、いかにもな邪悪オーラ出してるやつで」

 「え?殺した?」


 頭が回りだしたのか、今更理解しだしたのか、男が口を開く。


 「はい。で、封印を解くために利用されて、分霊を入れられ(ちからをもらっ)たあなたを――」


 「始末しに来たってわけです」


 男はやっと理解した。

 己が幸せになんて、絶対になれないことを。


 「『スライムバリア』!」


 自身を囲む脅威に、男はまず守りを固めた。恐怖に支配されながらも、死にたくない一心で球状の防壁を作って考える。

 後ろと上にはここまで追い立ててきた二人、前には装備も使う魔法も不明な少年が一人。

 少しの思考の後、男は前に進むことを選択した。幸いにもスライムの壁は物理攻撃を受け止め、魔法を受け流す万能の防御。相手がどんな攻撃をしても耐えられるだろうという考えで突っ込む。得体の知れない少年に背中を向けるのを本能的に拒否したのかもしれない。

 

 「そこをどけ!『エアロジ――」

 「ほいっと」

 

 風の魔法で加速したタックルで跳ね飛ばそうとした時、男はおかしな景色を見た。

 首のない体が、自分に背を向けて走っている。しかも一歩踏み出すごとに姿勢が崩れていく。視点がだんだんと下がっていく。張っていたバリアがすっぱりと断ち切られている。スローに感じるその風景の中で、男はやっと気が付いた。

 自分が首を切り落とされたことを。

 男は最後に端から光を漏らす短杖(ワンド)を持つ少年を視界に収め、地面に落ちた衝撃で瞼と意識を永久的に閉ざした。

 


 「ふう。お仕事終了ってね」

 

 少年が光の消えた短杖(ワンド)を腰のホルスターに押込みながら呟く。


 「ああ、お疲れさんウィラーフ。こんな夜遅くまでかかるとはな」


 青年も剣を腰の鞘に納め、少年を労う。

 その隣に少女が降りてくる。

 

 「ウィラーフ、遺跡の方はどうなったの?」

 

 地面に落ちたナイフを回収しながら少年に問いかける。


 「そっちは研究員のみんなが昼間の内に解析してくれてたからね。その遺跡自体が悪霊を封印するためのものだったみたいで、歴史的な価値とか無いし危険だし破壊することになったんだ」


 少年はなんてことも無いように答えた。その様子に青年はケラケラと笑う。


 「その悪霊とやらも不運だな。出てきてすぐに会っちまうのが自分にメタ張れるヤツなんてよ」

 「ジャック、『アレ』は大体のモノなら殺せるし、あなたも似たようなことできるでしょ」

 「使い勝手がイカれてんだよ、リタ。俺は色々と使い分けなきゃならねぇがウィラーフなら一本で済む。パワーもダンチ。お得だなこりゃ」


 口を挟む青年に呆れる少女。呆れているのは少年の振るう『アレ』の威力についてもだろうが。

 両断された死体を見やる。その傷は焼かれていて、流れでる血はほとんどない。

 その後もしばらく談笑していた三人の後方から、いくつかの足跡が聞こえてくる。

 

 「おっと、回収班が来たみたいだ。それじゃあリタ、ジャック、また明日ね。おやすみ」


 少年はこの場の後始末の担当者たちの到着に喜び、二人に背を向ける。

 

 「うん、また明日ね」

 

 少女(リタ)は軽く手を振って見送る。


 「おう、歯はちゃんと磨いてから寝ろよ」

 

 青年(ジャック)は死体の状態を確かめながら見送る。

 そうして少年は帰路についた。



 暗い夜道を少年が歩いていく。


 (今日はそんなに威力が出なかったな)


 そんなことを考えながら、腰に収めてある物を撫でる。

 自分の特異さの証明であり、両親からの贈り物でもあるそれは、愛と期待と好奇心を織り交ぜた逸品。

 幼いころから発現した異能を補助し、安定させる少年専用の魔法の杖。


 (あんまりこう、ワクワクしなかったしなぁ。不謹慎だけど)


 その異能は感情に呼応して出力を上下させる。

 様々な実験の結果、戦いの中でこそ文字通り輝くと結論付けられたそれは鉄火場に送られた。

 さらに強く、もっと強く。限界はどうか、何が切れて、何が切れないのか。

 いまだに研究は続く。多くの魔法使い達が頭を捻っている。

 この光は何なのか、使い手本人も知りたがっている。


 (不完全燃焼ってやつかな。帰ったら父さんに実験室貸してもらえるか相談しよう)


 彼の名前はウィラーフ・ナインシェード。

 ある高名な魔法使い夫婦の一人息子。

 その出自から、研究者たちにVIP待遇の『最高級の検体』と呼ばれ、

 その戦闘から、目撃者たちに今わの際に垣間見る『残光(フラッシュバック)』と呼ばれる。


 異能の名前は『ビームサーベル』。

 大抵のモノは問答無用で断ち切れる光の刃。

 肉だろうと、金属だろうと、実態を持たない精霊だろうと、当たれば焼かれて死に至る。

 炎でも雷でもない、質量も持たない謎だらけのソレが、世界に知られるまであと1週間。


 今年度の魔法学園の入学式まで、あと1週間。

 

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