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変事3

 女主族の支所に戻ると、すぐに先ほどの部屋に通された。

 今度は応族長も栗副官もいない。碧梓だけがちょこんと座って一行を待っていた。

 一行を見ると、碧梓はちょっと頭を下げ、立ち上がった。

 「で、どこ行きたいの?希望は?」


 「できるだけ人の多くいるところを」碧旋がすかさず言った。

 正直なところ夏瑚は女主族の経済に興味があったので、店や作業所のようなところがないか知りたかった。特産品のようなものがないかも探りたかった。

 昇陽王子は行政の運営状況に興味を示していた。外部で分かるのは応族長が首長であること、支所にいる案内人や事務員、女性との間を取り持つ仲介人たちは行政組織の上では下部の役人であり、外部にはそれほど情報をもたらさないことだ。


 乗月王子は女主族の生活ぶりを気にしていたし、健康状態や病院などの施設が充実しているのかなどを案じていた。盛容は防衛組織を、盛墨は居住地の市街地計画を知りたいと言っていた。

 当初王子たちはそれぞれ興味を向ける先が違っているので、順番に要望を出して案内してもらうのもよいと考えていた。「それでは知りたいことしかわからないから」と碧旋が却下したのだ。知りたいことがわかればいいのでは、と扶奏なんかは言いかけた。

 しかし思いがけない商売の種が思わぬところに転がっていたりするものだ。折角現地で視察できる機会だ。質問の答えだけを受け取るより、そのほうが本当のことも見えてきたりする。


 碧梓はじろじろと顧敬を見て、「なんであんたがここにいるの」と言う。

 「学園で一緒なんだ」顧敬はなぜかか細い声で答える。「ふーん。そう言えば養女に付き添って入学したって言ってた。誰よ?」碧梓は夏瑚たちを順番に眺める。「いや、そういうんじゃないから」顧敬の声はどんどん弱々しくなる。

 「あ、俺だけど」碧旋が手を挙げる。

 「え」碧梓は文字通り頭の先から爪先まで二往復分しっかりと観察した。「男?」「そうとも言えない」碧旋はちょっと苦笑いした。


 ここまでくると失礼だというより、わざと嫌われるような態度を取っているのだと思う。夏瑚たちから距離を取りたいのか、夏瑚たちもしくは顧敬を揶揄いたいのか、わからない。

 ぐるりと夏瑚たちを見回し、「あんたたち、みんな男?」「まさか」夏瑚はちょっと嫌な気持ちになった。小間使いの格好をしているのはそれ以外の服装をほとんど持参しなかったためもあるけれど、禅林で華美な格好は揉め事を引き寄せそうだったからと言うのもある。けれど夏瑚は正真正銘の女であり、女であることに関しては年季が入っている。


 それなのに男に見えるというのか。父をはじめ、姫祥も劉慎も夏瑚のことはきれいだと褒めてくれる。姫祥は結構毒舌なところがあるので、世辞ばかりではないだろう。

 それでも着飾らないと女に見えないというのか。確かに乗月王子のような華やかさや、碧旋のような魅力はない。二人の容姿は女性ならではの美しさとはまた違うけれど。

 「ああ、確かに、あんたは女の子?もう成人してるの?」碧梓の表情が和らいだ。


 「未成年ですが、私、『聖母』なんです」夏瑚がそう答えると、劉慎から咎めるような強めの視線が投げられた。でも、こちらからもいろいろ不躾な質問をするつもりなのだ。これくらい開示してもよいだろう。

 「そうなんだ」碧梓はちょっと目を見開き、夏瑚を見た。それから近づいてきて、夏瑚の両手をゆっくりと包み込むように握った。

 「何か辛いことがあったら、遠慮せずに言いなよ。力になるから」碧梓は真直ぐ夏瑚を見つめながら言う。


 碧梓はどこまで一行のことを知っているのだろうか?一行は一応お忍びとして、皆落ち着いた格好をしている。生地はよいものの、余計な飾りは全くない。

 両王子は役人で、一般庶民よりも地位が高いのでそれなりの服装だし、秘書官扱いの扶奏と劉慎も色合いこそ地味だし飾りはないが、庶民とは違うとわかる格好だ。

 しかしそれ以外はかなり庶民に近づけた格好をしている。公子の盛容は騎士の鍛錬などに参加して汚れたり数日着替えできない遠征について行くこともあるらしく、庶民的な服装に抵抗はないらしい。

 可哀そうなのは盛墨で、今までお忍びの経験はあっても本当の庶民の格好は本当に初めてのようで、飾りがないのは気にならないらしいが、生地の荒さがどうにも落ち着かないらしい。


 少なくとも小間使いの格好をしている夏瑚たちと護衛の格好の二人は本当に庶民だと思っている可能性があるな。

 それに碧梓は女主族だ。女性に対して親近感や共感を持っているのだろう。

 女主族の居住地に入るにあたって、未成年が多いことも有利に働くだろうという計算もあった。

 女主族の情報がなかなか得られないのは、基本的に男性は居住地内部に入れないから、である。

今回の一行で、完全に男性となっているのは盛容と関路だけだ。恐らく昇陽王子と扶奏、劉慎は男性化しつつあって、公的にも男性となる流れで扱われている。乗月王子もそろそろそのように扱われていくだろう。しか外見から男性とわかるのはその二人だけ、今は関路が外しているので、盛容だけということになる。

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