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火の玉6

 「つまり、狙いは我々女主族だと、喧伝している、と」応族長が呟いて、にやりと笑った。

 「まあ、犯人が単独か複数かは判断できないが、少なくともそれは確かだろう」昇陽王子が応じると、「だとすれば、こちらも全力で対応しなければなりませんな」応族長の目がぎらぎら光っている。

 「助力は」「お願いいたします」応族長がが恭しく礼を取る。

 流石だな、と思う。指導者は危険に遭遇した時こそ、気を強く持つ必要がある。危機に立ち向かっていく気力を持てる人でなければならない。


 「単独かはわからないが、少なくとも今日の火は軍人としての訓練を受けた者の『火花』だ。女主族としては心当たりはないか?」

 「ないね」族長は即答し、栗副官にちらりと視線を送る。「少なくとも隊の中にはおりません。過去にもそのような兵士はいない」

 「『火花』持ちは」「それはいたと思う。数人だが。今もそれなりにはな。だが、精々薪に火を付ける程度のものだ。訓練もしていない」


 「それは勿体ないな」盛容の声は大きかった。「せめて訓練くらいは受けさせたほうがいいぞ。向いている奴が一人くらいいるかもしれん」

 「望んでいないから軍務についておらんのだ」族長は冷たく跳ね返す。「兵士になるつもりがない者も、自分たちを守るために戦闘訓練は参加している。それもできない者は、戦闘行為が不可能だから参加できないんだ」族長は大きく息をついた。「それに、指導できる人間もおらんのだ」


 「む。それもそうか」

 「女主族の内部と言うより、敵対している者に『火花』持ちがいるかどうかだ」碧旋が言う。「それはかなり難しい調査になるな」昇陽王子が渋い表情になる。

 夏瑚には『火花』持ちがどれほど多いものかはわからない。『六感』持ちは、十人に一人か二人、その中でも『火花』は4~5番くらいの多さと言う。百人に一人いるかいないかと言うところか。しかも、戦闘に使える『火花』はさらに少ないだろう。


 ただ、軍人の『六感』持ちの率は高い。

 軍人として訓練された者らしいので、軍籍を調べるのが一番速そうだが、そんなものは非公開が当たり前で、この面々がいくら高位貴族の集まりでも、自領以外の軍籍などは調べられない。

 「地道に情報を集めるしかなさそうだ」とうんざりしたように扶奏が言うが、夏瑚も同じ感想を持った。


 結局一番可能性がありそうなのは、女主族との接見申請の名簿だろうと言う。

 基本的に外部の人間と女主族との接点は、子供を持つための見合いと、禅林への出向くらいしかない。支所での役人とのやり取りや、物資の納入作業などもあるが、納入作業は大体同じ商会の同じ職員が担当する。役人とのやり取りも、多くは禅林の役人が多いそうだ。

 「こちらは人員が少なく、初回の申請は禅林の役所で代行してもらっていますので」とのことだ。


 「同じ人間、もしくは同じ集団の行為だとしたら、それなりに時間をかけて実行しているわけだ」「かなりしつこい性格だよな」盛容は呆れたように言う。

 「執着しているとすれば、かなりこじれた感情があるような気がします」盛墨が言うのに、「お前にはまだわからんだろ」と盛容が突っ込み、「兄上よりわかりますよ。母上にも兄上は女心がわからないと始終言われているではありませんか」と言い返されていた。


 女主族の持つ名簿の類を調べるのは、族長たちに任せるとして、両殿下に期待されているのは王都から調査官と援軍を呼ぶことだ。

 正式に国軍の派遣を要請しても、すぐには応じてもらえない。まず調査官が派遣されてくるはずだ。その調査官には補佐と護衛として、一個小隊ほどの兵士が随行する。

 「それだけで足りるか?」昇陽王子はやや不満そうだが、「すぐには無理だろ。これ見よがしに国軍の徽章を晒して巡回させれば、抑止にはなるんじゃないか」と碧旋は案外現実的なことを言う。


 「そうですな、国軍と事を構えるのは避けたいと考えるでしょう」国軍に所属する兵士を傷つけたら、その時は勝利してうまくしのげても、国軍にずっと追われることになる。偉華のどのような組織でも、国軍の組織が本気で追い続ければひとたまりもない。

 「いずれ国軍が出てくる可能性を考えると、真っ向から仕掛けてくるとは思えん。だとしたら、速めに最後の一手を放って逃亡するか」昇陽王子の後を碧旋が引き取る。「破れかぶれになって自滅するか、だな。一人で自滅するのはよいが、巻き添えを食らう可能性がある」

 「劣情が絡めばその可能性は高い」扶奏が吐き捨てる。


 「私たちでどうにかできますか?」乗月王子は不安そうだ。「ご心配頂き恐縮です。ご助力いただければ、大丈夫です」応族長が礼を取る。

 ここで話し合うよりも、そろそろ行動に移すべきだということになり、夏瑚たちは宿に引き上げることになった。族長も女主族の資料に当たらなければ手掛かりがつかめない。

 既に王都には知らせを送っている。他にもできることはないか。

 「うちから手の者を呼ぼう。護衛に当たる者が増えれば、我々も固まって行動する必要が無くなる」と盛容が言い出す。「それは良い。では、盛家と顧家に頼む」距離的に他の家では時間がかかりすぎる。

 「禅林の代官や領主にも連絡をしたほうがよいな。族長もすると思うが、こちらからも一報を入れよう」 

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