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禅林2

 姫祥は夏瑚以上に馬に慣れていないのだから、無理もない。

 極力急ぐことにした旅路で、乗馬することを聞いた寮人から勧められた膏薬を水浴びの後、自分で塗る。擦り傷に軟膏が染みて震えあがる。

 侍女に入浴の世話をしてもらうことはだいぶ慣れてきたが、流石に乳房や内股を洗ってもらうのはまだ抵抗がある。

 姫祥の方も躊躇いがあるらしく、夏瑚の思いと噛み合っているので、普段はその辺りは夏瑚は自分でやってしまう。ただ、公式に成人すると他の侍女がつくことになるだろう。姫祥がいつまで侍女をしてくれるかはわからない。それまでに側付きになんでもしてもらう生活に慣れることができるだろうか。


 そんな苦労をしながら、途中で馬を替えて四日目の夕刻に禅林に到着した。

 禅林で一番階級の高い宿屋には両王子とその秘書官に扮した扶奏と劉慎、小間使いの夏瑚と盛墨、碧旋と姫祥が宿泊する。王子たちは一人部屋、後の面々は2人部屋だ。

 護衛に扮した盛容と関路はその宿屋の隣の中級の宿に泊まる。碧旋はそちらの方がよかったとぶつぶつ言ったが、役柄を考えると全員で高級宿に泊まるのは不自然だ。一介の役人では、常に護衛が随行するものではない。基本的に街道の移動の際と、街での視察の際同行するもので、常時警戒するのはやはり貴族となる。


 日が沈む前に禅林の門を潜ることができた。

 禅林は石造りの堅牢な壁に囲まれた、大きな町だった。

 壁はかなり高く、人の背丈の二倍以上はある。その壁にもたれかかるようにして、差し掛け小屋がいくつも軒を連ねている。それは、壁の内側でもそうだし、外側でも同じ光景が見られた。

 「こんな高い壁がある町も珍しいですが、そういう町なのに、外側に建物がいくつもあるのも珍しいですね」このように高い壁を必要としているということは、この辺りで戦闘行為が過去あった、または予想できるということだ。街を守るための壁なのに、外側に小屋があるのは、一種の貧民街ができてしまっているということだろうか。


 基本的に集落の住民は領主によって把握され、庇護されている。税金もかかるし、反面行方不明になった場合など捜索をされたり、役所に願い出れば保護してもらうことも可能だ。保護は無制限ではないものの、領主にとっては外敵からは守り抜く対象だ。そのため、大きな都市や治安が悪いところでは外壁に囲まれた町が存在する。

 禅林は明らかに女主族の関係で、治安が不安定だからだろう。女主族に居住地に攻め込む賊も少なくないが、女主族の居住地の情報は一般的に公開されていることはほとんどない。目的にもよるが、禅林のほうが襲撃しやすい面があるのかもしれない。


 また、禅林は人の出入りが激しい町だ。

 住民だけでなく、旅行者も管理しようと考えれば、出入り口を限定して入町記録を取ることになる。

 壁の外側の小屋の群れは、禅林の住民には数えられておらず、税もかかっていないが保護もうけられない。仮に襲撃があれば、壁の外に締め出されたままになるだろう。

 それでも禅林に住み着く理由は何だろうか。


 どこの領地でも、子供は貴重だ。まず子供を出産できる女性が少ない。女性自身も死にたくはないので、一人か二人の出産にとどめる。生まれたら、その子供は大切に育てられる。代わりはいないのだから。家柄によっては、妾を持ち子供を作る場合もあるが、庶民では無理だ。

 何の手も打たない集落では、人口が減って行って結局集落を放棄することになる。土地の手入れをできる人口を保持し続けなければ、税金を払い生活を維持していくことは不可能なのだ。


 破綻寸前の集落からは人が流出していくことになる。うまく領地を治められず、税金が高率になりでもしたら、途端に集落からは人が逃げ出す。

 逃げ出した人々の行く先は、多くは都市、賑やかな町だ。

 土地は戸籍がない住民は購入できないので、自作農はできない。小作農をする者もいるが、大抵は仕事が多くある王都など人口の多い町に向かって大手の商会などの就職を目指す。しかし当然それは有能だったり運がよかった人で、ほとんどは日銭を稼いで暮らしていくことになる。


 禅林には銭を稼ぐような仕事がそれなりにあるのだろう。禅林は住人の需要よりも旅行者の需要が高い町だ。だから仕事はあるのだが、変動が激しい。そのためにその日その日で人手を欲するときと必要がない時がある。

 そういう人は街の中に住まいを確保するのが難しいのだろう。外側は街の行政も及ばないので、勝手に小屋を建てて住み、家賃を払う必要もない。


 一行の入町は滞りなく済んだ。事前に役人の視察として連絡をしていたため、全く問題はなかった。

 但し、夏瑚や姫祥、碧旋、盛墨たちは俯いてできるだけ隠れるようにしていた。

 この町は色町が幅を利かせている。女主族の支所を呼び水に、あてが外れた男どもの需要を満たしているのだ。

 女主族の実情は謎も多く、庶民はあれこれ勝手な噂をして妄想を膨らませているきらいがある。娼婦に近いものだと考えているものも少なくない。

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