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侯子と義妹のあれこれ1

 だから平民であっても教育を受け、豪商の資金力を持った夏瑚を貴族社会に招き入れることになったのだ。




 学園は貴族しか入学できないと言ったが、正確には王族しか入学する資格を持たない。


 この場合の王族とは、王とその家族を指すのではなく、広く王の血統と認められている公爵家と侯爵家を指す。事実公爵位は王弟が臣籍降下する場合に与えられる爵位であり、臣下の中では最高位であって王位継承権を保持している者もいる。直系が途絶えた場合、養子をとることは許されておらず、途絶えることになる。それだけにその血統は疑いようがない。


 それに対して侯爵は、王位継承権を持つことはない。養子を取ることを許されているので、家が途絶えることはない。血統で劣る代わりに優秀な養子を入れ、重要な役職を務めたり、王家を始めとする有力な家と繋がりを持って、権勢をふるうことが可能となっている。


 羅州侯にも実子が二人いるが、学園に入学できなかった。長子の劉慎は試験を受けたものの、不合格だった。


 その劉慎が夏瑚の側近として学園に随行したのは、合格者本人以外に側近一人だけ、授業に参加することが可能だからだ。側近は合格者の補佐をする関係上、合格者の身代わりが務められることが理想とされる。これも抜け道の一つであり、優秀な養子に実子を付けて教育を受けさせ人脈を築かせるのだ。




 正直なところ、劉慎は養子を迎えることを面白くは思っていなかった。優秀な養子を必要とするということは、実子が無能ということではないか。事実、劉慎では合格できなかった。


 「お前は優秀さと言うものをまだわかっておらぬ」羅州侯は唇を噛み締めて目を光らせている我が子に語りかけた。「我らは人間に過ぎぬ。全てにおいて優れているという者はいない。お前もそうであるというだけだ」


 「それくらいわかっております」劉慎は言い返した。「ですが、その者は合格し、私は合格しなかった。それは一つの優秀さの証でしょう。たった一つの面であったとしても。そうであるからこそ、高等な教育を受けることを許されたのです。そして、周りの者はそう判じます」


 「それはそうだろう。だが、それに抵抗を感じているのはお前だ。その者が優秀だと認められぬのはお前ではないのか?」「その女は『聖母』でしょう。優秀であるということとは違うのでは?」


 「優秀でないなら、お前が不合格だった学園に入学資格者となれるのか?お前はまだまだ学ぶべきだ。その機会を与えてくれる『聖母』に感謝せよ」

 劉慎は自分の矛盾に気づいて黙るしかなかった。

 



 『聖母』は正式に侯爵家の養子となり、手続きを終えて、入学の二月前に侯爵家に入ることになった。

 劉慎は知らなかったが、もっと以前から話だけはあったようだ。そして羅州侯は学園に合格することを養子とする条件として課したらしい。『聖母』であるだけでは、養子としては不十分だという考えだったのだ。それも、今期の入学が必須だった。


 劉慎は受験回数に制限を付けられなかった。年齢としては、「成人していないこと」という決まりがあるので、大体十七歳までが限界だ。それまでは受け続けることができる。


 『聖母』は十三と聞いた。豪商の娘と言うから、普通の平民よりはよい教育を受けているだろう。下級貴族並みと仮定しても、入学試験を受けるのは二回目程度のはず。

 特に今期までと言う条件で、父の狙いがわかった。

 同時に父はずいぶん『聖母』に期待をしているらしいと思った。


 けれどその期待を口に出して言うことはなく、『聖母』がやってくる日も、侯爵は不在だった。「お前に任せる」と言われ、劉慎はまだもやもやとしたまま『聖母』の一行を出迎えた。




 『聖母』という能力がどういうものなのか、知識としてはあったものの、実際に会ったことはない。平民階層に生まれた『聖母』は、大抵教団や寺院に囲われることが多いと聞く。


 劉慎は侯爵の長子で、兄弟は次子一人だ。侯爵家の下働きや見習いに未成年者はいるし、貴族の子供同士の交流はそれなりにあるが、もちろん皆まだ未分化であり、性別のない状態なので、女であり、未成年であるという『聖母』には違和感を感じる。


 『聖母』は侯爵家の紋章が施された馬車に乗って、侯爵家の正門をくぐった。箱形の、一番頑丈で中が一切見通せない型の物だ。侯爵家の護衛が、馬に乗って並走している。馬車の前を一人、馬を走らせていた男が、馬留で馬から降りて、劉慎の前まで歩いてきた。


 馬車はそのまま、劉慎たちが待つ、正面玄関の前まで走ってきた。馬車が止まると、歩いてきた男が劉慎に向かって膝をつき、拱手を頭まで掲げて俯いた。


 「羅州侯劉遠が第一子、劉慎と申す。そこもと、名乗られよ」「有難き仰せにございます。私は海州の商人、夏財と申します。侯子様にはお初にお目にかかります。以後、お見知りおきを願います」


 さすがに豪商と称されるだけあって、挨拶は完璧だ。侯爵本人ではないのに、いささか丁重すぎるきらいがあるが、重要視されているようで、悪くない。まあ、これが商人の手なんだろうとは思う。


 夏財自身は細身の地味な容貌の男だった。ありふれた黒髪で、整ってはいるものの、貧相な印象がある。大人しそうで、小さな店をやっているような商人に見える。


 劉慎は気を取り直し、「歓迎する。この度は、我が妹の付き添いを務めてくれたのだな。して、妹は」と言った。「こちらにおわします」夏財は立ち上がって馬車の扉を開けた。劉慎の妹になった人物が姿を現した。  

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