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謁見3

 劉家の間諜では、碌な情報が手に入らなかったようだ。だが、王の態度を見る限り、それほど秘匿されているというわけでもないように思う。

 恐らく、王家に関わるからではないか。

 王家に配慮して口を噤む者が多いのだろう。箝口令も出されているのかもしれないが、少なくとも先ほどの王の様子からはここにいる面々に対しては強いて隠すつもりはなさそうだ。

 裏から手を回して情報を得ようとしているから得られないのであって、案外正面から聞いたほうが早い気がする。


 「さて、本題に移ろう」昇陽王子が夏瑚たちに向き直りながら告げた。

 「本題?陛下に会うのが目的じゃなかったのか?」盛容が大きな声を出す。「父上はついでだ。というか、父上の我儘で、ねじ込まれた予定だ」昇陽王子はあっさり言い、両手を広げて「それよりも、どうだ、この建物。不思議ではないか?」と聞く。

 「不思議です」釣られるように夏瑚が応じた。「一体何の建物なんですか?」

 見張りをするための塔かとも思ったが、城壁にもっと高い塔が設けられていて、この近くの城壁にもある。位置的にもそこの塔で目的は果たせるため、この塔は意味がない。また、この二つの塔を結ぶ通路も、それほど意味がないように思う。塔自体に果たすべき役目がないのだから、塔を行き来する利便性も必要ないのだ。


 実用的には意味がないなら、他の面で意味があるのかもしれない。夏瑚は改めて塔を見る。

 寺院のような宗教的な意味があるのだろうか?

 「目分量でですが、学園の校舎とは基本的な大きさが違うようですね」と言い始めたのは盛墨だ。「あ、それなんか感じるかも」碧旋が頷く。「どういうこと?」乗月王子は不思議そうに尋ねる。夏瑚からすると、どうしてそういうところに目が行くのか不思議だが、夏瑚自身は先ほどから使われている石材の値段がわからないことに首をひねっている。

 「学園の校舎は、基本的に扉の大きさ、窓の大きさ、教室の広さ、廊下の幅、言い出すときりがないんですが、そういう大きさ、長さ、広さに型があるんです。例外もありますが、それは例外にする理由があるんです。例えば、楽器倉庫ですが、銅鑼や鍾などの大型の楽器を搬入するために扉は大きくなっていますね。医療室の薬の保管庫は、天井近くと足元に横長の細長い窓があるだけです」


 「王宮の他のところもそうなのか?」「測れないので断言はできないんですが」盛墨と碧旋と乗月王子で話し込んでいる。

 「型式を決めて建築しているんでしょうね」夏瑚は思わず口を挟んでしまった。

 「やっぱりそうですか?」盛墨が反応する。「基本の型を決めておくと、職人同士のやり取りが楽になりますから、こういう大きな建物を作るときは便利でしょうね」「型式を決めておくというのは、よく行われることなのか?」盛容も聞いてきた。


 「ええっと、ある程度は、そうですね」「含みがありますね。ある程度と言う意味を教えてもらえますか?」乗月王子も関心を見せて、頼んでくる。

 この面々では、実際の商売や作業のことはあまり知らないだろう。夏瑚も偏った知識しかないと思うが、一番詳しいはずだ。

 「私は海州や羅州の商習慣の一部を存じているだけでですが、それでもよろしいですか?」「もちろん」


 夏瑚が知っている型式は、建築の分野ではない。服飾の分野のことだ。女性の衣服である長衣は、一枚の布である。それを下着の上に巻き付けていく。決まった手順で襞を作り、体に添わせていくのだが、その大きさは幅は3尺か4尺の二択、長さは1丈から2丈だ。長さは布地にもよって結構違うが、幅はほぼ一定だ。扱いやすく、着用しやすい寸法として決まっており、それに合わせて織機の寸法も決まっている。

 そのためにどこの州へ行っても販売することが容易であり、また、どの地方の織手に仕事を依頼することも可能となっている。


 そもそもその布地の型も、父夏財ら数人の商人が組んで始めたことであり、海州や羅州を中心にして広がりつつある商習慣である。ただ、それで莫大な利益が出るというわけではない。

 衣服は仕立てるのに手間暇がかかるものだ。長衣は縫製の手間がないものの、女性の場合は下着が上下二つに分かれているため、それに手間がかかる。新品を仕立てる場合、布の素材から始まって、好みの色に染め、好みの大きさの布を織る。下着は長衣の色や刺繍などに合わせて色や刺繍、飾り襟などをつけたりするものだ。

 金のない庶民は古着を手に入れるか、自分でできるところまで作る。実際に布から織る者もいるが、大抵は布を購入して自分で下着の縫製をしたり、長衣の刺繍をしたりすることが一般的だ。


 そういう布の需要はあるのだが、織手の方もそういう布地はあくまで見習いが練習として織るものだったり、注文の仕事がない合間にやる仕事だったので、品質もまちまちで大きさもばらばらだった。そのため、仲介する商人の目利きや買い手の見る目や創意工夫が物を言う状況だったのだが、型を決めて発注し、それなりの報酬を出すことで、一定の品質と数量を確保することができるようになった。そして、その状況が完全な注文受注品には手は出せないが、品質もまちまちな在庫の中から、自分の希望に合った商品を見つけ出すことを諦めていた客層をより掘り起こすことにもなったのである。

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