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塔の目的2

 「お伽噺だと思ってたよ」碧旋がぼそりと言う。

 「私は例え話だと思っておりました。まさか本当に飛べるのだとは」夏瑚は言葉を途中で切る。今だってあまり信じてはいない。

 始祖と呼ばれ、王国の基礎を築いたのだから、有能な人だったのだろう。人を引き付けて従わせることができ、先を読んで行動することができる傑物。

 王朝の始祖ともなれば、神格化もあり得る。だから「すべての人を魅了した」だの「空を駆ける」だの大袈裟に言われているのだと思っていた。


 しかし、全くの眉唾物だと思っていたわけでもない。

 『六感』というものがある。夏瑚の『聖母』は能力と称されるものか、異国人を母に持つ夏瑚からすれば怪しいものだと思っているが、他の『六感』は結構役立つ能力だったりするようだ。有名な『剛力』や『韋駄天』は、それほど珍しくはなく、国軍などには結構いるらしい。際立って筋力を発揮できる能力は有用だろうし、理解しやすい。もともとあるものを大きくしたものだからだ。

 『魅了』とは、読み物の中では見たことがある。過去存在したことはあるとも聞いたが、真実はわからない。


 『六感』とは通常とは異なる、人を超えた力だ。

 秘匿されているものも多いと言う。理解しがたい力もあるかもしれないし、他人に知られたら利用されたり嫉妬されたり厄介事に巻き込まれかねないことは想像がつくから、秘密にしていることは不思議でもなんでもない。

 それでも、「飛ぶ」とは。

 人は飛べないのだから、もともと持っている力を増大させる、という説明では収まらないではないか。

人間のどんな力を伸ばしたら、空を飛ぶことができるというのだろうか。


 自分の後継者、ということは、同じように「飛ぶ」人間を探しているということだろうか。そのために用意したのが塔?ここから飛び立てとでも?

 碧旋はおもむろに歩き出した。「どこへ?」乗月王子が呼びかける。「塔に上ってみたい」「同行しよう」碧旋の答えに、すかさず昇陽王子が応じ、碧旋を追いかける。「私も行く」乗月王子が後に続いて行ってしまう。


 扶奏が王子の後に従って一方の塔へ向かってしまう。

 その場には盛墨・盛容兄弟と、劉慎と夏瑚が残された。「どうします?」夏瑚が思わず劉慎たちに聞く。出遅れた感が否めない。

 「塔も見てみたいです」盛墨が言う。それに対して、盛容が肩を竦めた。「ここから飛び降りろ、って話だぞ。無事ならば王の資格があるとか何とか。一応学園生なら王家に血を引いているという認定だから、試練を受けることができるそうだ。それで、王位継承で揉めたときに、ここから飛び降りた王族たちがいたらしい」


 「それで、どうなったんです?」劉慎が尋ねると「死にはしなかったらしいが」と盛容の歯切れは悪い。「だから、試しの塔は閉鎖されたと思ってたよ。死人が出かねないし、そんな運の良さを競うような行為で、王を決めるのは問題があるだろ」

 「まあ、そのままにしておくのは危険だとは思いますが」「また王になるために飛び降りてやろうってやつがいても不思議じゃないだろう」盛容はだんだん大きく荒れた声音になっていく。


 「今回、我々をここに連れてきたのは、なぜだと思いますか?」劉慎が言った。「この塔は閉鎖されていないということですよね。学園生は試練を受けることができると言っても、ほとんどの学生はそんなこと考えもしないでしょう」

 一応学園生は侯爵以上の家の者が入学することになっている。侯爵以上の家には王族の血が流れているのは家系図上事実だが、夏瑚のように養子となった者が入学している場合もある。家系のどこかの時点で養子が後を継いだ家もあるだろう。

 例え王族であったとしても、王位からは遠い。自分が王になろうという者はいないだろう。考えたこともないというのが普通だ。そんな人間が、死ぬかもしれない試しを受けるはずがない。


「閉鎖していないから、案内する必要があるのでしょうか?」盛墨は自信なさげに言う。

 「それって、飛び降りることを推奨しているってことか?」盛容は頭を抱えた。「学生全員をここに連れてきているのでしょうか」夏瑚は呟きながら胸の内で考える。

 「もしかしたらそうかもしれません。でも、陛下がおいでになったのは、両殿下が同じ班だからですよね。殿下方は、塔の逸話もご存知のようでしたし」


 足音が近づいてくるのに気づいて、顔を向けると、扶奏が戻ってくるのが見えた。扶奏は何かを噛み締めたような口元を隠しきれていない。

 「どうしました?」劉慎が聞くと、「人払いされた」と扶奏が言う。言ってしまってから、明らかに悔しそうな表情になった。

 扶奏の後ろには誰もいない。塔には二人の王子と碧旋だけが残っているということだ。

 去るように言われたとしても、この表情から命令に抗ったのではないだろうか。昇陽王子は反抗されることに怒るかもしれないが、乗月王子が庇ってくれそうだ。それにもかかわらず、遠ざけられたところを見ると、乗月王子の命令なのかもしれない。

 「側近のあなたを排して、碧旋殿が許されるとは、不思議なことだ」劉慎が扶奏の顔色を窺う。「何か理由があるのでしょうか。扶奏殿はご存知ですか?」

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