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学園の謎8

 「この通路は螺旋を描いているようですね」盛墨がせわしなく周囲を見回しながら、独り言ちている。

 「この壁は少し光っていないか?」乗月王子が感心している。

 「光っているというより、反射しているんだと思う。全く光源がない場合は明るくないからな」碧旋が言う。

 一行は緩やかな傾斜の通路を下り切って、突き当りの空間に辿り着いていた。

 「ここで行き止まりか。特に何かあるわけではないんだな」盛容がちょっとがっかりしたように、肩を落とす。


 「ここに初めて来たときから、何もなかったよ」碧旋が笑う。「ま、確かに拍子抜けしたけど、ちょうど顧敬と揉めてた時だったから、ここで一人になって頭冷やすにはちょうど良かった」

 「狭いな」盛容が言って、肩を回した。盛容がそれをすると、確かに皆に当たりそうだった。

 そこで、夏瑚たちが合流してきた。夏瑚は皆を見つけて、少しほっとしたようだった。「ここで行き止まりですか?」

 「そのようです」盛墨が答えて、壁を触り、「この滑らかさは、硝子に似ているような」と考え込んでいる。


 「狭いが、一人で籠るのにはいいかもしれない」意外なことに昇陽王子が言い出した。「だろう?」碧旋が笑った。

 「悪いが俺は嫌だ。戻る」盛容がうんざりしたように言い、通路へ歩いていく。夏瑚たちは通路を開けて盛容を通してやった。

 実際そこは円柱のような形の空間になっていた。通路と空間の間には扉はない。

 「盛容は狭いところは苦手なんだな」「私もあまり好きではない」乗月王子が苦笑する。「この人数ではな。少々多すぎるようだ」


 「一体何のための部屋、通路でしょうか」夏瑚は不思議だった。結構下ったので、恐らくこの空間は地中にあると思われる。地下室は必要に応じて設えられるものではあるが、地上に建物内に部屋を増設する方が容易なのだ。地下室でなければ、と言う必然性がない限り、造らないものだ。

 それにこの壁や天井、床の素材は石材のようにも思うが、見慣れない素材だ。父の夏財は建材もそれなりに扱っていたので、夏瑚もそこそこ知識はあるが、こういう素材は心当たりがない。


 「あ」あちこち観察していた盛墨が小さく声を上げた。

 「どうした?」昇陽王子が問いかけたが、すぐ全員答えを知った。

 天井と壁の境に、小さな光点が横にすっと走っていく。落ち着いた緑の光だ。

 「こんな光は見たことがない」乗月王子がじっと光を見つめる。

 いったいどうやって光らせているのだろう。基本的に灯りと言えば、火なのだ。燃やすものが様々だが、何かを燃やして灯りとしていることには変わらない。火は燃やす物によって色が変わったりするが、緑と言うのは見ない色だ。


 それに小さな光点は見ることはあるが、それが一定の速度でくるくると回るのは珍しい。縄の先端に火をつけて回せばこんなふうに見えるだろうか。どういう仕掛けなのか、夏瑚には全く見当がつかない。見慣れない色の光は気味悪いようにも思える。

 「もう用は済んだのでは?」逃げ出したいほどではない。断じてない。けれど、これ以上見るものもなさそうだ。落ち着ける部屋でお茶を飲みたい。喉が渇いただけだからね、ほんとに。

 「光の仕組みを知りたいが、簡単にはわからなさそうだ」と昇陽王子が溜息をつく。「調査できそうな者を手配するか」と言いつつ、通路へ向かう。

 昇陽王子が移動すれば、夏瑚がそれについて行っても不自然ではないだろう。


 碧旋もさほど未練がないようで、さっさと部屋を後にする。乗月王子と扶奏がそれに続き、「床には研磨剤みたいなものが含まれていると思うよ」などと言いながら、盛墨が後ろを振り返りつつついてきた。

 部屋も通路にも窓は一つもなかった。そのせいか、特別狭い空間ではなかったのに、閉塞感があった。元の廊下に戻ると、夏瑚は思わず大きく息を吐いた。あまりお行儀のいい行動ではない。扇子を拡げて息を誤魔化すようにパタパタと扇ぐ。


 「なんだか喉が渇きましたね」夏瑚の気持ちがわかったのか、乗月王子が微笑みかけてきた。夏瑚はお返しに微笑んで相槌を打つ。やはり綺麗な人だ。

 「休憩の前に皆を連れて行きたいところがある」横手から昇陽王子が口を挟む。「え、またか」礼儀のない呟きは盛容だ。一足先に廊下に出ていた彼は退屈していたようで、一人屈伸運動をしていた。

 「乗月は既に案内済みだから来なくともよい。だが、他の者は来るように」昇陽王子はあっさりと言い、一人歩き出す。


 「参りますよ」乗月王子は兄の後に続く。それに従う扶奏の表情はいささか苦いが、止めないところを見ると支障があるほどでもないのだろう。

 「今度はどこだよ」いささか間延びしたような科白を口にしながら、碧旋が続く。盛墨が「先ほどの部屋ですが」と話しかけながら連れ立って歩くのに、盛容が肩を竦めながら従った。

 仕方なく夏瑚も歩き出す。まあ、今度も窓のない洞窟のような場所ということはないだろう。学園内にそういう場所がそうそうあるはずがない。


 それにしても落ち着いて思い返すと不思議な場所だった。地下を掘るのには多くの人手がいる上に、そこを部屋として保つためにはしっかりした技術が不可欠だ。それに見たことのない建材で作られた壁。うっすらと光を反射する素材、継ぎ目のないように塗布されたのは何の被膜材なのか。

 校舎が建てられた時から存在していたのだろうか?そんな古いものには思えなかった。調べてみる価値がありそうだ、と思うが同時に、それが許されるだろうか、とも思う。学園は王宮の一部でもあるのだから。


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