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女主族の病1

 碧旋と盛墨が戻り、昇陽王子はまず、乗月王子の様子を確認した。

 扶奏は乗月王子の側から離れない。眠っている乗月王子の顔色はそれほど悪くはなさそうなので、「よく眠っているようだな」と扶奏に声を掛けた。

 「はい。体温もそれほど高くはありません。お疲れがあったのかと」

 「眠らせておいた方がよいか」


 昇陽王子は盛容に声を掛ける。「盛墨の様子を見てきてくれ」「わかった」次いで、碧旋と劉慎に「悪いが夕食の手配を頼む。消化の良いものを中心に。問題ない者は肉もいいだろうが、倒れた者は羹、煮物あたりが良いだろう」

 「戻って来た時に宿の者に声は掛けた」と碧旋が言う。「粥を用意してくれるそうだ」

 碧旋と劉慎が夕食をもらいに部屋を出て、入れ代わりに盛容と盛墨が現われた。

 盛墨は下着に上着を羽織って、帯や飾りを一切つけていないので、見るからに寝起きの姿だ。


 「気分は大丈夫か」昇陽王子が椅子を進めて聞く。「ありがとうございます。大丈夫です」盛墨の顔色はよいが、ちょっと緊張しているようだ。

 「他の二人の様子は知っているか」王子が尋ねると、「はい。二人とも目は覚ましていらっしゃいますが、本調子ではないようです。夏瑚は横になっています」

 昇陽王子は眉を顰めた。「そんなに悪いのか?もう一度医師を呼ぶか?」盛容が言うと、盛墨は頭を振る。「病気ではないのです。ただ、調子を崩されたというか」盛墨は男性二人を前にして、口ごもった。


 「病気ではない?調子が悪いのだろう?」昇陽王子が怪訝そうに聞き返す。盛容もよくわからないようだ。

 盛墨は何と説明すればよいか、考えあぐねてしまった。

 盛墨は女性ではないけれど、どちらを選んでもよいと言われ、自分の気質をよく考えなさいと見守られて育ってきた。

 盛墨は幼い頃、ちょっと体の弱い子供だった。盛容ならば、寒い外に薄着で走り出しても、特に問題なく、元気に走り回って帰ってくるところを、咳き込みながらよろよろと戻ってきて、その日の夜発熱して数日寝込むという子供だった。

 だから両親は本を読んだり、刺繍をしたりという生活のほうが盛墨には向いているのかもしれないと考えたし、十分な身分があるので女性となっても、尊重される人生を送れるだろうと思っている。

 そのため、盛墨は男性になった場合の知識も、女性になった場合の知識も教えられることになった。


 だから今の夏瑚の状況も盛墨には理解できた。普通は成人した女性ならではの現象なのだが、夏瑚は『聖母』なので、また違うのだろう。

 生理は、女性が妊娠可能であることを示す現象で、体内から数日出血する。当然、貧血を起こしたり、出血しているのだから、激しい動きなどはできなくなる。人によっては腹痛があったり倦怠感があると聞く。

 しかし病気とは違う。痛みを和らげる薬などはあるらしいが、治すものではないので、現象の間、夏瑚は養生しているのが良いだろう。


 女性特有の現象なので、男性は知識がないことが多く、女性側も打ち明けない。一般に恥ずかしいと思われている事柄だ。

 盛墨も、兄や王子の前で、説明しづらいと思っていた。

 女性同士でも、あまり言わないものだ。それをよりにもよって身内と、殿下に説明しなければならないとは。「ええと、数日安静にされていれば大丈夫かと」

 「数日か。病としては軽いものなのだな」昇陽王子がほっと息を吐く。

 「そうか。それは良かったけど、ここの滞在は一週ほどだろう?女主族のところへ行くときに、女性の夏瑚殿がいれば、何かと助かると思ってたんだけどな」残念だと盛容は言うが、まあ仕方がないか、という軽い調子だった。


 「軽いのはよいが、何の病気なのかは明らかにせねば」と、昇陽王子が言い、「そうだな。うつるかどうかとか、正しい養生の仕方とか、わかったほうがいいしな」盛容もうんうんと頷く。

 「うつるなんて、ありえません」と思わず反論してしまうが、そう言えば乳母の一人が、身近な女性が生理になると、それにつられて他の女性も生理になってしまうという話をしていなかったか?それをうつると言っていたような気がする。

 いや、例えうつるとしても、病気ではないのか確かだし、男性にも関係ない話だ。

 もし本当に生理という現象がうつるものだとすれば、女主族のところでうつるのは道理ではないか。あの医師が女主族の病に似ているというのも、納得だ。

 しかし、医師が病と言ったのだから、また異なる現象なのか?


 盛墨は自分が筋道を逸れた考えに耽っていたことに気づいて、我に返った。王子たちに女性の秘め事を話す気詰まりから、目を背けてしまったようだ。だって、恥ずかしすぎるだろう。

 どうしようか逡巡しているうちに、碧旋と劉慎が戻ってきた。碧旋が大きな鍋を持ち、劉慎が餅の籠と鶏肉を骨付きで焼いた料理の皿を持っている。碧旋は棚に鍋を置くと、すぐに出て行き、和え物や木の実と茸を炒めた料理などを運び込む。

 「粥を持っていく」と碧旋が言い、劉慎が卓の配膳を始めた。

 「では、乗月には私が持っていく」昇陽王子が立ち上がり、碧旋に教わって皿に粥をよそい始めた。 

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