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夜のお茶会3

 当初の見込みから言うと、乗月王子より、昇陽王子のほうが可能性があると考えていた。第一妃の子で第二子。血筋としては一番ふさわしい。

 そのため、妃には血筋よりも実権を握った侯爵家の血縁が望ましい。婚姻は支援者を一気に増やすために、必要な一手になるはずだ。


 羅州侯自身は、まず情報を求めた。入学前の分析では、昇陽王子と縁組する方が実現しやすいとしていても、見返りの問題もあり、また、信頼関係を築ける相手でなければ、裏目に出る可能性もある。

 侯爵家として、どの程度の見返りが期待できそうなのか。両王子のそれぞれの支援者には誰がいるのか、どの程度の繋がりなのか。

 王子個人の資質はどうか。こちらに対する考え、思惑はどうなのか。

 実のところ、劉慎はそういう情報収集の仕事をこなしていて、夏瑚の補佐と言うわけではなかった。

 夏瑚自身にも収集は命じられている。学業はもちろん、優等にこなさなければならないが、こちらも重要な仕事だ。


 そのうちの一つは、自分と両王子との相性を調べること、だ。

 なんだかんだ言って、人間同士だと、好き嫌いというものがどうしても関わってくる。男女としての感情だけでなく、人間としての相性もある。生理的に合わない相手とは存在するものだ。そういう相手とは信用したくとも、割り切ろうとも、計算できる相手としての信用しかできないものだ。

 少なくとも、両王子に対して人間的な嫌悪感はない。しかし、まだまだ理解したとは言い難い。慎重に距離を測っているところだった。


 「乗月王子殿下は碧旋様を気にしていらっしゃるのではないでしょうか」夏瑚は思い切って言った。

 乗月王子に関しては、これが一番の懸念事項だ。

 支援者の多い乗月王子の陣営につくには、第一妃の地位を手に入れることが必須だと言うのが、羅州侯の考えだ。宇州侯が幅を利かせている陣営の中で、欲している見返りを手にするには、それくらいの保証が必要だろう。


 だが、乗月王子は明らかに碧旋に気を引かれていて、夏瑚を第一妃にするようには思えない。地位としては、碧旋も侯爵家の養子だ。聖母であると言う点が夏瑚の強みであるが、そのような計算で婚姻を決められるかどうか、が疑問なのだ。

 「碧旋殿は女性になるとは思えません」

 扶奏はきっぱりと断言した。

 その言葉には正直なところ、夏瑚も納得した。誰が見ても、碧旋自身は女性になるつもりはなさそうだ。


 乗月王子にもそれはわかっているのだろうと思う。しかし、そうだとすれば、乗月王子はどういうつもりでいるのだろう?ただ面白い人だと、友達になりたいのか、それとも自分が望めば女性になってくれると思っているのか?

 もし、碧旋が男性になると予想していても、好きなのだろうか?それは恋愛としての感情だろうか?

 扶奏も、夏瑚が今考えていることを考えたのだ。王になる予定の王子が女性になってしまえば、彼らの目論見は無残な失敗に終わる。


 「殿下は、碧旋殿を説得されるかもしれませんよ」夏瑚は慎重に返事をした。

 乗月王子は馬鹿ではない。自分がどれだけ派閥の期待を背負っているのか認識しているだろう。本気で惚れているにしても、まず、碧旋に女性になってくれるように頼むだろう。

 性格が男性的でも、女性になれないと決まったわけではない。そのあたりは夏瑚もよく理解できないし、夏瑚より余程詳しい姫祥もうまく説明できないようだ。特別女性的には思えない人が、体質的には女性にしか向いていなかったり、逆の場合もある。絶対女性に向いていると思われた人が、案外男性としても不自然でなく過ごしていたりする。

 今は男性向きだと見えていても、碧旋も女性になるかもしれないのだ。


 「いずれわかることですからお教えしますが」扶奏は頭を振って言った。「碧旋殿は、前華州公のご落胤です。意味は、おわかりになりますか?」

 夏瑚は一瞬馬鹿面をしたと思う。急いで表情を引き締めたが、扶奏は夏瑚の反応を観察していたので、隠せなかっただろう。扶奏は微かに表情を緩め、残ったお茶をゆっくり飲み干すと、そっと茶碗を置いた。

 「懐かしい味を、ご馳走さまでございました。お話しでき、幸甚でございました。兄君と情報の精査をされるかと存じます。貴重なお時間をありがとう存じました」

 扶奏はきびきびとした立ち居振る舞いで立ち上がり、大きく一礼をした。

 「こちらこそ、貴重なお話をありがとう存じます。今後とも良しなに頼みます」夏瑚は辛うじて挨拶を返し、立ち去る扶奏を見送った。

 扶奏は長椅子に座る劉慎の前で、丁寧に一礼した後、去っていった。


 劉慎は扶奏を見送らずに早足で夏瑚に近づいてきた。「大丈夫か?」覗き込むように夏瑚を見る。

 姫祥が手早く扶奏の席を片付けている。

 「碧旋殿は前華州公のご落胤だと」とりあえず一番重要だと思う情報を告げる。

 劉慎は一度唾を飲み込み、自分の前に茶碗を差し出した姫祥から、茶を受け取ると、夏瑚の隣に座った。「姫祥、林を呼べ」劉慎はそう命じると、夏瑚に向き直る。

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