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支所の見通し2

 もともと男性優位の偉華では、男性化を希望する者が多く、教会はそういう思いも成人の儀に影響があると認めている。

 半面、神の思し召しとも説明されている。どうしても男性に向かない人間がいるらしい。女主族の中でも男性化する人間が存在するのだから、女性に向かない人間もいるのだろう。

 いったいどこまでが人間の意志で、どこまでが神の思し召しなのか?


 夏瑚が特に問題だと思っているのが、その成人の儀を司ることで教会が持つことになった影響力だ。

 もし、それが形式だけの儀式だとしたら、教会だけでなく、他の宗派の寺院でも成人の儀は行えるはずである。

 過去には成人の儀を試みた寺院もあったらしい。しかし不成功に終わった。聖別院の教えでは、そのような寺院には雷が落ちたり、そこの僧侶が死んでしまったりと天罰が下ったと言わんばかりの逸話を語っている。


 実際はそれほどのこともなかったようだ。特に天罰らしいことは起きなかったものの、男性かも女性化もおこらなかったそうだ。200年ほど前のことなので、ある程度記録に残っている。

 偉華が成立して200年、聖別院もその頃成立した宗派であって、それほど古い宗派ではない。

 それより古い寺院は結構存在するのだ。それらは古い神々太陽や月、山などの神を崇めているものが多い。聖別院は天と天からの使徒である始祖を祀る一派であり、成人の儀は始祖から授けられた聖水によって行われるものらしい。


 夏瑚たちの知り合いの僧侶によると、確かに聖水は存在するとのことだった。

 聖別院の教義でも、聖水は成人の儀には不可欠だとのこと。

 但し、誰にどの程度の量をどれくらいの期間に渡って与えるのか、それは秘中の秘で、各教会で成人の儀を担当する者だけがわかっていることらしい。

 教会の一番上の役職は教会長なのだが、その多くはそれ以上出世しない人間が就任していることが多いのだそうだ。成人の儀を担当しているのは儀式長という二番手の役職であり、実権を握っているのはその人間である。


 成人の儀が聖別院にとって一番広く知られた儀式であり、他にはない特徴でもある。他の宗派にはこれほど人々に影響を及ぼす儀式はなく、およそすべての宗教宗派の中で実際に神の御業を実現しているものは他にないのだ。


 「女主族の居住地の教会を尋ねることは可能でしょうか?」夏瑚は口に出してみた。

 かなり筋違いの希望だということはわかっている。今回の視察は、学園の授業のためで馬州の行政府に協力を得て実行されているから、基本的にはその行政府の管轄内での話なら通るはずだ。

 女主族については、馬州からの協力要請を受けて見学させてほしいとの希望を通してもらったことになり、これ以上の要望は出したところで叶うかどうかは族長たちの判断次第であり、場合によっては対価を求められる可能性もある。


 それに教会のような宗教施設は特権を持っている。領主の権限を受け付けないのだ。一種の治外法権である。

 完全に受け付けないわけではないが、人頭税や所得税が免除されている上に、捜査権も制限がある。教会は小さな領地であり、そこを治めるのは教会長である。族長とおなじようなものだ。

 別の領地の教会については、全くこちらの権限が届かない。犯罪などの疑いでもあれば遠回しに手を打って調査に行くこともできなくはないが、夏瑚のそれはただの好奇心に毛が生えたようなものだ。


 「要望を出してみよう」昇陽王子が躊躇いなく答えた。「断られるかもしれないが、その場合でも聴きたいことを質問してみてもよいしな」

 と言われたのに、翌日、朝食に顔を出した扶奏に「なりません」と窘められた。

 「なぜだ?」面白そうに昇陽王子が言う。「別に害はないだろう。我々は好奇心旺盛な若者なのだからな」

 「教会を敵に回すおつもりですか」扶奏が噛みつく。「扶奏、考え過ぎでは」乗月王子が弱々しく声を掛ける。


 復調した乗月王子が二日ぶりに皆と一緒に席に着いたのだが、どうも完全に回復したのではないかもしれない。

もともと昇陽王子と比べると、やや大人しい発言の少ない王子ではあったが、健康そうな顔色で、馬にも乗るし、ゆったりと歩くけれどそこそこ長い時間歩いても特に疲れる様子もなかったので、年相応に健康な王子だと思っていた。

 しかし今乗月王子と向き合っていると、何となく華奢な印象を受ける。たった二日程度寝込んだだけで痩せてしまったのだろうか。


 同じように思ったのか、碧旋が温かい羹を勧め、乗月王子がにこやかにそれを受け取っている。少なくとも気分が悪くて食欲がないということはないらしい。

 「教会を敵に回すとは?」盛容が怪訝そうに尋ねる。盛墨も首をひねる。「そのようなことも考えられると申しております。慎重に考えて行動なさるべきです」と扶奏は返す。

 「そういう経験があるんだな」ぼそりと碧旋が言い、「あるのか?」と昇陽王子がすかさず質問する。


 嫌そうな顔をして扶奏が黙る。すると躊躇いがちではあるが劉慎が「扶奏殿は宇州陶県のご出身でしたか?」と言う。

 「そうです」と切り返すように言葉を発した扶奏の顔は一層苦くなる。

 夏瑚は劉慎の質問の意味が分からず、義兄を見た。「洗礼派の本拠地、甘屯か」と碧旋が呟いた。 

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