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火の玉1

 後から考えれば、夏瑚は間抜けな反応をしていたと思う。碧旋の言葉の意味が分からず、ぼさっと突っ立っていた。姫祥もきょとんとしていたが、劉慎が二人の前に立ちふさがり、王子二人の方向へと押しやった。

 「盛墨もこちらへ」昇陽王子が声を掛けたのは、流石守られていることに慣れた王子らしい配慮だ。

 対して、盛容、扶奏、碧旋の3人は火の玉を視界に入れながらも、周囲の人間の行動を監視している。軍人寄りの教育を受けたと言っていた盛容は火の玉にも周囲を警戒することにも慣れている。碧旋は幼い頃から海賊との戦闘の経験があると話していて、戦闘の指揮経験もあるらしい。

 文官のはずの扶奏は、王子の側近としての訓練に、いざという時王子を守るための行動はしっかり把握しているようだ。


 それに比べると、劉慎と顧敬はどちらの行動をとるか、決めかねていた節がある。とはいえ、劉慎はまず身内である夏瑚たちを庇い、その後王子たちとまとめて守ることに思い至った。

 本来なら侯爵家の跡取りである劉慎は、守られることの方が多かったはずだ。半面、時には守る側になることもあることから、それなりの訓練はしている。それを思い返しながら、行動しているので、どうしても護衛役が板についた面々よりも反応が遅い。

 顧敬に至っては、警戒すべき状況そのものに不慣れなのだろう。終始まごまごしている。ただ、いろいろ反省しているのは本当のようで、王子だけでなく、碧旋の指示にも従おうとしていた。


 警戒する夏瑚たちをよそに、火の玉はどちらかと言うとゆったりした動きで宙を移動する。その軌道を計算した盛墨が、「あそこに着火します」と指さす。

 その方向を見定める。「あれは、支所の屋根か?」昇陽王子が呟く。間に別の建物や街路樹があって、見通せないのだ。


 「そのようですね」盛墨が答えた。「支所の様子を偵察に行け」昇陽王子が肩越しに護衛の一人に命じる。護衛はもう一人と連れ立って、駆け去った。

 「他には見当たらぬか?」「今のところ、他はない」「どうする、宿に戻るか?」盛容が周囲を窺いながら昇陽王子に問う。

 夏瑚が見たところ、挙動の怪しい者も見当たらず、火の玉も一つだけで、危険はなさそうだ。


 夏瑚はそれについて詳しくないので、危機感がなかった。

 軍事に関わりのある面々からすると、警戒するのも無理はなかった。

 

 火を生み出す「六感」がある。

 「六感」は様々なものがあると言われている。

 そしてその多くが秘匿されているとされている。「六感」を判定するような方法がないからだ。本人が隠していれば、なかなか他人にはわからない。

 まず第一に「六感」を持っていない者のほうが多い。そして大抵の「六感」持ちは自分の「六感」を隠すとすると、ほとんどの人間はそれがどういうものか見たこともないのだ。

 噂にはなるので、いろいろ風説は流れるが、それが正しいものとは限らない。正しい情報であっても、信じられない状態である。


 例外なのが軍隊である。

 一番一般的な「六感」であると言われているのが俗に「身体強化系」と呼ばれる「六感」である。

 力が強い、足が速い、遠くの物音を聞きとれる、など体の機能を高めるような能力だ。これらは実際生活や仕事に役立てることができたり、他の人にも理解されやすい能力なので、受け入れられ羨ましがられたりする。力仕事や軍隊などでは優遇されることも多いのだ。


 軍隊でははっきりと「身体強化系六感」を持つ者を優先的に採用し、優遇している。だからそういう「六感」持ちが軍にはたくさんいるし、そのため軍には「六感」について正しい情報の蓄積があった。

 他にも教会などで別の「六感」を集めていたりするようだが、それは公表されていないので詳しいことはわからない。夏瑚たちは姫祥のことがあるのでそれを知っているが、劉慎たちにも明かしていない。


 軍から王家にも情報が挙げられている。各貴族も、領軍などで情報を蓄積しているはずだ。盛容は自領の軍に関わっており、領主の嫡男なので、当然情報を得ている。

 王子もそのような情報を手に入れることができる。劉慎たちも得ようと思えば可能だろう。

 碧旋も自領で隊を指揮していた関係から、ある程度の情報を知っているのだろう。男爵家の軍は小規模ではあるが、その特殊な立ち位置から、他の領の情報も収集しているはずだからだ。


 軍でも特に扱いが難しいとされている「六感」が、「火花」だ。

 この「六感」自体はそれほど珍しくない方だ。恐らく「剛力」「速駆」の次くらいには、多いのではないか。

 でも、その多くは殆ど珍重されない。

 「火花」は文字通り、一瞬火花を散らすことしかできない力だからだ。


 台所で火をつける程度にしか役に立たない、と言われていて、実際そういう人が多い。また、そういう人は自慢もしない代わりに隠そうともしないことが多いので、「火花ってその程度の物」と思われている。

 けれど、実際にはそれよりも大きな「火」を出せるものも存在しているのだ。

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