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公子の兄3

 よくわからないのは昇陽王子も同じだ。

 幼い頃、昇陽王子には「脳筋」と揶揄われたことがある。どういう意味か分からなくてしばらく考えていたが、護衛の一人に教えてもらい、なるほどと納得した。次に会った時に「その通りだと思う。でも、それだけではいけないと思うから、少しずつ勉強しているよ」と真面目に言ったら、一瞬呆れた表情になりながらも謝られた。「周囲の人間に、いろいろ比べられて腹が立っていてね。侯爵家の誰々は勉強をよくする。公爵家の何某は剣術をよくする。他の人間の長所ばかり並べて、それに負けないようにはっぱをかけられるんだ。『負けたくないならお前がやれ』と言い返したけど、それでやめておくべきだった。お前に八つ当たりすべきじゃなかった」

 その頃の昇陽王子は、生意気な子供だったが、盛容は嫌いではなかった。「俺は別に王位なんか欲しくない」と言っていた。「だから取り繕う必要もないんだ。けど、乗月は王位に就くつもりがあるみたいだ。だから、一生懸命猫を被ってるんだ。まあ、俺ほど反抗的な性格でもないみたいだし」


 久し振りに会った昇陽王子は、猫を被っているようだ。うっすらと胡散臭い笑みを貼り付け、黙って周囲を観察している。乗月王子は前からよくわからなかったが、昇陽王子は変わってしまってわからなくなった。

 いや、数年会わなかったのだ。子供が大人になっていく時期に変わらないはずがない。

 それにまだ、顔を合わせただけだ。これから話す機会もあるだろう。

 盛容は気を取り直して、講師陣に注意を向けた。



 剣術の授業は、近衛を引退した騎士たちを講師に行われた。数人で現れ、中には東夷流でない流派の剣術を修めた人もいるらしい。兵科校を卒業した盛容にとっては懐かしいような内容だ。それくらい、兵科の授業に近く、かなり本格的な授業だった。

 参加するほうは、貴族の護衛、側近、正学生でも剣術を身に着けたい者が参加している。貴族の護衛よりは騎士のほうが公的な地位が認められており、ある程度出世すれば爵位が授けられることもあるので、騎士にはなれなかった者が護衛になっていることが多い。

 側近や正学生は、ほとんど剣を扱ったことがないという者もおり、修練度合いが違いすぎるので、一人一人の力を測りつつ、班分けをすることになった。

 盛容は経歴を聞かれただけで、すぐ最上級の班に割り振られた。兵科の卒業生なのだから、現役騎士にはかなわなくとも騎士団に入る程度の腕はあるはずという判断だ。


 相変わらず着古した上着と下穿き姿の碧天は、ひとりで体をほぐしている。碧天ははじめ、正学生だということで初心者の班に入れられていたが、木剣を握った姿勢を見た講師の一人が声を掛け、しばらく碧天の動きを見守った。そして、上級者の班に移動させられた。

 「よ」盛容が片手を上げて挨拶すると、碧天が拱手で応じる。笑顔はなく、真剣な表情だ。「こっちに来ると思ってたよ。どこで剣を修めた?」「地元です」応じる言葉は短い。かなり集中して、鍛錬するようだ。

 班分けを待つ間、上級者たちは既に型の稽古に入っている。それを見て、他の班の者も基本の型から鍛錬を始めた。班分けが終わると、講師たちは主に初心者について、型を教え始める。一人だけ、経験者や上級者の班を回って、型の崩れを指摘したり、改善点を挙げたりしている。


 さすがに上級者たちは型の訓練はお手の物のようで、さっさと終えてしまった。その後、自分なりの鍛錬を続ける者、講師に模擬戦の許可を取りに行く者、体を休める者、周囲の人間に声を掛けて話始める者と様々だ。

 盛容が見るところ、上級者に分類されていてもその実力はまちまちだ。

 碧天は、基本の型を終え、馴染みの薄い型を始めている。見慣れないが、どこかで見たような気もして気になる。盛容が近づいていくと、護衛の一人が「それは何だ?東夷流でそんな型はなかったと思うが」と聞いていた。

 「個別の型だ」盛容は二人の斜め後ろから声を掛けた。護衛は振り返って、しばらく盛容の顔を見た。思い当たったようで、拱手をして会釈をしてきた。碧天は瞬きをしただけだ。

 「個別の型とは?」護衛は盛容の顔色を窺うようにこちらを見る。

 基本の型は、初歩であり、入門したらまず教わるものだ。東夷流の師範が騎士団などに出稽古に赴いた際にも、伝授する。つまり汎用性のある型なのだ。

 初歩から正式に入門し、初級の間は師範代に教わる。初級を卒業し中級に進むと、師範に稽古をつけてもらえるのだが、その際に当人に合った型を教わるのだ。

 盛容のような筋肉質で、頑強、性格は素直で稽古を厭わない気質に合った型を組み合わせる。本人に、自分の利点、欠点を考えさせて長所は伸ばし、欠点は克服するのかそれとも逆手に取るのか、師範と相談しながら決めていく。師範が判断した性質と、本人の希望や認識から、例えば筋肉の弊害として体重が重くなりがちで動きの鈍くなる点をどう立ち回るのか、欠点をできるだけ小さくするには何が必要か、を考える。そのうえで必要な型を教えてもらい、鍛錬するのだ。

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