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授業の合間5

 「姉上、そのへんで」夏瑚の様子を見かねたのか、昇陽王子が割って入った。「王族があまり積極的に好意を示すのは、相手にとって荷が重いよ。知ってるくせに」「だって、この子、震えたり固まったり、面白いんだもの」ころころと笑う明月王子に、夏瑚は一瞬殺意を覚えた。

 「他にも見るものがあるよ。そっちに注目。彼女は放してやって」昇陽王子は明月王子の肩を軽く押し、模擬戦のほうに視線を向けさせる。

 「殿下は救世主でいらっしゃいます」夏瑚が両手を組み、恭しくお辞儀をすると「あなたも感情を表に出さないようにお気を付けを。隙を見せないように、劉侯子、指導すべきです」冷ややかな一撃を食らった。


 壁際に昇陽王子と側近の関路、乗月王子と側近の扶奏、盛墨公子が集まっていた。盛墨公子は見覚えのない護衛を連れている。盛容公子は授業に参加していると聞いたので、模擬戦のほうを眺めてみると、武装した群れの中に、姿が見えた。

 盛容の隣に華奢な人影が見え、意外に思っていると、「ずいぶん細いのがいるね。あれか、乗月のお目当ては?」明月王子の大きな声が響く。

 確かに見直してみると、碧旋だ。相変わらず寝間着のような粗末な衣を着て、力の抜けた様子で突っ立っている。でもあの容貌では見間違えようがない。

 盛容がしきりに碧旋に話しかけ、傍らにいた近衛らしき講師が頷くと、碧旋と盛容は連れ立って歩き出す。武装した他の護衛たちも講師とともに二人と逆方向に歩き出し、距離を取った。

 護衛たちが列を作って見守る中、盛容と碧旋が手を合わせて、挨拶を行う。模擬戦の始まりだ。


 碧旋の強みが速さにあることは一目でわかった。

 走る速度はもちろん、動作の一つ一つが素早く、無駄がない。

 対する盛容も遅くはないが、碧旋に比べれば鈍重だ。だが、一撃一撃に力がこもり、離れていても振り下ろされる剣の勢いはなかなかだった。模擬戦なので、やや手加減はあるだろう。一撃必殺とするわけにはいかないのだから。


 碧旋は盛容の攻撃をまともに受けない。流し、躱す。まあそうなるだろうという展開である。

 「顔は女みたいなのに、腕はなかなかね。あれだけの腕前だと、そっちの方面を希望しても不思議じゃないけど、そこのところ、どうなの?」明月王子が肘で乗月王子をつついた。

 「そんな話はしていません」乗月王子は小さな声で答える。「出会ったばかりで、そんな話をするような段階ではありません。一年間共に学ぶわけですから、よい関係を築きたいとは思っていますが、それほど話をしたわけでもないのです」

 「駄目ねえ。父親を見習いなさいよ。気に行ったら、即座に寝台に連れ込むんだから、豪の者よ、あれは」

 夏瑚は叫び出しそうな自分の口を両手で押さえる。なんてことを言うのか、この王子は。完全に不敬罪だ、今のは。劉慎が斜め後ろを向き、喉を詰まらせたようなくぐもった音を出す。

 「姉上、ここでは。目下の者が困惑します」乗月王子は囁くが、視線は碧旋を追っている。

 明月王子は肩を竦め、もう一人の弟を振り返った。「あんたは覚えてる?」昇陽王子は微かに頷いた。


 三人の王族が模擬戦を黙って観戦し出したので、ようやく夏瑚も気持ちを落ち着かせた。

 第一王子と知り合うとは想定外だが、特に問題はない。今後珍しい商品などを強請られたりするかもしれないが、父の商会にとっても利はある。

 侯爵家としても、王族と誼を結べ、王子の情報を得られた。第一王子の最近の情報は得ていなかったのだ。王女を名乗っていることは王位争いに加わらない証だが、残る二人の王子のうちどちらを支持するのか、また、王家と縁づくにはどの家が好ましいか、など、発言力が物を言う場合も考えられる。

 計算上はそういうことだ。但し正直な気持ちとしてはとにかく疲れる。


 「なんだ、兄弟そろって、見学か?」盛容が模擬戦を終えて、王族の集団に近づいてきた。その後ろにも護衛たちがぞろぞろとついてきている。王子たちの護衛と、盛公子たちの護衛のようだ。さらに夏瑚たちの護衛もいる。全員恭しく膝をついて挨拶をする。公式の場ではないので、直接つながりのない受講者は挨拶には来ないが、ちらちらと視線を送ってくる者もいる。王族の目に留まれば、出世できるものね。

 「そうよ、いい男を探しにね。容兄も腕を上げたわね。騎士団に入る気?」「それもありだな」明月王子の科白に、盛容はあっさりと返す。公爵位を継ぐのかどうかという探りにも聞こえるが、盛容は気にしたようでもない。本当にどちらでもいいのかもしれない。


 「おいおい、あいつがお目当てなのか?ずいぶん露骨だな」昇陽王子と乗月王子が挨拶するのを、盛容はしかめっ面で返す。乗月王子の視線が碧旋のほうに逸れているからだ。

 「そんなに気になるのか?確かに美形だし、腕もいい。成人して男になったら力がついて剣圧が増しそうだ。近衛にいいんじゃないか」「彼は正学生ですよ」昇陽王子が窘める。「侯爵家にも彼自身にも希望があるでしょう。他の能力も見てみたいですしね」


 剣術を修めているのならば、王子たちの側近志望の可能性もある。碧旋が美形なので妃候補かとも思われたが、正学生であれば優秀ではあるのだろうし、男になれば十分に可能性がある。その場合は侯爵家嫡子である顧敬の立場がどうなるのか、という問題が生じるのだが。 

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