表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/202

前触れ4

 盛墨は最近になって、接触することがあった。小間使いの役をこなすために、膳を運んだり給仕をしたりという作業をする必要があったので、慣れない盛墨を姫祥が手伝うことが何度かあったからだ。

 盛墨は半々、というところらしい。成人前の一番揺らいでいる状態で、こういう人は案外少ない。どちらにもなることができる。同時にどちらにも特に思い入れもなく、向き不向きもないので、決め手に欠ける。

 庶民ならば、周囲の期待に応えてしまうことが多い。跡取りが欲しいと言われれば男に、嫁に行って欲しいと言われれば女になる。


 碧旋には早々に接触する機会があった。

 しかし、判定できなかった。姫祥に言わせると、その部分がぽっかりと抜けたようになっていると感じるらしい。

 判定できない人は稀に存在するらしい。姫祥は他に知らないが、聖別院で判定員をしている者たちの間では、そういう話がされていたことがあるらしい。聞いたのは院長で、判定の仕方も人それぞれらしいので、姫祥の判定とどう違うのか、正確にはわからない。


 そういう一部の例外はありつつも、姫祥のその『六感』は確かなものだ。

 今日、姫祥は程元と碧梓に接触した。

 「二人とも、完全に女性です」姫祥の言葉に、夏瑚はちょっと考える。

 程元は実際に出産した女性なのだし、この言葉は特に不自然ではないように思う。碧梓は成人していないが、女主族が成人後に女性になる割合が多いことを考えると、女性志向であっても不思議ではない。ただ、完全に、というのは大袈裟な言い方になる。


 しかしそもそも姫祥によれば、完全に女性、という人間はいないと、いうことだった。多くの人を判定してきて、男性であっても女性の要素を少しはもっており、女性でも男性の部分があるというものだそうだ。八割が女性、男性、くらいが一番安定した状態を保つらしい。

 安定した状態というのは、健康、特に性的な能力に大きく貢献する。性的に安定していると、妊娠しやすく、出産も問題なく終わるものらしい。男性も健康な子供を作るために一番適した状態を保てるのだと言う。


 実際夏瑚自身がその八割だと言われている。その要素というのも、あくまで姫祥の『六感』による判定なので、夏瑚自身はちんぷんかんぷんなのだ。ただし、その判定結果は信用している。

 「完全に、というのは、十割ってこと?」と夏瑚が小声で囁くと、姫祥は真剣な表情で頷く。夏瑚はそういうこともあるのか、と思ったが、姫祥の表情が厳しいので、「まずいの?」と聞いた。

 「わからないけど」姫祥は口ごもった。それでも異常だと感じるらしい。男性的要素、女性的要素がわかるというだけでなく、妊娠可能かどうか、それが病的なものかどうか、ということもわかるらしい。

 この女性要素が十割というのも、病的なものだと感じるようだ。


 なぜあの二人だけがそういう異常な状態になっているのか。親子だから遺伝的なものだろうか?

 病的なものだということは、何か症状が出ているのだろうか?碧梓は元気そうだったが、まだ症状が現れていないだけだろうか?

 「病的なものなら、医者に相談したほうがいいかな」「院長に連絡とってみましょう」姫祥は言うが、海州の寺院と連絡を取るには、例え鳥を使っても数日はゆうにかかる。鳥を使うのはお金がかかるし、それ以上に簡単には使えないものだ。


 行政府や王家は独自に鳥を飼育して連絡網を作っている。貴族もそれぞれ鳥を保有しているが、金も手間もかかり、そのための人材も揃えるのが大変なので、下位貴族は手を引いている家も多い。

 大商人や大商会も鳥を大規模に飼育していて、それを商売にしている者もいる。当然、高額であり、庶民のひと月分の食費分になることもあるので、夏瑚もあまり手を出したくない。

 行政府が運営している官製の鳥便はそれよりは安いものの、使用に条件が付き、役所などの便が優先されるし、中身の検査も入ると言う話だ。正直、今回の話は他に漏れるとまずい気がする。


 性的要素など、誰でも知っている話ではない。聖別院の中での話であり、外部に漏らすことを禁じられている事項なのだ。過去、聖別院にいたらしい院長も口外しないように言われたらしい。

 姫祥は自分の能力ゆえにそれを知ることになったし、夏瑚も『聖母』と認定された関係で、院長からいろいろと教えてもらった。

 基本的に個人の性的要素は他人には秘匿すべき内容だ。妊娠能力など、場合によっては揉め事を引き起こしかねない情報だ。

 それに女主族にまつわる情報だと知られるのもあまり良いことではない。

 訪問客である夏瑚たちが女主族の情報をどんなものであれ漏らしたことになれば、女主族の怒りを買うかもしれない。


 成人の儀の際、人によっては、性要素が激しく変動し、それで目眩や頭痛、発熱などの症状が出て寝込んでしまったりする人がいる。

 そういうことは珍しくはない。ただ、そういう症状が性要素の変動のせいだとは知らなかった。

 「完全に女性の場合でも、そういう症状が出るかもしれないということ?」「十割は、不自然だから」姫祥は固い声で呟く。『聖母』の夏瑚が女性要素八割であり、姫祥の経験からも十割の人間は普通ではないと言う。

 杞憂かもしれないが、念のために院長に便りを出そうと話はまとまった。文面はかなり考えて『完全な女性の症状は?』というものにした。

 他に人にはわからないだろうが、院長にならば通じるだろうと姫祥は言う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ