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変事1

 碧という姓は、華州公がそもそも設定したものだ。それを知っているのは高位貴族と、行政府で実権の伴う役職に就いている者だそうだ。

 そして知っている者ならば、その符丁を利用することができる。守りたい、便宜を図ってやりたいと考える対象に高位貴族からの庇護を受けさせることが叶うのだ。

 これは強力な後ろ盾になり得る。


 もちろん乱発はできない。そういう人間があっちにもこっちにもいたら、高位貴族も鼻白み、結局その仕組みを軽んじるだろう。早々高位貴族の庇護を安売りするものではない。もともと仕組みを作ったのは王族の長である華州公なので、その仕組みを損なうことは王族に対して喧嘩を売るに等しい。

 碧と言う姓を授けることは、仕組みを知っている者ならば可能ではあるので、程梓を碧梓に変えたのは、応族長のなのだろう。


 「程梓の境遇からの名付けか?それとも今現在の揉め事のせいで名付けることになったのか?」

 顧家の血筋で女主族のところへ逃げてきた境遇から名付けられたのならば、顧敬も知っていたはず。呼び方も碧梓と呼ぶのではないだろうか。顧敬は程梓と呼んでいたので、最近になって応族長が碧と言う姓を名乗るように指示したのだと思われる。

 「顧敬も助けてくれと言っていた揉め事って、かなり大事なのでは?」扶奏はそう言って溜息をつい

た。


 関路はじめ、皆が収集した情報でも、程梓の情報はない。

 というのも女主族の子供は基本的に外部と接触しない。居住地だけで生活する。

 禅林で会えるのは、役人と、子作りや商売のために外部の人間と会うことを希望する者だけだ。

 母親の程ですら外部の人間とはほとんどで会っていない。顧家の使者と会うだけだったらしい。役人でなく出産希望でなければ外に出ることはあまりないのかもしれない。


 女主族内部の揉め事なのだろうか?そうだとして、普通なら内部で解決しようとするものだと思う。内部で解決できないので、力を貸してほしいということだろうか?

 「程たち以外の揉め事はないか?」と碧旋が言い、もう一度情報を攫うことになった。

 顧敬も呼び出すことになった。正直顧敬と話をするといよいよ揉め事に関与しなくてはならなくなりそうだったが、応族長は巻き込むつもりでいるのだろう。これ以上情報がないとどちらにせよ嵌められそうだと昇陽王子や扶奏が言う。


 夏瑚も否定できない。

 応族長の有能さがかっこいいと思うが、逆に言えばその有能さが自分たちに向けられればいいようにされてしまう恐ろしさがある。

 それにその有能な人が王族たちを巻き込もうとするということは、自分たちだけの手には負えない案件だということを示しているようでそれもまた恐ろしい。


 情報を精査しつつ、顧敬を迎え入れ、質問攻めにする。

 顧家は長くても半年に一度使者を送っていたらしい。顧敬が来る半年前は特に問題ないということで終わっている。

 「だめだ、手掛かりがなさ過ぎる」珍しく劉慎もこぼす。「見当もつきません」盛墨もお手上げと言った感じだ。

 「この半年の間、程親子と関係ないようだが女主族に接触した者、禅林に来た者を洗い出そう」


 全員出来る限り手の者を使って情報を集めることになった。

 「護衛も全員呼ぼう」劉慎は苦い顔をして言った。「必要でしょうか」夏瑚が首を傾げると「わからないが、ここへはお忍び扱いで向かったから最低限の人員しかいない。揉め事の内容が判明しないから過剰な心配かもしれないが、万が一ということもある」

 とは言え劉家の手の者は王都に数人残っているだけで、それほどの手勢ではない。

 顧家と盛家からはかなりの人数が期待できる。顧敬がもっと早く手を打っていてくれればよかったが、詳細がわからない状態では迷っていたらしい。

 その後は実務者として扶奏と劉慎、顧敬が代官所と女主族の支所に赴き、人員の増員を伝えて許可を取った。


 「女主族や禅林の調査と言うより、碧梓の揉め事調査になってしまったな。気分転換に、どこかで夕食を取ろう」という昇陽王子の提案で、一同はぞろぞろと宿を出て禅林の繁華街へ繰り出した。

 応族長には身分がばれたので、もう役人などと言う設定は曖昧になり、関路がいなくなってしまったことで碧旋が昇陽王子の護衛の立ち位置につき、顧敬がその碧旋を守るように従った。


 夏瑚も小間使いとして振舞わなくてよくなり、劉慎と姫祥に挟まれて歩く。

 夏瑚たちを少し離れて護衛たちが見守っている。予定よりも近づいて護衛できている。顧家の従者がうまく席を確保したという食堂に向かっていると、突然、甲高い金属を激しく叩く音が響き始めた。

 「守れ!」碧旋が鋭く叫び、音のする方向へ走り去る。昇陽王子は乗月王子と盛墨を引き寄せ、夏瑚にも「こちらへ」と声を掛けてきた。夏瑚は姫祥とともに王子たちに近づいた。


 盛容と劉慎、扶奏が王子たちを囲むように立つ。

 護衛たちも駆け寄ってくる。

 周囲の人の流れが明らかに変わった。碧旋が走っていた方向へ人が流れ、また、そちらから走り出してくる。金属音は鐘の音だろう。非常事態を知らせるものか。

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