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学園と論科のあれこれ2

 学舎の三階、中庭に面した広い露台を持つ談話室は、様々な会合に使用される部屋で、二人以上ならばどのような用途であっても予約することができる。

 論科には決まった教室と言うものがなく、どこで課題に取り組もうが自由である。

 基本的に教師もいない。助言者として、教師に立ち合いを依頼してもいいが、それも五名の参加者で決める。


 談話室の受付で、劉慎は個室の確認をする。すると露台の席を確保していると告げられた。授業というには砕けた雰囲気になりそうだ。


 参加者として先に立つように言われ、夏瑚も気を引き締めて露台へ向かう。


 よく晴れた青空のもと、露台には赤紫の九重葛を利用した日陰棚が設けられている。その下の既に準備の整った卓の周囲には、6人の若者が座っている。


 後れを取ったと一瞬思ったが、これは授業の一環であるため、茶会のような作法とは違った解釈がなされるはずだとも思う。慌てるのも違うと判断して、少し硬い表情になって俯き、手を合わせて膝をゆっくりと沈める。「お待たせいたしまして、申し訳なく存じます」


 「いや、遅れてはいない」6人の中央に陣取った人物が立ち上がりながら言った。「集まる順番を考え、それぞれ違う時間を指定したのだよ。だから謝る必要はない。空いている席にどうぞ。上座は関係ないので、好きなところに」


 柔らかな表情で席を勧めたのは、透けるような色の長髪を一まとめにして左肩に垂らしている人だ。どちらかというと女性的にも見える優雅な顔立ちで、高位貴族らしい美しさだ。特に模様のない落ち着いた紅の長着に、細い白金らしい長めの首飾りを三本している。三本で一つの飾りなのだろう。その繊細な細工が見事だ。席を指示した手首にも揃いの腕輪が揺れている。


 髪色と顔立ちから、乗月王子だろう。夏瑚よりも二つ年上で、学園には三年前から在学している。現王の三子で、生母は侯子だった貴妃だ。


 その左隣に座ってじろじろとこちらを眺めているのは、恐らく乗月王子の側近である扶奏だろう。貴妃の実家である宇州侯爵家の分家筋の出身だったはずだ。目が細いので鋭く見える目つきと、それ以外は整った顔立ち、髪形が王子と似ているのは何故だろうか。


 「それにまだ全員ではないのだよ」と乗月王子は言い、その右隣りの暗褐色の髪の若者が自分の右隣りの大柄の男に「お茶を頼め」と囁くのが聞こえた。

 大柄の男は精悍な顔つきで、成人しているように見え、学生というより護衛だと思われた。恭しく頭を下げてから、さっと身を翻して歩き去っていく動作に無駄がなく、決まっている。


 劉慎は丁寧に礼を述べ、近くにある椅子を引いて夏瑚を見た。6人は隙間なく並んでいるから、どこに座っても似たようなものだろう。こちらを十分に観察する心づもりらしい。

 夏瑚が腰を下ろすと、傍らに劉慎が座る。


 扶奏の左隣りの若者は、よく日焼けしており、短めの黒い巻き毛を鉢巻で押さえていた。鉢巻も長着も濃紺で、生地は良さそうだがかなり使い込まれてこなれた感じだ。飾りもない。この人も扶奏ほどではないが、こちらを見つめている。


 すると鉢巻の隣に座ったいかにも細っこい色白の子が、「まじまじと見るのは不躾ですよ、兄上」と濃紺の袖を引いた。この子も濃紺の長着を着ている。下穿が白で、兄は長着と揃いの濃紺なのが違う。兄はかなり背も高く、筋肉もある印象だが、この子は気弱な感じで、こちらから目を逸らしている。王子たちのほうも見ないようにしていて、緊張した表情だ。思わず共感してしまう。わかってはいたけど、王族とこれから一緒に過ごすことになるんだな!胃が痛いよね。


 劉慎の資料によれば、恐らくこの二人は馬偉公の長子盛容と次子盛墨だろう。入試に合格したのが盛墨で、年齢は十歳だ。二歳の頃には小学の教科書を読み始め、三歳の頃には読破したという天才児。もっとも勉強には明るいが性格は人見知りで怖がりらしい。学園にも大好きな兄についてきてもらいたいと懇願したとか。盛容は勉強よりも武術が得意らしく、性質や外見はあまり似ていない兄弟だが、生母が同じで仲がよいことで有名だ。


 寮人がお茶を盆に載せて現れた。

 頼みに行った男がいつの間にか戻って、劉慎の隣の席に座っている。この男が誰なのかはわかりにくいが、護衛か側近だと思われる。

 とすると、乗月王子の右隣りの若者が昇陽王子だろう。


 昇陽王子も美形だが、乗月王子に比べると華やかさに欠ける気がする。やや浅黒い肌に暗褐色の短髪で、背はそれほど高くなさそうだ。夏瑚に見られているのに気がつき、柔らかく微笑んだ。するとがらっと印象が変わる。それまでは冷静そうな風貌に見えていたのに、途端に親しみやすく愛嬌のある感じになる。こういう落差を二人きりの時に見せられたりしたら、特別に遇されているように思えるだろう。


 これで三人の正学生と側近が揃っていたことになる。だとすると残る学生は、と記憶を探っていると、昇陽王子が「ほら。計算通りに、最後の仲間が現われたな」と、夏瑚の背後に向かって手招きをした。

姉妹編 辺境編も 覗いていただけたら嬉しいです。

https://ncode.syosetu.com/n4063gu/

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