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前触れ2

 子作りするにはそれなりに意気投合する必要がある。子作りも一回きりという場合もあるけれど、大抵は数回会う場合が多い。そこで好きになって、結婚することもあるようだが、女主族の居住地を離れた元女主族が子供を連れて、もしくは連れずに戻ることも結構あるそうだ。

 女主族は居住地に逃げ込んできた者が多い。夫や父親、雇い主などから逃れてきた割合が多いと言う。女主族に加われば、一族の庇護を受けられる。そもそも居住地には男性が入れないので、男性から逃れるには最適なのだ。


 逃亡者ではなくても、周囲にそういう事情がある者がいると、男性に対して偏見を持つことにもなる。子供は欲しくとも、婚姻したがらないのはその影響もあるだろう。女主族では、婚姻せずに女一人で子供を産み育てる者が結構いるので、そういう選択肢が現実的なのだ。

 婚姻の申し込み自体はそれなりにあるが、断られる確率が高いと言う噂だ。申し込みには申請手数料と称した金が必要なので、見込みのない者や金を惜しむ者は避けるだろう。


 碧梓は申込者に心当たりはないと言っていた。それでも、相手は碧梓の存在を知っていた。手数料をかけて申し込みをしたのだ。軽い気持ちではなく、何かしらの意義を求めての行動であるはずだ。

 「女主族の個人についての情報は、どの程度公開されていますか?」夏瑚は改めて確認する。

 居住地に外部の人間を入れないところからしても、公表されてはいないだろうと思っていた。しかし、婚姻や出産を希望しているものならば、公表されている可能性はある。少なくとも、見合いを希望する男性には条件付き、もしくは限定的には情報が与えられているのではないか。


 調べてもらったところによると、ただ申し込むだけでは一切の情報は得られないそうだ。男性側は手数料共に、自分の情報を登録してもらう。それを女主族の希望者が閲覧して、関心を持った者が自分の情報をその男性に伝えてもらうことになる。

 「でも、それは成人に限っての話です」確認してきた劉慎が念を押すように言う。「碧梓はまだ未成年で、閲覧希望者でもない。情報が外部に漏れるはずはないんです」

 「漏れるとしたら、どこからだ?」昇陽王子が呟く。「一番可能性があるのは、顧家じゃないですか」盛墨が小さな声で答えた。


 「箝口令は出していると言っていましたが」劉慎が言ったものの、語尾が消えた。

 例え、禁止していてもどこからか情報が洩れるものだ。今も顧家に雇われたり関係が続いている人は口を噤んでくれているだろう。しかし、縁が切れた者ならどうだろう。逆に全く関係のない所にいて、だからこそ逆に油断して、断片を漏らすこともあるのではないか。

 実際酒場で水を向けられて、過去の噂をぽろりともらすことがある。間諜がよくやる手だ。


 「程元さんのご実家、地元はどうでしょう」夏瑚は思いついて言う。

 近親者には箝口令が伝えられているだろうが、知り合い程度ならば徹底はされていないだろう。ろくな情報も持ってはいないはずだから、放置されているだろうし、大抵はそれで問題はないのだが、案外厄介なのが、本人や家族の気質や状況を知っているうえに推理力のあるお節介な噂好きの人々だ。


 裏どりはしていなくとも、妙に説得力のある噂を喋る小母さまたち。幼馴染という小母様予備軍。酔っぱらうととんでもない飛躍を見せて、正解を大声でがなり立てる酔客ども。

 案外、こういう人たちが馬鹿にならない。情報ですらない断片と、過去の本人たちの性格や事情からすり合わせ手繰り寄せて、答えを導き出してしまう。

 またそれをあちこちで吹聴する。本人たちは自分たちの勝手な妄想だと思っているから、事実そうなのだが、遠慮なくしゃべる。

 大外れならばいいのだが、結構いいところをついていたり、手掛かりになってしまったりということが稀でない。そしてそれが回りまわって真実として流布してしまうのだ。


 夏瑚がそういうことを説明すると、両王子と扶奏、劉慎は虚を疲れた表情になった。考えてみたこともなかったということだろうか。まあ、平民の小母ちゃんに接することがないだろうから、実感がないのかもしれない。

 「そう言われれば、母と親戚の女性たちの茶会はそんな感じだったかも…」劉慎は一人口の中でもごもご呟いている。


 「それも視野に入れて、調査をさせよう」昇陽王子がちょっと咳払いをして、真面目な顔をして頷いた。

 盛墨は、一人、火事の概要を羅列した資料を眺め、一つ一つ地図にその地点を書き込んでいた。「場所に偏りはなさそうですね」と独り言ちたところに、夏瑚が注意を向けた。夏瑚は資料を横から覗き込んで、「確かに碧梓さんに婚姻の申し込みがあった日から火事の件数は増えているんですね」

 婚姻の申し込みがあったのは、一か月前。その翌日に碧梓に伝達され、碧梓は即座に断る。その返事はその翌日に、禅林に滞在していた相手方に通告された。


 断られた日ではなく、申し込みの日のぼやの報告が5件。火事の報告は前年平均で一日0.5件。気温が下がる乾期は1件、新年などの祭りや祝い事の日は3件くらいに跳ね上がる。そこから考えると5件はちょっと多い。乾期ではあっても気温はまだ日で暖を取るほどは下がっておらず、特に祭りでも何か催しがある時期でもない。

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