表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/198

夜のお茶会2

 事実としては一介の子爵子息であり、跡取りではないので、侯爵家に直接仕える立場になっている、ということだ。兄に代替わりすれば、平民になる立場だ。

 しかし、乗月王子の側近という立場は、それらの事実を覆い隠してしまっている。こうやって学園にも側近として従っているところからも、乗月王子の一番の腹心であり、もし乗月王子が次の王となれば、王の側近となるのだ。


 側仕えの侍従となるのか、文官畑の官僚として側近となるのかはまだわからない。もし文官となれば、恐らく将来的には爵位も得られる可能性が高い。

 侍従なら表立った地位は低くとも、一番長い時間付き合う人間となる。乗月王子への影響力は計り知れない。

 どちらにせよ、乗月王子が王として即位するのなら、無視できない存在になることだろう。

 ただし、それは乗月王子ありきの話だ。乗月王子が王にならないのなら、特に王位貴族にとっては関係がなくなる。

 王位を継がない王子は、臣籍降下するか、王族のままならば、実権のある職務に就くのはは禁じられる。その側近では、領地内ならともかく、それ以外のところでは力を持つことはできない。


 扶奏の立ち位置はかなり難しいものだ。現状では、元平民だった現在一応侯爵令嬢である夏瑚よりも低い。王子と共にいる時なら、王子の代理として振舞うことも可能であり、また、王子に忠告したり逆に守ったりするためには強く出る必要もあるのだ。

 今の扶奏は、夏瑚に敬意を示して控えめな態度をとっている。席を勧められ、ようやく座って、大人しく姫祥が淹れた茶を受け取った。

 「こちら、よくご存じの加参茶です。とても香りがいいので、愛飲しております。海州でも珍重されておりますわ」夏瑚は扶奏の故郷産の茶葉を一口、味わってから、茶碗を置いた。

 「頂戴します。懐かしいです」とお茶を飲み始めた扶奏は、夏瑚の目から見て初めて、素の表情をしていたよう思った。


 「お忙しいところ、お時間をいただき、感謝します。お時間は貴重でしょうから、早速本題を申し上げます」

 お茶を半分ほど飲んだところで、扶奏が口を開いた。

 「我が主君、乗月王子を支えていただきたい」

 「私にできることでしたら、お力添えさせていただきたく存じますが」まずは無難な返答を返す。「それが貴族としての責務ですし。ですが、仰っているのは、何か特別なお役目を期待なさっておられるのでしょうか?私は何をすればよろしいのかしら?」


 「侯爵家の支持が欲しいのです。我が君は王に相応しい。もし、あなたが王子の花嫁となるのなら、大歓迎なのですが」扶奏は結構きわどいことを言う。「王に相応しい」という台詞は、外部の人にばれるとかなり危険な言葉だ。身内や仲間内では言うこともあるだろうが、公になってしまえば、不敬罪になりかねない。王の資質については臣下が取り沙汰できるものではないというのが、表向きの理由だ。

 「あなたのお考えは理解できます」夏瑚はいったん同意する。乗月王子は、温和で、頭も悪くない。どちらかと言うと自分が切れ者ではないが、臣下に対して穏やかに対応し、仕事を任せることのできる王になりそうだ。


 昇陽王子のほうが、ややひねくれた性格をしているように思う。素直に担がれるお人ではない。頭はいいのだと思うが、全方面に万能と言うわけではない以上、人に任せる必要は生じる。側近らしい側近がいないのも、その性格ゆえだろうか。関路は側近と言うより護衛だ。

 性格の違いはあるが、もっと大きな差があるのは、後援者の存在だろう。

 乗月王子は宇州侯が全面的に支援している。宇州侯爵家は政府や各省庁にも、息のかかった人材を送り込んでいるという話だ。

 対して、昇陽王子のほうは畿州公があまり乗り気ではないようだ。そもそも侯爵よりも王族に近い公爵家も、あまり公職には就かない慣習がある。王族とは違って広い領地を任されているので、そちらに専念することが多い。家格は高いし、離反を防ぐために第一妃は公爵家から娶られることが多い。

 侯爵家は広い領地を有する上に公職にも就けるので、家格は公爵に劣るものの、実権を握りやすい。


 羅州侯爵としては、昇陽王子のほうが支援者が少ないので、彼が即位した場合のうまみは大きそうだ。

 ただ、宇州侯爵家と争うのはかなり大変だろう。

 かと言って乗月王子を支援すれば、一番いいところは宇州侯が持っていくだろう。それに、侯爵家の母を持つ乗月王子は、第一妃を公爵家から娶ったほうが慣例に従ったことになり、有利になるはずだ。

 この場合、盛墨が女性になったら、第一候補になりそうだな、と思う。


 昇陽王子の場合は、自身が公爵家の血を引いているので、第一妃は公爵家でなくとも構わない。むしろ、金と実権を握っている侯爵家から嫁を取れば、支援者を得ることができるのだ。

 「私にそのような重責は担えますかどうか」夏瑚は小さく溜息をつく。乗月王子の第一妃になるには、侯爵家では家格がやや不足しているし、夏瑚はそもそも養女だ。但し、『聖母』であると言う点は夏瑚の評価を上げるので、不可能ではない。羅州侯も支援者に加わる点も大きいから、認められる可能性はある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ