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碧旋の素性3

 「銅鑼島は、唯一の窓口だからね。恐らく一番外国の情報を得られる場所だ」

 碧旋の説明に相槌を打ちながら、劉慎は鳥で送った物が、緑色の糸であることを思い返していた。

 あの糸は、夏瑚の父が持ち込んだ物だ。その夏財の話では、沿岸で外国船と取引をして手に入れた物だという。


 結界があるので、そういう取引はかなり面倒ではあるが、出来ないことはない。戻れる人間が一刻に一人のため、持ち込める量も限られているし、相手との連絡も難しい。人間以外の生き物は結界が効かないので、鳥を使うことはできる。何度も連絡を取って落ち合う地点を決め、言葉の通じない相手を前に、商品を見極め交渉をしなければならない。

 商人としてはかなり難しい仕事になる。だが、外国の品物は滅多に流通しない。希少性があり、高額で売れる可能性が高い。商人の端くれなら、挑戦してみたい仕事ではあるだろう。


 結界はあるが、他国との取引がすべて禁止されているわけではない。そういう法律は制定されていないからだが、建国当初には他国との接触を想定していなかったのかもしれない。

 歴史としては、建国以前には西側から何度も攻め込まれ、時には支配されたりもしたと記されている。

 その状況を変えたのが、始祖であり、初代王なのだ。


 禁止されてはいないものの、許されているというわけでもない。

 結界を張ったことから、始祖と初代王は、他国との交流を原則禁止したと考えられている。言い伝えによると彼らの生きている間は禁じたということらしい。時を経て状況が変化すれば、結界を解くことはあり得ると。

 結界は「大いなる御業」と呼ばれ、始祖の成しえたこととされている。学院で研究する学者たちも未だに何の力が作用しているのかは突き止められていないらしい。肝心の部分は王家が秘匿していることもあって、研究は進んでいない。だから、本当に結界を解くことができるのかは疑問なのだが。


 他国との取引は、結局時の政治の判断に委ねられることになる。それで、夏財と、その後ろ盾になった羅州侯は真っ先に王に謁見を求め、献上品を差し出した。交渉で得られた多くのものを、まず商売ではなく、お墨付きを得るために手放したのだ。


 雷男爵は、銅鑼島の領主だから、銅鑼島に入ってくる舶来品を調べ、差配する権限を持っている。結界がない地域は銅鑼島のみの現状では、唯一の権限のようにも思えるが、他の地域で手に入れた物であれば管轄外になる。

 碧旋は雷家所縁の者ということだが、未成年なので、当主ではなく、銅鑼島の領主ではない。

 それでも、緑の糸に関心があったということだろうか?それとも、自分たちの権限を侵されたように感じたのか?


 「銅鑼島でも、緑の布が入ってきたことがあった」碧旋の言葉に、昇陽王子が反応する。

 「それは初耳だな。羅州侯のように、王家に献上しようとは考えなかったのか」「当初はそのような話も出た。持ち込んだ商人が、申し出ていたから」「ではなぜそうなっておらぬ」

 「持ち込んだ奴が死んだからだよ」


 その場にいた全員が息を吞んだ。

 「なぜだ?」

 「はっきりしたことは言えない。ただ、予測していることはある。恐らく布のせいだ」

 「緑の布のせいで?」夏瑚が呟き、その響きを自分で聞きとって、体が反応した。震える体を自分で抱きしめる。

 「布のせい?毒でも染みていましたか。一体何が目的だったのでしょう」盛墨が首をひねる。


 毒を布に染み込ませて、暗殺するという方法は耳にしたことがある。

 偉華は戦争はないし、反乱なども現在の王家の治世になってからは起こっていない。

 貴族の間での小競り合いはあるが、王家が睨みを利かせてきたので、大事にはならずに来た。戦闘らしい戦闘は滅多にないということだ。

 しかし暗殺は別だ。表立っての戦争がない代わりに、貴族の間でも用いられてきた。突然亡くなり、死因が公表されなかった高位貴族の例は、ぱっと思いつくだけでも片手では足りない。


 しかし暗殺者であれば、毒の扱いはわかっているはずだ。その毒にやられて自らが死んでしまうなど、暗殺者失格である。

 ましてや、その商人は、特に誰も道連れにすることなく、一人で死んだと言う。

 暗殺なら、当然対象者がいるはずだ。その対象者に毒が届く前に死んでしまうのは、もはや暗殺の態をなしていない。


 「我が家でも緑の布は保管したが、幸い被害は出ていない。初めから商人の様子がおかしかったし、通関手続きの最中に倒れたので、その荷はかなり慎重に扱ったからな。今も調査中だが、緑の布、染料が原因だと思う」

 夏瑚は学園に残してきた自分の長着を思い返した。父に贈られた緑の糸で刺繍した長着だ。

 父が手に入れたのは、献上した緑の布と、緑の糸だ。半分は献上したとの話なので、あとは布も糸も同程度はまだ所持しているということだ。


 明月王子はあの布を気に入って着用していた。その時、自分も近くにいた。多くの侍女や護衛なども傍に控えているだろう。

 「第一王子には着用を見合わせるように伝えた。説得が難しかったけどな」碧旋が渋い顔になった。さすがの碧旋もあの自称王女には手こずったようだ。   

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