表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/205

顧家の事情6

 程の行方に関しては、確かに女主族のところへ行ったという噂がある。

 程の道行きを手助けしたと思われるのは、領都の商人で、いくつかの町で店を出しているそれなりの商会を運営しており、いくつかの巡回経路を保持している。副会頭に当たるその男は、今現在巡回に出ており、本人に確認することはできなかった。

 巡回経路のうちに禅林があるので、巡回に同行させ、商会員だと言ってしまえば結構誤魔化しがきくだろう。子供がいるので、巡回に同行して故郷に帰る旅人だと言っても不思議はない。


 事実とそこから推測されることはその辺りで、それ以上調べるかどうかは追加で依頼するようにということで、顧敬は情報屋に金を払って、青ざめる幼馴染を連れて帰宅した。

 幼馴染と共に側近にその情報を話した。すると側近もさっと顔色を変えた。

 顧敬はなぜ二人が狼狽えるのか、よくわからなかった。

 側近は腹をくくったように、大きく息をついて側近が知っていることを話し始めた。


 実は、側近は「あの子」の噂を知っていた。

 「あの子」が碧旋だったとは知らなかったと言い、雷男爵の縁者だと信じていたと言う。ただ、碧旋の身元を保証したのは顧侯爵なので、本当のところはわからない。

 側近が顧敬の依頼を聞いた時、何とか誤魔化さなくては、と思ったのだと言う。顧敬が傷つくことを避けたかった、と。


 顧敬は側近が「あの子」の噂を知っていて隠していたこと、幼馴染が顔色をなくしたことが不思議だった。二人と離れて一人、自分の部屋へ引き取って寝台の上に寝転がってそのことについて考え始めると、少しずつ考えが整頓されていく。

 「あの子」が存在していることは確かだ。程という顧家の家政婦の子供で、母親共に顧家からは姿を消した。酒場の会話からすると、商人たちに助けられて女主族のところへ逃れたのだ。


 問題はなぜ逃げだしたか、ということだ。

 未婚のままで出産することは、外聞がよくないことは確かだ。未婚の母に対する風当たりは決して弱くはない。

 しかし、子供は宝だ。

 自分の子供は当然だが、集落に新しい命が誕生することは喜ばしい。集落を維持し続けるためには新しい世代が必要だ。自分の子供だけでは、子供に友達もできないし、結婚相手もいない。集落では、個人の仕事だけでなく、集団でこなす仕事もあれば、行事もある。集落ごとに徴収する税金だって、世代間でも助け合って納めなければならない。


 顧侯爵家は、領主の家だ。当然領民が増えることは大歓迎だ。

それに家に仕える人間が産んだ子供は、より忠誠心の強い家臣になる可能性がある。幼い時から養育に手を貸し、家臣として育てる家も多い。気心も知れて十分教育を施した家臣はそうそう手に入るものではない。

 だから、侯爵家が追い出すとは思えないのだ。


 では何から逃げ出したのだろうか?

 子供の父親からだろうか?

 顧家とは関係のない父親であれば、相談されれば顧家が守っただろうと思う。出産で数年十分には働けないとしても、しっかり貢献してくれる家来は貴重だ。子供についても同じだ。

 家中に父親がいたのだろうか。その場合、顧家で仲裁をしただろうと思う。それがないということは、程は相談しなかったのだ。


 そう考えると、周囲が顧侯爵が父親なのでは?と下衆の勘繰りをするのも無理はないのだとわかってきた。

 考えたくはないが、侯爵であれば、妾がいても不思議はない。顧敬の数歳下ならば、顧敬自身が成人するまで生き延びるかどうかという心配もあっただろうし、そうでなくとも政略上、もう一人子供がいるほうがよい。庶子がいて困るとすれば、顧敬の母くらいなものだろう。


 自分の母から逃げたのか?という疑問が頭に浮かび、まさか!と想像を掻き消そうとした。あの顧敬にはいつも優しい母が、か弱い女性と子供が逃げ出すような仕打ちをしただなんて、考えられなかった。

 噂を追って集められる情報は、この辺りが限界だった。これ以上は、本人でなければわからないことになるだろう。


 程とその子供は女主族のところにいるとすれば、簡単には事情を聴くことはできないだろう。程本人に話を聞ければ一番なのだが、難しそうだ。

 それ以外に事情を知っているとすれば、侯爵家の執事だろうか。

 ただ、顧敬は主家の人間であると言っても、執事は顧敬の手には負えない。年齢も遥かに上だし、その腹の読めなさは顧敬など全く歯が立たない。何かを問いただすなんか無理だ。何を言われてもいなされるのが落ちだ。


 後は、父顧侯爵か、母侯爵夫人に聞くことか。

 しかし母に「父の愛人だった家政婦を追い出したのか」なぞ聞けない。そうでなくとも、体の弱い母は、始終体調を崩して領主館を離れて別荘に行ってしまっている。わざわざ二日ほどかけて別荘に行くのも気が進まない。

 父にならそのものずばりは無理でも、少しなら質問できるだろうか。試みようかと思っていたが、父の都合がつかない。そのような質問をするために忙しい父の時間を無理やり捻出させるのも気が引ける。

 碧旋自身はまったく顧敬の回りくどい質問を意に介さず、課題をこなしている。

 碧旋は悪くないとは思いながら、程とは関係ないとも自分に言い聞かせる。

 ただ、他には誰もいない。程本人も、「あの子」も、父の侯爵も、母の侯爵夫人も。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ