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授業の合間2

 「なるほど。ええと、収穫物を一定の割合で納めているんですね。土地の広さから税率を決めているんでしょうか?収穫量からではないんですか?」

 国法で定められているのは、収穫量のはずで、それも一定の基準を下回れば免除されるはずだ。「表向きはそうだ。だが、面積で基準となる収穫量を仮定し、固定で税収を決めているところもある。いちいち計算せずに済むので、収穫量が毎年それほど上下しない場合はよく使われているな。しかし、そうではないようだ。年ごとに税収が変わっている」


 劉慎が帳簿を覗き込みながら、つぶやく。夏瑚も首を伸ばして数値を見る。米も麦も収穫される地域は、偉華の中東部に多い。基本的に南部が米、北部が麦を主食にしており、中西部は一部が砂漠地帯なので、あまり農耕は盛んではない。北部の辺境は麦と芋であるが、牧畜が占める割合が大きい。

 「中東部の集落でしょうか。そのあたりは、実りが豊かだと思っていましたが、年々税収が減っているようですね」

 「そうだな。大きな落ち込みと言うよりは、少しずつ減っているな。いや、納税者が減っているのだな」耕作面積と並んでいる名前が、年を追うごとに消えていっている。

 帳簿の後半には、労務記録があった。これは労役と言って、税金のように年に数日労働を義務付けられている者が、いつその義務を果たしたのかを記録したものだった。これは実際に労働をこなしてもいいし、代わりに金を納めてもいい。代理の者に依頼してもこなしたことになる。都会では金で済ませる人が多いらしい。そちらの記録を見ても、年々納税者が減っていることがわかる。


 「どこの領地にも僻地はあるし、人口を保つのは容易ではないからな。もともと小さな集落だ。一度減り始めると、取り戻すのは難しいだろう。領地の経営は一筋縄ではいかない」劉慎の言葉に夏瑚は頷く。「故郷の海州でも、過疎の漁村がありました。父が若い頃、巡回していたようなのですが、引き継いだ兄が、いつ巡回を打ち切るか悩んでおりましたわ」「巡回商人が訪れなくなれば、いよいよ生活に支障をきたすからな」


 劉慎が溜息をつき、夏瑚が言葉を繋げようと口を開きかけたとき、「夏瑚様、劉慎様。お客様がお見えです」姫祥がやや強い口調で告げた。

 劉慎が眉を顰め、「何の予定もないが」きつい口ぶりで言う。侍女が主たちの会話を邪魔したような間合いになったことを咎めているのだ。しかし、何の意味もなく割り込むとは思えない。「どなたかしら?」夏瑚が問い返すと、「第一王女様だそうです」という答えが返ってきた。

 

 全く予想外の答えに、一瞬頭の中が真っ白になった気がした。

 次に様々な疑問が勢いよく湧いてくる。

 まず今現在の王族に、「王女」はいないはずだ。基本的に王の子供は皆「王子」である。全員が成人するときに男になるからだ。これは王族が絶えるのを防ぐためで、いくら後宮を持って複数の妻を娶っても、一人の妻が一人か二人の子供しか産まない状況なので、そう定められている。


 神話の中の古い神々ならば何百、何千人もの美女を侍らせて、数十人の子供を得る話もあるけれど、現実の王の妻は多くとも十人を超えない。もっとも正式な妻にはなれなかった、所謂「お手付き」の身分の低い女性はもっといるだろうけれど。貴族でなければ、子供を身籠らない限り後宮には入れないし、そういう女性の子供は成人するまで後宮で非公式に育てられる。もちろんきちんとした教育は受けられるが、公式に王族として籍に入るのは成人してからになる。

 いくら非公式とはいえ、王子なので、十分な環境で育つはずなのだが、後宮での子供の死亡率は案外高い。それについてはいろいろ黒い噂がつきものだ。庶民でも貴族でも、はたまた王族でも、五歳を超えるあたりまでは、子供が大人になれるか定かではないものだけれど。


 どこの家系でも血統が絶えることを恐れるが、王家はそれが至上の命題となる。子供はすべて男にし、直系が絶えても傍系が繋げるようになっている。そのせいで、王位争いはかなりあるようだ。ただ、あまり平民のところまではそういう話はつまびらかにされない。成人した王族でも、突然の病に倒れ亡くなったり、静養のため表に出てこなくなったりという噂が珍しくないのは、どこまで真実なのか。


 現在の王の子供で、成人していると言われているのが第一王子だけだ。

 ただ、あまり公式の場には出てこないと聞く。公式の場とは、ほとんど政治の場であり、当然未成年が参画するような場ではないし、成人したての青二才にもふさわしくはないが、王子であれば、少しはそのような役目を受けて、少しずつ公務をこなしていくものではないだろうか。

 第二王子と第三王子がともに健康や能力に問題がなく血筋も立派なので、第一王子には注目が集まっていないのだろうと思っていた。

 第一王子の生母は男爵家の令嬢だというのは表向きで、実際は王宮の下働きだと聞いたことがある。身籠ったので、慌てて貴族の養子に押し込んで最低限の体裁を整えたのだろう。その噂を聞いた時には不敬な思いを抱いたものだ。

 生母の身分が低いので、当然後ろ盾がなく、あまり学問や政治には関心を示されないという話だった。下手に頑張っても無駄になりそうだからかな、と思ったのだが。

 まさか。

 夏瑚と劉慎が顔を見合わせた。 

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