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天使いの図書館  作者: 里見零
序章
1/9

──=悪

 自分は悪人だ。


 何故か、それは今自分の目の前に広がる光景を見ればすぐにわかるだろう。

 

 あたりを見渡せば、生きているのは自分だけで足元には無数に死体が転がり、むせかえるような血臭に当たりが包まれている。空は雨も降っていないのに黒く染まり、周囲には至る所で炎が上がっていた。


 ふと自分の体を見れば、今先ほど切り殺した敵のねっとりとした血で真っ赤に染まった両手。泥と返り血で最早浅黒くなった顔。手に持った身の丈を超える剣は血で錆びつき、刃こぼれがひどい状況だった。


 自分は悪人だ。今日も数えきれないほどの敵を殺した。しかし敵を殺さなければ自分が殺される。今自分が立っているのは戦場であり、戦争の最中なのだから相手も殺される覚悟で向かってきているのだから、仕方がないことなのだ。"本来"なら。


 あたりに転がる死体は全て敵の死体なのだ。前にも後ろにも敵の死体しか転がっていない。もう一度確認しよう、今現在戦争中で自分が立っているのは戦場だ。

 つまり敵味方含めて多くの死体が転がっていなければならない。


 自分は悪人だ。圧倒的な力を持ちながら、自分が一方的になると知っていながら、向かってくる敵を憐れむことなく殺した。

 

 今回の敵の勢力約2000名をたった1人で沈めたのだ。敵の中には途中で戦意を喪失し、その場に無防備に立ち尽くしている者もいた。こちらに助けを乞う者もいた。自国に愛する家族を残し、なんとしてでも生きて帰ろうと必死に逃げる者もいた。全部殺した。1人残らず皆殺しにした。


 何故か、それが命令だったから。戦争に勝利を確信した国が反乱勢力を残すまいとして、撤退していた敵のもとに自分1人を差し向けた。


「ぅ……ぅぅ……ぅぁ…….ぁぁ」


 足元からうめき声がする。先程斬り殺したはずの敵がまだ生きていたらしい。下手に生き延びてしまったため苦しみ続けていたのだろう。


グサリ


 うつ伏せになっていたので後頭部を持っていた剣で突き刺した。うめき声は一切聞こえなくなり、あたりはパチパチと燃え上がる炎の音に包まれた。


『サード。掃討は済んだか?』


突然頭に聞き覚えのある声が響いた。恐ろしく落ち着いていて、恐ろしく冷たい声が響いた。


「……はい」


『ならばすぐに戻ってこい』


そう一方的な命令をし、声はきこえなくなった。


「……ぁ」


 声が聞こえなくなったのと同時に急に体の力が抜け、その場に膝から倒れ込んだ。倒れ込んだ先には血溜まりが広がっており、呼吸ができない。意識が朦朧とし、力が抜け視界が霞む。


『……あぁ、でもこれで……』


 これでもう誰も殺さずに済む。これでもう誰も傷つかずに済む。もう思ったところで意識が完全に途切れた。


霊期1987年、1人の悪人の人生に幕が降りた。





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