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顧家の事情7

 思いあぐねた顧敬は、今度は碧旋の身元調査を思いつく。「あの子」が存在していることは疑っていないが、それが碧旋なのかどうかも問題なのだ。

 しかし思いの外、身元調査は困難だった。

 領都の情報屋には「そっちの情報は入ってこない」と断られた。仕方なく側近に相談して捜索人協会に依頼して、出張費まで負担して情報を得てくるように発注を出した。

 けれどその依頼も空振りに終わった。


 思い切って側近を派遣して、ある程度の情報を得られた。

 確かに銅鑼島に碧旋という子供は存在する。雷家の縁者だと聞いていたが、雷家の嫡子、跡継ぎだという噂だった。

 姓が雷ではないので遠縁だと思っていた。けれど貴族簿によると、雷男爵に婚姻歴はない。当然嫡出子はいないはずだ。但し特記事項ありと備考欄に記載があるらしい。

 貴族簿は治部省に保管された貴族の戸籍である。閲覧は誰でも申し込んで許可が下りれば可能だ。しかし特記事項はその限りではない。

 少なくとも顧家の従者が申し出ても許可が下りないことは確かだ。


 遠縁から養子をもらい跡継ぎになったのかと思った。しかしそれならばその旨の記載があるはずだ。

 貴族簿には、雷男爵の嫡出子として碧旋の名があるのが事実だ。

 どちらにせよ、碧旋は雷男爵の子供であり、「あの子」ではない。碧旋の特記事項は気にはなるが、それ以上に「あの子」の存在が気になる。

 それらの情報を学園に入学してからも入手して、ずっとやきもきし続けていたそうだ。


 碧旋への態度はそのためだった。初めのうちは「あの子」なのかと疑い、侯爵家の養子としての自覚がないことに腹を立て、碧旋への好意を覚えたことにも混乱していた。

 夏瑚と同じく、侯爵家の養子としてより上位貴族との婚姻を結ぶか、侯爵家内で婚姻を結ぶかという貴族との結婚相手としての期待がかかっていることを碧旋が自覚していないことも、意識してしまっている顧敬との間には、溝が生む一因になっていた。



 「まあそれはいいよ」碧旋は手をひらひらと振って、「『あの子』の正体は侯爵に聞けた?」と尋ねた。

 「はい」顧敬は畏まった態度で頷く。「聞いてもいい?」と言う碧旋は遠慮しているようで目が輝いている。

 「おいおい、顧家の内情だろう。聞いてもいいものではない」窘める昇陽王子も目が笑っている。

 「けど、側近なのに仕事を放りだして実家に帰って碧旋に迷惑かけただろ?その事情を説明する必要はあるんじゃないの?」盛容が肩を竦めて言った。「我々まで聞くのはあれだけど」


 顧敬は頭を振り、「皆さまにもご心配をおかけしましたから、お話いたします」

 夏瑚たちは直接かかわりがない顧家の事情を聞くのに躊躇いはあったが、ここまで話を聞いて顧侯爵の明かした内容を聞かないと収まりが悪いことは事実だ。

 「『あの子』は祖父の子供だったのです」


 家政婦の程に手を付けたのは、先代侯爵だったのだ。

 もちろん侯爵家の血脈ではあるし、外聞は悪い。祖母である先代侯爵夫人にばれ、彼女は怒って別荘に行ってしまった。

 血脈ではあるので保護して育てようと考えていた侯爵だが、程がなぜ逃げたのかはわからないらしい。

 一族の末席に加えたものの、そこまで思い入れがなかった顧侯爵は、二人の無事を確認した時点で追うのを止めたらしい。無理強いするほど執着する必要もない。血筋としても顧敬の地位は確立しているので、その両親としては焦ることもない。


 侯爵から経緯を聞いた顧敬は、そのうち女主族の程に会ってくるようにと命じられた。現在でも定期的に連絡を取り合っているのだと言う。侯爵が使者を派遣して、現況を聞いているのだ。もし、何か困ったことがないか、顧家に戻りたい気持ちがないかを確認していると言う。

 その役割を一度勤めるように言われた顧敬は、学園に帰る道すがら女主族の居住地へ立ち寄ることにした。


 「それでここにいるってことか」盛容が納得したらしく大きく頷いている。

 顧敬は碧旋に向き直り、「父から御身の事情を伺いました。知らぬこととはいえ、無礼を重ねました。お許しを」片膝をつき、深く頭を下げる礼を取る。

 「あー、止め止め」碧旋が渋い顔になる。「謝罪することはないぞ。誤解しても無理はない。隠し立てしているのは碧旋の方だろう」昇陽王子は笑いながら言い、「もう少し考えるべきだったな。領地では、家臣のことを考えて行動していただろう。今後は同じように配慮しろ」


 「それでは、我々に合流するのか?」乗月王子が話が一段落したと見たのだろう、話を変えた。「学園へ戻る途中だったのだろう?ここでの用が済んだのであれば」

 「そうですね。せっかくお会いできたのですから」盛墨が言ったが、扶奏が軽く手を挙げて拱手の礼を取りながら、「恐れながら。合流されるのであれば、物資が不足いたします。調達が必要です」と言った。


 「それが」顧敬が目線を床に落とす。「まだ、用が済んでいないのですか?」盛墨が小首を傾げる。

 「はい。実は困ったことになっておりまして」夏瑚たちはそれぞれ顔を見合わせた。夏瑚は劉慎を見て、碧旋を見た。

 「話してみろ」苦い表情ながらも、昇陽王子は先を促した。

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