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女主族の病7

 夏瑚が薬屋で聞いた話を説明する。

 「それは、伝染病ではなく、女性特有の生理現象に伴う症状ということだろう?それならば、案じる必要はないか」

 「しかし、それだけではないでしょう」扶奏がしかめっ面で言う。「そうだな、女性ならば慢性的にそういう症状があると言っても、夏瑚嬢しか理屈が通らない。乗月や盛墨、それに女主族と言っても子供は未分化であるはずだ」昇陽王子も扶奏に同意する。


 しばらく考えた昇陽王子は盛墨の方を振り返った。「明日、盛墨と乗月は医師の診察を受けて、相談をして欲しい。症状が治まっていても、だ。未分化でも女性特有の症状が起こり得るのかどうか。偶然似たような症状の風邪でも引いたのか」

 「薬屋にも行きましょうか。病気のことに詳しそうですし、ちょっと面白そうですから、行ってみたいです」盛墨は微笑んでいる。基本的に貴族は屋敷に医師を呼ぶものなので、薬屋には行ったことがないのだろう。

 「そうだな、乗月の具合が良いようなら、明日、扶奏と盛容の四人で、医師と薬屋へ行ってくれ」


 役所や支所によると、伝染病の流行の兆しは特にないらしい。

 一同は安堵の表情を浮かべた。

 伝染病が流行り始めると、災害のように人がばたばたと死んでいく事態にもなりかねない。その地を治める代官だけでなく、周囲の他の集落にも飛び火しないよう、領主も動く必要がある。

 かと言って伝染病については十分に対処できるわけではない。病そのものも恐ろしいが、自分たちがその病を拡げてしまうのも問題なのだ。


 「病気についての心配がないなら、課題に取り組もうか」一段落ついたところで昇陽王子が言い出した。

 夏瑚はちょっと考えてしまった。課題のことはすっかり忘れてしまっていた。ここへきたのは、学園の論科の勉強のためだ。

 昇陽王子が提案した課題は、税収の減少をどう解決するか、である。


 論議するための素材として、各地の実情を見学しているのだが、昇陽王子が用意した関田爵の荘園の一件は、一番基本的な解決法だろう。

 その土地に合った産業に援助し、育てていくことで税収と人口を増やす。地道で、即効性はない。見学した時点でも周瑶の商会に属する数人が増え、その分の所得税と商会の認可税、売り上げにかかる商会税が増えただろうけれど、莫大な金額とはいかない。

 ただ、最も正攻法であり、副作用が少ない方法である。


 対して女主族の支所を利用するというのは、劇薬だ。

 歓楽街や賭博場を利用する町は何か所か存在する。確かに税収は良いようだ。その中でも禅林は女主族の支所が唯一存在する町でもあるので、より多くの人間が訪れ、金を落としていく。

 支所を誘致できれば、すぐにでも効果は現れるだろう。


 半面、副作用が多い。治安の維持にはかなりの労力と金銭がかかる。今回のような伝染病も、この町であれば入り込む可能性も、ここから広がる可能性も高い。伝染病で街の住民が大勢死ぬことにでもなれば、統治者の責任問題にもなる。ここから他の町へと流行が拡大すれば、責任はより大きく、抜き差しならないものになるだろう。

 利権や、周囲の有力者との関係もありそうだ。例えば、歓楽街に店を持つことに利権が絡んできそうだし、どうしても酒や薬物などの厄介事を持ち込む輩が絶えないのではないか。

 禅林では、税収は増えそうだが、人口は増えるのかどうか。出入りする人口は増えるだろうけれど、定住するのとは違う。


 それに支所を設けると言っても、ここ禅林は居住地のすぐそばだ。しかし、この後誘致する場合、女主族が数名支所に出張するような形になるのだろうか。

 女主族は人口の多い一族ではない。逃げ込んでくる女性を受け入れている半面、子供は独立して出て行くこともある。それに、外部と関わりたがらない女性が多いため、支所に出張してくれる人はそれほど多くはないだろう。


 「支所を誘致したら、何が実現するのですか?」

 そもそも女主族の支所とは何のために設けられているのか?公式文書には、女主族の居住地と外部の唯一の接点であると記されている。外部から女主族と交渉するのも、女主族が居住地から出て行くのもここから出ないと駄目なのだ。

 「禅林は居住地と隣接しているからわかるけど、他のところでは、居住地と離れていて、条件が違っていますよね?」


 支所を誘致することを考えているのは、盛容たちの領地内で、子飼いの男爵らしい。

 女主族の居住地に近い集落があり、そこを女主族の瓶淀山側に拡張する計画を立てているんだとか。そこに支所を作り、交流を図るというものらしい。

 「どの程度、話は通っているのですか?」ゆくゆくは羅州を治めることになる劉慎も興味を示す。

 税収や人口の減少は、領主であれば忌避する問題である。昨今では大なり小なりどの領主も危惧している点だ。王都や、銅鑼島や禅林などのような特殊な立地の町以外は安心できない。

 「支所を出してほしいという要望を伝えただけだな」盛容が答える。「それに対しての返答もまだだ。だから条件なども全然決まっていない。男爵側の意思表示に留まっている」

 男爵のほうはそれなりに計算も計画もあるのだろう。少なくとも寄り親である公爵家に話は通っているのだから。そして公爵家から、周辺の領主や王家には内々の連絡をしているのだろう。

 根回しは終えているのに、相手からの返答はない。これはあまりいい兆候ではなさそうだ。 

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