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12:逆張りキッズ

キャベツの漬物、味が薄かったの巻




「(さて、どうしたものか)」


 小型肉食恐竜型悪魔をノーダメージ撃破した。それ自体はいい。何も問題ない。


 問題は何処へ向かうかだ。


 一応初心者が迷わないようにこれ見よがしになんらかの痕跡があったが、残念な事にこのゲームはプロミス社製だ。

 分岐無しのトロッコのレールに罠を仕掛ける程度の所業は平気でするので、安易に誘導に乗っかるとエラい目に合う。

 

 酷い目にあって、新人はプロミス社の悪辣な性質を強制的に理解させられて、また一つ逞しくなっていくのだ。


「(どうしようっかなぁ)」


 今の所候補は2つ。

 1つは教会前の痕を辿る正規ルートと思しきルート。多分誘導に従ってればいきなりエリアボスにブン殴られて呆気なく殺される程度のイベントは起きるだろうが、根気よく進んでればルナヴィに於ける拠点には辿り着けるだろう。


 もう一つは、小型肉食恐竜悪魔が居た方向。つまり正規ルートは真反対だ。

 敵がいたという事はつまり、其方にも空間がある筈だ。ならば逆張りキッズしてみるのも一興だろう。進めるだけ進んでみるのも手だ。

 霧で遠くは見えないが、少なくとも行き止まりの雰囲気はない。



「そーれ」

 


 案ずるより生むが易し。

 いい加減ロスタイムを増やすのもアホらしいので適当な棒を上へ向けて回転させながら投擲。

 クルクルと勢い良く回転し、棒の先端は非正規ルートを指した。



「よし、行くか」


 サービス開始から1日以上経ち、ようやく青鹿は教会を出た。







 教会の周りの歩道を横断し、ひしゃげた鉄柵を強引に乗り越える。

 すると、気圧が変わったように鈍かった音が鮮明に聞こえ、霧が若干晴れると共にフワッと錆臭さと埃っぽい香りがした。


 まだヨーロッパの空気を残していた教会周りは打って変わり、一歩踏み出せばそこはスチームパンクよりの寂れた世界。


 沢山のパイプが這い回り、歯車が回り、煙突から煙が揺蕩い、建物は乱雑に積み上げられ入り組み街全体に影を作り薄暗い闇が恐怖を掻き立てる。


 教会の表とは違い、此方は裏路地的な様相が近い。

 しかし何処か繁華街に似た雰囲気もあり、よく見れば店のように看板の出ている建物や霞の中にボンヤリと光る灯りも見える。

 

 それと同時に目立つのが多種多様、色取りのキノコとカビ、苔類。凡そ菌類と思しき物がそこら中に蔓延っている。


 謎のキノコ推し。デザイン担当のスタッフの中にキノコ狂いがいたのだろう。まともな草木が一切ない。


 試しに足元にピョコンと生えた真っ白なつくしの様なキノコを抜いてみる。


『【Exorcist wisdom】が更新されました』


 なんとオブジェクトではなくアイテムカウントされるらしい。と言っても辞書から確認できたのは名前とキノコである事だけ。

 これはオヴェリシリーズではあまり見られないパターンだが、一部アイテムは特殊な鑑定やPERKによるアプローチを必要したので驚かない。


 折角取ったので暫し観察。

 触っても状態異常にはならない。感触は弾力がありゴムにも似ている。

 匂い、特に無し。

 見た目、真っ白いつくし状のキノコ。それ以外に特徴がない。

 パクリと一口。味、非常に味の薄いシメジに錆臭さを足したようななんとも言えない味。


 見た目でなく味まで実装済み。アイテム化するという事は何か意味があるのだろうが、今は使い道があまり思いつかない。

 よく見れば地面にぴょこぴょこ生えてるのでレアではないという事だろうか。


 ならばと半ば崩れかかった移動式の屋台の下に生えた一際目立つ赤いキノコに目をつける。

 パッと見た感じ、あのキノコが現状では1番大きいし類似する物がない。

 多分レアだろうと近づいていくと、カサリと物音がした。


 瞬時に剣を構えて警戒。同時に屋台裏から飛び出す影。それは人型に近い大鼠だった。

 身長約140cm、小学生高学年程度の大きさだ。


 オヴェリシリーズの特徴として、敵の多くが人型に近い事が挙げられる。 

 一般的なファンタジー的世界のVRMMORPGでは人型が敵になる事は少なく、多くは獣や虫に近い形態を取るだろう。

 一方、完全に人間というパターンは僅かだが、オヴェリシリーズの敵は大方が人型をベースとした種族なので平気で武器を使ってくる。しかも普通に強い。

 オヴェリ卒が他のゲームで猛威を振るうのはこの人型慣れにも理由がある。


 よって雑魚的が武器を持って登場しても全然驚かないのだが、今回は勝手が違った。

 あまりに異様なデザインに思わず青鹿の目が丸くなる。


「(マジで今回のデザイン担当過去1でイカれてるだろ)」

 

 鼠小人と呼べそうなエネミーは確かに武器を持っていた。武器と言っても剣や槍では無く、フック付きのトンカチだ。


 ただ、厳密には武器を持っているわけでは無かった。

 トンカチを持つ右腕が半ば機械化して、その機械群にトンカチが取り込まれているのだ。

 一見ソレは中身の機構が丸出しの機械仕掛けの義手の様にも見える。だがその実態はそんな生易しい物ではなかった。


 機械のパーツを取り付けたにしては痛々しく、精密機械と腕を強引に融合させてしまったみたいに腕から突き出すように歯車やネジが飛び出す。

 ポタポタと腕から漏れ出る黒い液体はオイルか、それとも。


 間違った方向に進んでしまったスチームパンク。

 そう名付けたくなる痛ましい鼠小人はトンカチを振り上げて襲いかかってくる。


 其れに対し青鹿は素早く突く様な蹴り。

 上段に構えた剣ばかり気を取られているところに襲い来る急な蹴り。此方に全速力で駆けてきていた鼠小人は急停止出来ずに腹部のど真ん中に爪先が刺さり吹っ飛ぶ。


 素人喧嘩のテクニックだが、このように案外馬鹿にできない定石だ。

 吹っ飛んだ鼠小人に素早く詰めて、怯み判定で無抵抗化した身体を思い切り踏み抜き、剣を首に突き刺し捻る。

 HPバーは黒点滅。ゴキリと小気味よく何かが折れる感触。それでも尚トンカチで脛を抉ろうとしたその手を蹴りで軽く払い、剣を更に捻りながら掬い上げる様に動かす。

 

 バキッと何かが完全に砕け、鼠小人の身体は泥となり消えていった。


 残されたのはキノコ状のフラグマ。回収すると運が良かったのか通常ドロップに加えてレアドロップらしき物があった。



――――――――――――

『鼠小人の黒肉 (消費アイテム)』


病に侵され変色した鼠の肉

それは病に取り込まれているが生きており、故に矮小な物の命を恐ろしき物から護り繋ぎ止めていた


苦しみ、悶え、それでも彼等には其れに縋る他なかったのだ


――――――――――――

『鼠小人の金槌 (消費アイテム)』


鼠小人の持っていた金槌の一部

道具は知恵を与え、力を齎し、理性の象徴でもある

其れは鼠小人にとって忌まわし物だったが、皮肉にも自身を護る道具でもあった

――――――――――――



 相変わらず核心を隠す様な謎テキスト。

 考えてみても情報が足りなさ過ぎて理解できなかった。

 小型肉食恐竜のドロップのテキストと合わせて考えるなら、どうやらこの世界には生物を蝕む何かが存在すると読み解けない事もない。


 ふと見れば周囲は菌類苔類パラダイス。

 なんとなく下手人が分かってしまった気がしたが早とちりは危険なので断定はしない。

 

 しかし、本来この繁華街を賑やかにする人々の代わりの様に沢山生えてるキノコを見るとどうしても疑ってしまう。


「(キノコが錆臭かった理由って……)」


 ふとあまり想像したくない理由が過ぎるが、青鹿は少し顔を顰めるだけでなんとかスルーした。

 

 取り敢えず今は考えても仕方がない。当初の目的通り赤く大きなキノコを収穫する事にする。


 見た目は赤い半透明のエチゼンクラゲ。直径10m程の大型キノコだが、先程の錆臭さのせいでうっすら見える中身が脳味噌に見えてくる。


 科学の実験で行うように手で仰いで嗅いでみる。 

 感じたのは芳しい香辛料と醤油寄りの塩気のある香り。キノコらしからぬ香りである。


 軽く触れてみると、手にじんわりとした熱、痺れる様な感覚。むんずと掴んで引っこ抜くと、エチゼンクラゲの脚の様にワラワラと菌糸が垂れ下がる。


 使えるか分からないがなんとなく愛嬌があると思ったので、取り敢えずボロボロの袋に入れておく。

 残念ながら今はインベントリ要素も解放されてないので、今はこのボロ袋だけが頼りだ。


 他にも何かないかと屋台を突いてみると、ガシャンとあっさり崩れてしまい何も見つからない。

 なんの屋台かはハッキリとは分からないが、大きな鍋が幾つもある事ぐらいは分かった。

 赤い暖簾も相まって、青鹿にはラーメンを連想した。


「(…………ラーメン、食べたいな)」

 

 ゲーム以外の趣味は?と聞かれれば『ラーメン屋巡り』と答えるのがこの男だ。

 最近は家の近場でも美味いラーメン屋を発見して御機嫌である。ラーメンを連想した事で急に腹が空く。


「(今日はここで一旦切り上げるか?)」


 そんな事を考えた矢先、空きっ腹の腹に穴が空いた。

 バン!と鼓膜を打つ大きな音。銃弾が青鹿の腹を貫いていた。


「おっ?」


 姿勢を低くして索敵。下手人は路地に隠れる様に身を乗り出していた鼠小人。

 金槌型と違い、腕から腹まで機械化しており、腕の先は銃に変形していた。


「(まさかそれは心で撃つタイプの……?)」


 ぱっと見似ていたので一人で虚しく小ボケ。

 腹をぶち抜かれたにしては余裕過ぎる態度。2発目が放たれるが華麗に回避つつ剣を投擲。鼠小人は咄嗟に避けようとしたが、銃を撃った反動で一テンポ遅れて体勢を崩す。


 その隙に素早く接近。左右に揺れて照準をズラし、腹部に綺麗に膝蹴り。吹っ飛ばして剣を回収。あとは先程同じだ。

 首を捻り壊せば、鼠小人は泥となって消える。



「(銃は思ったよりダメージないが先制とられるのが厄介だな)」


 これは索敵系のPERKを速急に取らなければ、そう思い青鹿は更に奥へと足を進めた。




――――――――――――

炻殷弾サンドレッド・穢 (消費アイテム)』


血が固められて形成される弾丸の一つ


命を消費して形成される弾丸は凡ゆる物に干渉を可能とする

悪魔にとって有効な弾丸であり、原型となる炻殷弾は代用品が開発されるまでは大量に生産された

――――――――――――




༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽ この孤独なSilhouetteは…?


༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽サラッとエグいこと書いてるフレーバーテキストは仕様です

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― 新着の感想 ―
[一言] 「間違った方向に進んでしまったスチームパンク」 確かにこれなら会う度にSANc入りそうだ クトゥルフ民でも0/1食らうんじゃないかな? 「なんとなく愛嬌があると思った」 マジかよこいつ
[一言] >キノコ あっさり食ったよこの人w 過去シリーズで毒殺された経験はないのセイガ氏?
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