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学園の謎2

 ただ、乗月王子には扶奏がついている。

 昇陽王子と乗月王子については、勿論予備知識はあった。本人たちの言動や、母君についての情報、その実家と支える貴族たちの派閥についての情報だ。

 しかし、やはりこうやってじかに接することで得られた情報は量も質も貴重だった。

 劉慎が見るところ、王族として人の上に立つ資質は昇陽王子に一日の長がある。それは年齢からくるのか、性格からくるものかはわからない。今のところそう思えると言うだけだし、乗月王子が駄目だというわけでもないのだが、理由の一つに、側近の違いがあるのは確かだ。


 昇陽王子の側近である関路は、基本的に護衛であって、例え意見を述べることがあっても、全ての判断は昇陽王子が行っていることが明らかだ。

 それに比べ、乗月王子はそうではない。今回の旅は扶奏が前半は不在だったのでそれほど表には出なかったものの、扶奏は時には乗月王子を差し置いても発言することがある。側近とは腹心でもあり、扶奏は文官畑の人間らしいので、主とは反する意見を述べたり、主の指示がなくとも差配することも仕事だ。主のためには主の意に反してでも行動すべき時もある。


 劉慎の目からは、扶奏の立場はかなり強いように見える。乗月王子が扶奏を頼りにしているのか、それとも扶奏が出しゃばっているのか。乗月王子の行動には扶奏の意向がかなり反映されている可能性が高い。扶奏個人の意向というわけではなく、派閥の意向だと思う。

 昇陽王子の派閥に比べ、乗月王子の派閥のほうが王位への志向が強いことを思えば、納得がいく。

 乗月王子の婚姻に関しても派閥の意向が働くだろう。


 実は夏瑚と正式に養子縁組する前に、劉慎は乗月王子の母君貴妃のご実家宇州侯の腹心、梁子爵との会談を行って派閥の意向を探っている。『聖母』との養子縁組の話があることを伝え、相手の反応を確かめたのだ。

 それがすべてではないが、劉慎は好感触だと判断したし、その判断に誤りがあったとも思っていない。

 宇州侯は家格において昇陽王子の後ろ盾の畿州公に劣るが、広義王族の公爵家よりも実務における制限がない。王族には王権に抵触しないように様々な制限を課されている。


 それを考えると、昇陽王子の派閥のほうが実務に強い侯爵家と手を結びたがり、乗月王子の派閥のほうが家格の高い公爵家の娘を欲するようにも思える。しかし、王位継承を確実視されていれば家格を求めても問題ないが、これから競う場合、妻の実家には力のある家のほうが有利とも思える。

 ことは乗月王子の気持ちだけでは決まらないのだ。


 それに、この碧旋と言う人物もかなり難しい。

 旅から寮の自室に帰り着くと、実家に依頼していた碧旋の調査結果が届いていた。

 雷子爵のことは劉慎はあまり知らない。偉華の西の端にある銅鑼島のことは知っているが、羅州とはかなり遠いこともあって接触がない。雷子爵は特殊な立ち位置で、昇陽王子の派閥にも乗月王子の派閥にも属していない。

 碧旋は雷子爵の嫡子らしい。

 名前が異なるのが気になったが、そこも雷子爵の経歴を調べると納得だった。

 雷子爵は碧旋の母親だったのだ。



 夏瑚たちは教室に入り、席に着く。

 教室と言っても、居心地のよさそうな食堂のような設えの部屋だった。

 中央に円形の卓が置かれ、椅子が並んでいる。部屋の東側に大きな掃き出し窓と、露台がある。部屋の北側に書見台が並んでいる。その周囲の棚には書物が積まれている。

 部屋の南側には暖炉が設えられているが、今の季節では火は必要ではない。真冬の二か月ほど必要となるだけで、一般的な庶民の家ではわざわざ暖炉を設けることはない。火鉢あたりで暖を取ることが多い。王都はそれほど寒い地域ではなかった。


 暖炉の傍らに、お茶を淹れるための道具一式が置かれている。既に湯沸かし器が持ち込まれ、一同が入室すると待ち構えていた昇陽王子の従者が茶を淹れ始めた。

 朝一番の授業のためか、軽食も用意されているようだ。夏瑚は朝食を済ませてきていたが、鍛錬の後の盛容と碧旋は喜んでいた。果物が多いので、夏瑚も少しは食べられそうだ。


 席次に指示はないが、円卓でも出入り口から離れ、窓からも離れた位置が上位の席になる。茶道具と従者が南側にあるので、昇陽王子の席は南、対する北が乗月王子となる。昇陽王子が茶を準備せず、例えば北側にも窓があれば、南に昇陽王子と乗月王子が並ぶことになる。

 一番下位は出入り口の近くなので、碧旋がさっさとその席に着いている。盛容はしばらく碧旋と話していたが、窓を背にした盛墨の隣に移動した。

 劉慎は碧旋の隣、夏瑚はさらにその隣、南に近い席だ。


 茶が配膳されると、その段取りを図っていたかのように、昇陽王子が入室した。腰を浮かしかける一同を手を振って押し留め、関路が昇陽王子の席の背後に立つ。

 乗月王子が昇陽王子と挨拶を交わし、一通り皆と挨拶しあう。5名の正学生と、4名の側近が揃った。

 「さて、それでは始めようか」昇陽王子は両手を組んで、その上に顎を載せ、ゆっくりと言った。


  

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