表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/202

鬼林檎3

 「かなり美味しいね」盛墨が感心したように言う。「林檎とはちょっと違うけど」「確かにうまいな。この量じゃ物足りんが」盛容はすぐ飲み込んでしまったようだ。

 確かにこれだけではまだわからない。果物としては新しい味に思えるが、一定の量が生産されないと商品としては扱えない。

 毎年この味が数量が少なくても繰り返し収穫できれば、可能性はある。それほど多く収穫されなくても、希少性を売りにすることも可能だ。


 「これ、手配することは可能ですか?」夏瑚が沈に向かって言う。「え、必要ですか?」沈は咄嗟に反応してしまい、慌てて口をおさえた。

 「それを検討するためにも必要だな」碧旋が頷く。

 結局明日には護衛任務を解かれ、沈は畿州の田爵の土地へ向かうこととなった。

 劉慎が自分の従者に、乗月王子のところへ沈の派遣について断りを入れるように指示した。

 学園で雇用された護衛は、ある意味学生と同じだ。訓練と実地で護衛任務に就くことで、騎士団や兵団、貴人の護衛の職を得るのだ。

 沈は一応乗月王子の口利きで学園付きになったので、直接雇用ではないものの、優先権のようなものがある。貴人であっても学園に伴う護衛に制限が掛かっているための抜け道のような慣習だが、無視すると余計な揉め事の種にもなりかねない。


 「これでちょっとは借りを返せたかな」と碧旋が夏瑚に言う。

 「どういうこと?そんなことがあったかしら?」夏瑚は心当たりがないので、本気で首をひねった。

 「第一王子に献上した緑の長衣があっただろう」と言われて、夏瑚は本気で忘れかけていたことに気づいた。

 確かにあれは、夏瑚の父夏財にとっては痛恨の出来事だった。よりによって王家に献上した品が、毒物だったのだから。


 しかし、あの一件で叱責などはなかったのだ。

 一件の後、父の夏財と会ったのは一度だけだが、特に問題はなさそうで、顔色もよかった。劉慎にも問題はなかったか確認をしてもらった。劉慎も羅州侯とも連絡を取ってもらい、前後策を相談した。

 公式には、羅州侯と夏財の謁見と献上は恙なく行われたことになっていて、緑の長衣は献上品の中にはなく、外国の情報の証拠として扱われているらしかった。

 夏財はその後、羅州と海州の産物で、紫の長衣と真珠の装飾品を献上しており、王都の入境税を免除する勅許状を得たらしい。つまり、王家の覚えめでたい商会の一つとして、活動を続けているのだ。


 だから碧旋が借りだと思う必要はないし、考えようによっては毒物をつかまされた商人が間抜けだったということで、自業自得とされる案件とも言える。

 実際王妃たちや王女が緑の長衣で体を壊してしまってから、原因が判明する方が恐ろしいことになったはずだ。

 夏瑚と劉慎がそのように説明する。碧旋は「うちの管轄だと思うんだよな」と呟く。


 雷家は確かに外交を一手に引き受けているように見える。しかし、それは他の国境が結界に覆われているからで、覆われていない銅鑼島の守護と運営が雷家の管轄なのだ。他の国境について任されているわけではない。もし任されているとすれば、男爵程度の家格でなく、伯爵あたりの家格が必要になる。職務としては特権節度使くらいは任命されることになるはずだ。

 雷家の管轄だとは思えない。


 もしかして、王家の管轄だと言っているのか?

 夏瑚はそう思いついたものの、口にはしなかった。

 碧旋は王族であることは決定的だ。王家は一番偉華と言う国に責任を持つだろうし、国境管理においてももっとも権限を持つと言える。

 しかし碧旋は未成年ではあるし、公式に王族だと認められたわけではない。つまり王族としての権力を振るえるわけではないのだ。

 もちろん王が認めたことで、一種の特権は得る可能性はあるし、雷家の特権も実は王家を背景にして得ているものだと言える。これ以前にも碧旋が生まれによって特権を得ていることも考えられる。学園に入学したことも、一種の特権と言えないこともない。


 しかし、それは夏瑚も似たり寄ったりのような気がする。

 夏財も、そういう異国由来の商品だとわかって購入し、献上したわけで、それも商人としての管轄内である。

 そう言ってしまうと堂々巡りになるだろう。だから夏瑚はにっこり微笑むだけにした。

 夏瑚の気持ちが伝わったのか、碧旋も苦笑する。


 「ところで、どこに向かっているんです?」と劉慎が口を挟む。

 「例の隠し部屋です」盛墨が答える。「ですよね?」と碧旋を肘でつつく。

 「また出かける前に、ちょっと思いついたことを試そうと思って」碧旋が答える。「忙しいなら、付き合わなくてもいいよ」「時間がかかるのですか?」劉慎が問い返す。

 「試すこと自体はそれほどかからないと思うが」


 隠し部屋にあれ以上の秘密がないとは思えないので、興味はある。しかし夏瑚にはまったく思いつくことがないので、半分忘れていた。

 「あの部屋って、何のためにあるんでしょうね?」と夏瑚は言ってみた。夏瑚も考えてみたのだが、何も思いつかなかった。「何だと思う?」盛墨が言うと、「倉庫じゃないのか?」と盛容が返し、「隠す必要がないだろう」劉慎がちょっと笑った。

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ