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学園の謎14

 勇んで歩く盛墨に連れられて、夏瑚は音楽室へ向かった。途中で碧旋が合流して、盛容も含めて四人になった。

 盛墨は論科の班員の中で一番穏やかで控えめな人なので、夏瑚としては付き合いやすい。盛容は豪放磊落と言った感じなので、元平民としても気楽に接することができる。

 碧旋も平民ではなくても養子だし、ざっくばらんな感じなので取っ付き易いと思っていたが、ご落胤だのとややこしい事情がありそうだ。本人は変わらないが、王の態度や乗月王子の態度によっては、先々配慮が必要になってきそうだ。


 両殿下は忙しいのか、今日は姿を見せない。当然、二人の側近も見かけることはなかった。

 名目上夏瑚の側近である劉慎は、遠征の準備のために不在だった。それ以外にも遠征先についての情報も集めているはずだ。というのも、女主族について一番知識がなかったのが、夏瑚と劉慎の二人だったからだ。

 どうやら羅州という南方の地域からやって来たためだと思われた。女主族の居住地に一番近いのは盛兄弟の故郷なのだが、両王子のそれぞれの祖父の領地、畿州と宇州もそれほど離れてはいない。碧旋の故郷からは離れているものの、後ろ盾となっている孔州も、盛兄弟の馬州に隣接している。


 そういう集落が存在していることは知っていて、少数民族のようなものだと思っていた。女性が多いというだけの話だと思っていたのだが、実際は、女性のみで構成されていて、男性は居住することはできない。

 女性だけでなく未成年の間は住むことができる。だから、外部から女性が子供を連れて逃げ込んでくることも多いそうだ。逃げてくる理由は千差万別でも、女性でさえあれば、受け入れると言う。

 半面、男は断固として拒否される。追っ手の男たちが押し寄せることは珍しくない。女主族は力づくで追い返してしまう。それだけの力を保持しているらしい。

 成人するときに、男になると外に出される。職の斡旋などはしてくれるそうだが、居住地に立ち入ることはできない。その点にも例外はなく、厳格に守られている。


 不思議な一族だと思う。自然に成立する集団とは思えないから、どういうきっかけがあったのか、この集団を保つために何が行われているのか、いろいろと疑問が湧く。

 その一族が唯一外部とのつながりとしているのが出張所であり、それが設置されているのが禅林だ。女主族との接触を求めて、人と金が集まり揉め事が集まる。

 盛墨たちは、自分たちの領地で、女主族の出張所を誘致する計画を立てているようだが、誘致がうまくいったとしても、その町の運営はかなり大変だろう。二か所目の出張所は、一か所目ほどには儲からないかもしれない。

 それでも、誘致を目指すのは、領地の運営がうまくいっていないのだろうか。劇薬であっても飲まざるを得ないのか。



 連れ立って歩く夏瑚は意識を飛ばしている。

 上の空だけれど、淑女らしくゆったりとした動きで滑るように進む。淑女教育の賜物と言うより、舞いの練習のお陰かもしれない。基本的に夏瑚の動きは優雅で、元平民という経歴を考えるとよく身に着けたものだと思う。

 仕草は上品なのに、表情が結構裏切っていることがある。本人は気づいていない。下品と言うわけではなく、無防備な表情が垣間見えるのだ。子供のように、思っていることがそのまま表れている顔だ。

 正直、貴族らしくはない。いつでもと言うわけでもなくて、例えば授業中、大勢の人がいるところでは微笑みの仮面を被っているので、令嬢教育の成果が出ているのだと思う。


 盛墨には少しずつ気を許してくれているのだろう。ふとした拍子にそういう表情を見るようになってきた。前回の遠征からの帰路の頃からだろうか。

 兄の盛容にも警戒は緩んできているようだ。碧旋も然りで、相手が態度を崩しているからだろう。

 しかし碧旋はともかく、兄は意外と計算づくで豪放磊落を装っていると思っている。高位貴族の嫡男は幼い頃から相手に隙を見せないように振舞うことを躾けられる。兄はそういうことが嫌いかもしれない。しかし、親から兄の教育で大きな問題があったとは聞いていない。周囲の者たちからもそのような噂は聞かない。


 今は碧旋と平民の友達同士のようにつるんで、訓練に精を出している。公爵位を盛墨に譲って州軍を率いるのもいい、と言うことがあるけれど、半ば本気なのも知っている。兄は変なこだわりを持っていないので、どこに行きどんな役職に就こうが結構うまくこなすのだろう。

 兄が盛墨の決断を待ってくれているのはわかっている。両親もそうだ。性別の選択も含めて、盛墨を妨げるものは何もない。

 有り難いと思う。申し訳ないとも思う。

 自分の気持ちは、自分でもつかめない。ここにいたら、何かはつかめそうな気がする。自分は何をしたいのか。自分は何を考えているのか。自分が今感じているのが、何なのか。


 盛墨はちらりと碧旋にも視線を送る。

 謎の多い人物だ。華州公のご落胤だとすると、いろいろ納得がいくので恐らく真実なのだろう。それは薄々兄も知っていたようだったし、碧旋自身も当初から自由に振舞っていたところから考えると、見当は付いていたのではないだろうか。

 それを考えると、夏瑚はいかにも素直だ。自分の感情を隠すことをの意味をまだよくわかっていない。

 お目付け役の劉慎がよくはらはらしているのがおもしろい。それでもあまりうるさいことは言わないようで、劉慎は夏瑚をよく気遣っているのが微笑ましかった。

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