碧旋の素性6
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雷男爵の経歴については、謎も多いが、その出自、腕の立つ騎士であったことや、男爵家の養子となった経緯ははっきりしている。
銅鑼島に領地替えされたこと、王家との繋がりはわからない点も多いが、まあ推測で埋められないこともない。
一番の疑問が、雷男爵と華州公との繋がりだ。
年齢的には華州公が3年上になる。しかし、どこかで接触したような節がない。
雷風は幼い頃故郷の平民とともに寺院で行われる学び舎で数年学んだあと、騎士学校に入学している。
華州公は、ずっと王宮で教育を受け、途中毒を盛られたとも言われているように、病床に伏した時期もあり、如何なる教育機関にも通うことはなかった。
接点が皆無というのも大きな謎だが、一番の謎は、華州公も雷男爵も恐らく男性であろうと言う点だ。
雷男爵はその美貌から女性として望まれていたのに、それを蹴って男爵家の跡取りになった。男性でなければ話にならない。
華州公のほうは、女性になる理由がまずない。幼い頃は王位継承者として期待されていたから、男性化することを当然視されていた。王の子供は基本的には男性になる。だから明月王子が王女になるのはかなり異例のことだ。
男性になることを当然視される環境であっても、本人の資質で女性になることはある。明月王子がそうだし、他にもそういう例はたまに聞く。それほど珍しくはない。
成人する前に華州公は毒を摂取し、体を壊して表舞台に現れなくなった。華州公が授けられたこと、婚姻していることから、男性だと思われる。
正妻との間に子供はいない。
正妻は現王の母君の実家の縁戚だったはずだ。
毒をもった犯人は、実行犯は処刑されたけれど、黒幕は判明しなかった。ただ、華州公が亡くなって得をすると目された現王の母君とその関係者にどのような視線が向けられたかは想像に難くない。
王家の争いを回避するための政治的な意味合いがある婚姻だったのだろう。華州公には嫡子はいない。つまり正妻との子供はできなかったのだ。他に認知された庶子もいない。少なくとも公式には。
偉華には戸籍が存在する。だから、どこの誰が、誰と婚姻して子供が産まれたか、記録を確認すれば知ることができる。
しかし、戸籍は領地毎に管理されている。領主がその土地の戸籍を管理しているので、他の土地の人間にはその情報が自由に閲覧できるわけではないのだ。
当然、その情報を得るには、色んな手を使うわけで、公爵家だからこそ手に入れられたことになる。
逆に言えば、公爵家だから、王家の戸籍は手に入れられないのだ。
王家の戸籍の管理者は王なのか、もしかすると華州公かもしれない。どちらにしても、王家が戸籍の情報を出すとすれば、出してよいと判断した分だけだ。
閲覧できた戸籍では、華州公には子供はいない。だが、王家が隠している可能性はある。
ここまでの情報は、遅かれ早かれ夏瑚たちも手に入れることだろう。
盛墨たち馬州公爵家は、貴族としては最高位に属するが、その地位が枷になっている点もある。羅州侯のように機敏に立ち回ることは難しい。特に金儲けにはある種の素早さが必要だ。
そこで盛墨は自分たちなりの利点を生かすことにした。
盛容は昇陽王子、乗月王子とは旧知の間柄だ。幼馴染と言っていい。盛墨も幼い頃から、王家の人間とは面識がある。だから、侯爵家の人間では無理な行動もとれる。
昨夜、二人の王子に面会を申し出たのだ。
それも直接二人の部屋へ訪れるというやり方で、だ。
学園内では、正学生同士は同じ地位ということになる。だから、この行動も特別問題にはならない。
とは言え、扶奏には嫌味を言われたが、面会そのものはできた。
「碧旋のこと、知ってたのか?」盛容は挨拶の後、本題を切り出した。
盛墨と兄は何をどう質問するか事前に打ち合わせしておいた。盛容の性格と、二人との関係性とを考えた結果、質問するのは盛容がずばり聞く方がよいということになったのだ。遠回しに聞いて得られる情報は出尽くしたからだ。
盛墨は観察に回る。乗月王子の表情や仕草から判断するためだ。
「知らなかったよ」乗月王子は少し面食らったようだったが、素直に答えた。「学園に入ってくる学生は身元は確かだから、事前に精査する必要なんかないからね。扶奏はある程度調べていたみたいだけど」
「けど、初対面の時から、反応してただろ?」盛容が突っ込む。
「見覚えがあったんだよ」乗月王子は、何か言いかけた扶奏に目をやった。「陛下が謁見されたってことは、隠さなくてもいいってことだよ。だから心配しなくていい」
「以前に会ったことがあるのか?」「無いよ」「どういうことだ?わかるように説明してくれ」
「二人に会ったんだ」乗月王子の声が突然変わった。熱を帯びた声で、遠いところを眺める目つきになって話し続けた。
「俺は五歳ごろだった」昇陽王子はゆっくり噛み締めるように話す。
熱に浮かされるように話すようになった乗月王子を止めたのは扶奏だった。その機会に盛墨たちはその場を辞し、昇陽王子の部屋へ突撃した。
昇陽王子はあっさりと二人を招き入れた。護衛兼側近の関路がいたが、特に止める様子もなく、一応お茶を淹れてくれた。
可も不可もないその茶を味わいながら、二人は聞き耳を立てる。
「王家の集まりに華州公が来た。というか、華州公が来るから集められたのだ」




