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女主族の病3

 認可医のところは、同じような症状の患者は珍しくない。女性の方が多いが、男もいる。子供も年寄りもいる。但し、続けて受診する者はいない。

 医師のところで薬屋の場所を聞いて、二軒の薬屋を回った。

 そちらの方が特徴的な話が聞けた。


 一軒は、建物からして新しく、活気があった。碧旋が聞き込みをしている間も客が出入りしていて、なかなか繁盛しているようだった。客層は比較的若く、よそから来た男性も多いように見受けられた。

 店長は中年の男性で、愛想がいいが目は笑っていない。客の情報を出し惜しみする様子が見られた。

 ただ、この店には深刻な病状の人間は通ってきていないようだった。

 発熱や火照り、だるさなどを訴える人は多く、やや女性が多いものの、男性もいる。常連も珍しくなく、店側も深刻な病状だとはとらえていない。ただの客で、深刻になれば医師のところへ行くだろうと気楽なものだ。


 もう一軒は対照的に古い小さな薬屋だった。

 店員は老女一人きり。客が二人もいれば狭いと感じる店内に商品や素材らしき草の束や、木片、皮袋や木箱が積み上げられていた。

 それだけ雑然としているのに、それらに埃が積もっていないことに感心したと言う。

 老女は不愛想で、碧旋の質問にはなかなか答えなかったが、かといって無視するわけでもなく、碧旋の素性や目的を探ろうとしているようだった。


 碧旋はこれは正直に説明したほうがよいと思い、率直に経緯を話した。女主族に接した後、仲間が病気に罹ったようだと。それがどういう病気なのか、気になっているのだということを。

 「どの程度の接触なんだい?」と聞かれ、「一緒に飲食した程度だ」と答えると、「それならそう、深刻になることもない」と言われたと言う。


 「風邪程度だろうと」「風邪でも大勢亡くなることもある」昇陽王子が返すが、やや安堵した表情だ。「風邪が大事になるのは、栄養が行き届かず、ゆっくり養生できないからだ。我々はその点、恵まれているからな」

 「まあ、甘く見るのはまずいが、それほど心配することもない、ということか」盛容がうんうん頷いていた。


 「ただ、風邪とも言い切れないんだよな」碧旋がそんなことを呟き、それを聞きとがめた昇陽王子が「たった今自分で言ったことと矛盾するが?」と片眉を上げた。

 「症状は風邪ではなさそうだろ?咳や鼻水なんかがないし。それに、そのばあさんが、女主族の慢性病だと言うんだ」



 夏瑚の体調は翌日にはほぼ平常に戻った。出血も少ないので、ちょっと当て布の存在が気になるが、走れないくらいで、普通に歩く分には何の問題もない。火照りも収まり、怠さも消えた。

 夏瑚よりも姫祥や盛墨のほうが半日早く復活していた。

 意外だったのが、乗月王子で、夏瑚と同じく翌日には起き上がって、食卓に着いたが、まだ疲れが残っているような感じがすると言って、宿に残ることを選択した。

 当然扶奏も居残る。


 前日女主族の支所に病気について知らせ、情報をもらおうとした盛容は結局、病気について知らせるだけに留まっていた。

 約束がなかったので当然族長や副官には会えず、支所の受付には「そういう病気の話は特に聞きませんねえ」とあしらわれたようだ。

 「薬屋では女主族の病だと言われたんだろ?」盛容は納得いかないように首をひねっている。


 「死ぬような病気ではないようだから、下手に情報を渡す危険性の方を危惧したんだろう」

 昇陽王子が苦笑する。「流石に人が死ぬような伝染病であれば、こちらの情報や、禅林の役所や医師と連絡を取るだろう。女主族の対応のせいで病が広がれば、女主族の評判が下がる。女主族は自立しているとはいうが、禅林や偉華の人間を全くかかわらずにやっていけるほどではない。禅林の無事は女主族のためでもある」


 「で、今日はどうするんだ?」

 「薬屋へ」碧旋が答えた。「夏瑚が話を聴いてもらった方が良い」

 「私ですか?」夏瑚は碧旋の意図がわからず、あやふやな言い方になった。

 具合が悪くなる前、碧旋にすごく腹が立ったことを憶えている。今は怒りを感じていない。なぜその時あんなに腹が立ったのだろうと思う。碧旋が碧梓を疑うような言い方をしたので怒りを感じたのだが、そういう見方もあっても仕方がないとも思うし、ただ単に意地悪を言っているというような単純な話ではないだろう。


 自分が碧梓にちょっと甘くなっていたのかな?とも思う。出会ったばかりで、特別好きになったというわけではない。ただ、ちょっと笑顔を向けられて、嬉しかったのだろう。

 故郷を出てから、劉慎を始め多くの人と出会ったが、身分が絡み礼儀や建前が常に付きまとう付き合いしかできない。劉慎はそれなりに親身になってくれていると思うし、姫祥は昔からの仲なので息はつけた。


 それでも出会う人に対して、いろいろ身構えて接していかなければならないことに疲れていたのかもしれない。

 碧梓はそんな風に考えなくて接触できると思ってしまったのかもしれない。

 貴族の養女と言うややこしい立場になってから、いろいろ凝り固まっていた体が、ちょっと緩むような思いがあったのは確かだ。

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