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学園の謎13

 禅林への出発の前に、護身術の訓練が授業に加わった。夏瑚は今まで受けていなかったが、禅林へ赴くにあたって、盛墨から提案された。盛墨自身もあまり武術は得意ではなく、自信がないということで一緒に参加するという。

 講師は女性で、主に力のない女性や子供向けの護身術を教えてくれる。他に数人の女性が並んでじっと講師の話を聞き、指示に従って間隔を空けて位置どりをし、まずは体を解す。彼女たちは侍女らしい。

 令嬢の側付きは、場合によっては令嬢を庇う必要がある。護衛は一応侍女も守ってくれるだろうが、令嬢が安全であれば、との条件付きだ。護衛が守っているのは本来令嬢なのだから。


 「型を覚えるのは早いんですけどね」と碧旋が傍らで不満そうに言う。

 いや、なぜここにいる。講師に対してはにこやかに断りを入れて、訓練に参加する碧旋と盛容。盛容は盛墨を構うのに忙しい。

 助けを求めて周囲を見回すと、遠くで姫祥が手巾を振っている。ちゃっかりと避難している。

 「でも駄目駄目。力の入れ方がなってない」「先生!」夏瑚は思わず講師を呼ぶ。

 苦笑しながらやって来た講師は、力の入れ方の違いを教えてくれる。


 形を重要視してしまうのは、舞手としての癖だろう。指をぴんと伸ばすことに力を入れてがちだが、相手を撥ね退けるために押す手にはもっと強い力が必要だ。

 「足の筋力は結構ありそうですね」と講師が夏瑚を眺めて言う。

 手は重いものを持つことはない。踊るために鈴を振ったり、扇を持つことはあるが、どれもごく軽いものだ。


 「そうだ、扇なら持ち慣れているから、武器にできない?」と言うと、「却下。武器なんか、扱えないだろ。下手して自分で怪我しそうだ」碧旋の答えはにべもない。

 思いついた時はいい考えだと思ったが、確かにそう言われると逆に危ないかもしれない。「まず逃げることを考える。そのために時間を稼いだり、捕まらないための方法を覚えるのが先だ」「講師の仕事を取られてしまいましたね」碧旋に講師の女性が冗談めかして言うと、碧旋は両手を合わせて、「そうですね。余計なことでした、先生」と笑い、女性がする膝を曲げるお辞儀をして、去っていった。


 その後、盛容も去っていき、女性同士で、腕を掴まれた場合や首に腕を回された場合などの対処法なども学んだ。これは以前も習ったことがあったので、やり方は覚えていたが、講師が「では、男並みの力でやってみますね」と告げて、腕を掴まれると、力が強いのに驚いて体が固まった。

 講師は女性なので見た目は怖くない。でも、実際見た目が荒々しい男性だったら、なおのこと怯んでしまうだろう。そういう気持ちが行動にも大きく影響するのだ。


 小さな武器を持つことは悪いことではない、と言われた。

 自分の力で、敵の裏をかければよい。それには瞬間的には敵の予想を上回る力を出す必要がある。相手の急所を突くのも有効だが、それにも一定の力が要る。その力を出すには筋肉と言うより、思い切りのようなものが必要だ。自分に出せる力を最大限、瞬間的に出さなければならない。

 そして、人間相手に、相手が傷つくかもしれない力を出す、という決意が必要だった。

 武器、それも小さな針などがあれば、力を出せなくても、相手を怯ませることができる。


 護身術は、これからも必要だろう。一朝一夕で身につくものでもなさそうなので、これから時々訓練することにしようと思った。盛墨も同じことを言うので、二人で練習を約束した。

 授業が終わり、汗を流したいと思っていたのに、盛墨を待っていた盛容に連行される。「この前の隠し部屋で、試したいことがあるって、碧旋が言うから」盛墨は申し訳なさそうには言うのだが、夏瑚を離すつもりはなさそうだ。 

 夏瑚も少しは興味があった。あの隠し部屋がどうなったのか、気になっていた。


 昇陽王子も一応気にはしていたらしく、学園の沿革を探してくれた。しかし、もちろん隠し部屋の存在は記録されていない。王宮の設計図は極秘資料であり、学園の部分だけでも閲覧は禁止されていた。しかし昇陽王子によると、学園の増築は二期にわたって行われていて、その部分の資料は王子には閲覧許可された。そこで確認したのは、音楽室のある棟は増築部分ではなく、増築の設計図には隠し部屋は存在しないということだった。


 増築部分は特定できたので、もし他にも隠し部屋があるとしたら、設立当初に建築された部分なのだろう。

 他のもあるのかは疑問だが、盛墨は他にも辻褄の合わない部分があると言う。時間があるときには、目星をつけたあたりを計測しまくっているそうだ。

 「絶対見つけて見せますよ」盛墨はやる気満々だ。

 確かに隠し部屋とか、ちょっとわくわくする響きだ。ただ、この前みたいに入ってみても、何もないという肩透かしを食らいたくはない。

 部屋の造り自体が珍しいものだということはわかる。よく調べて、建材は建築方法がわかれば、何か得るものがありそうだ。しかし、学生でない人間を学園内に入れることはできない。学園は王宮の一部なのだから。夏瑚ではわからないし、わかりそうな人間にも心当たりがない。


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