表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/198

学園の謎7

 あまり音楽に詳しくない夏瑚にも、碧旋はなかなか上手に弾いていると思う。鈴の音や、大太鼓の音を弓弦で再現している点が立派だ。力強く盛り上がった旋律が途切れた。

 「…それで終わりか?」昇陽王子が首を傾げる。「特に何も起こらないようだが」

 「わかりました」盛墨が勢いよく言い出す。「今、碧旋殿が演奏した音の数と、浮彫の人型の数が同じでしたね」「そう」碧旋は頷いて、廊下の天井の端を指さした。「東側の浮彫の数と、音の数、種類が合致しているんだ」


 偉華で演奏されている音楽は、基本的な音の数は22あるといわれている。古い手鈴など一つずつ音色が違ってそこから外れたものもあるけれど、殆どの楽器を網羅した音の数は22で、曲によって、そのうちからいくつの音を使うか選んでいく。

 楽器の種類と音の数はどちらも7つなのだろう。人型が楽譜になっているということか。「拍はどうやって示しているのでしょう」と、夏瑚は独り言ち、自分で気づいた。よく見ると、人型の浮彫の幅が一つ一つ違うのだ。同じ琵琶の人型でも、横幅が違っている。


 「で、西側」と碧旋は反対側の天井の端を指さし、再び演奏を始めた。

 向き合う浮彫は、東と西で対象になっている。そのため奏でられる音は、先ほどの逆の流れになる。

 しかし逆の旋律でも、違和感はない。そういう旋律だと思えば全く不自然ではない。ただ、元の旋律を知っている面々はちょっと居心地の悪そうな顔をしている。

 「王族の知っている旋律だったな」盛容が言う。


 碧旋が最後の音を引き終えて、手を下ろすと、壁の奥から、何か物音が響いてきた。それほど大きな音ではない。床に近いあたりで細かく震えるように物音が続き、しばらくして止んだ。

 「あれか?」昇陽王子が碧旋に確認する。

 一行は周囲を見回して、異変を探す。

 壁に、うっすらと縦線が走っている。少しまではなかった変化だ。


 後者の建物は構造は石造りだ。外観は石材が剥き出しになっているが、内部の壁は漆喰などを塗って傷のない表面を見せている。場所によっては細かなひびが入っているところもあるが、ここの廊下は綺麗だった。

 それにこの縦線は、一直線に壁を断ち切っている。乾燥やら歪みやらで出来る亀裂とは違って人工的なものだろう。

 碧旋はそこに近づき、縦線の側の壁をぐっと片手で押す。すると縦線から直角に二本の線が床面に近いところと天井に近いところに現れ、見る見るうちに元の縦線から走り出す。そしてもう一本の縦線が現われ、大きな長方形を形作ると、くるりと回転した。


 「石材じゃなかったのか」皆が固まっていると、一番最初に我に返ったのは昇陽王子だった。回転した壁を指でこつこつと叩き、「板の上に漆喰を塗っているようだな。今まで、壁の素材など注意を払ったことなどなかった」

 「中心に軸を通しているのですね。それほど難しい仕掛けではなさそうですが、今まで気づかれなかったのは不思議です」盛墨が床面から見上げるように壁を観察している。


 夏瑚が確認したところ、この壁は廊下と部屋との仕切りになっており、北側の部屋は演奏室、南側は楽器室だそうだ。

 「演奏室は防音のために他の部屋よりも3寸壁が分厚いのです。楽器室も演奏室も木材で壁を作っています」校舎を計測するときに仕様も調べたという盛墨が解説してくれる。

 「入ってみよう」盛容は言いながら、壁を押して既に壁の向こうへ半分出てしまう。

 「危険はないのか?」扶奏はさっと乗月王子の前に出て碧旋に聞く。

 「俺が入った時には特に何もなかった。別にそんなたいそうなもんじゃないよ」碧旋は弓弦を小脇に抱え直し、離れたところに控えていた姫祥に「灯りを頼めるか」と言った。


 姫祥はすぐに二つ燭台を携えて戻ってきた。

 盛容は壁の境に立ったまま、燭台に火をつけ、さっさと壁の向こうへ姿を消した。

 碧旋と盛墨がその後に続き、扶奏が燭台を持って、昇陽王子と乗月王子が壁の内部へ入って行く。

 夏瑚と劉慎は一瞬顔を見合わせた。「行かなきゃ駄目でしょうか?」「行きたくないのか?」夏瑚が言うと、劉慎が意外そうに聞き返してきた。「なにか恐ろし気なものが出てきそうに思うんですよね」

「行かなくてはならないということはないと思うが」劉慎はにやっとした。「意外と怖がりなんだな」


 「怖くはないですよ、怖くは」「では行こう」劉慎が軽く夏瑚の方を押す。「こんなとこ、入ったって何の得にもならないのに…」夏瑚はぶつぶつ愚痴を零したが、一人ここに残るのもつまらないと思い直す。

 壁の中を覗き込むと、真っ暗と言うわけではなく、うすぼんやりとして何も見えないというほど暗くはない。ただ、そこを歩いていくのはやはり不安なので、さらに灯りを持ってきてもらい、ゆっくりと進むことにした。


 前に劉慎、後ろに姫祥を連れて壁の中に進む。

 周囲は滑らかな壁に囲まれている。漆喰だろうか?床は緩やかな下りの勾配になっている。通路としては曲がっていて、先を見通せないのが不安だ。

 皆はかなり先に行ってしまったようだ。遠くで物音が聞こえるが、それが皆の話し声らしい。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ