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女勇者は失恋したので旅に出ます。

作者: 群青焼き

ただの思いつきで書いた作品です。

初めての小説なので、フワッとサラッと読んでいただければ幸いです。誤字脱字、怪文書でお目汚し申し訳ありません。

長く辛い旅を終え、魔王の討伐を成し遂げた私達はお城に戻ってきた。


今日は魔王討伐を祝した盛大なパーティーと、共に旅をして来た第二王子の婚約発表が催される。


そう、女勇者である私の大失恋確定日である。


聖剣に選ばれた私はごく普通の平民で、多畑を耕すことで生活していた農村出身の田舎者であった。魔王復活の際、天命を受けたお偉い神官がこんな寂れた村に訪れて、私を見つけるやいなや「貴女が聖剣に選ばれた勇者様です。」と宣った。

ありえない。私も両親も、村全員がそう思ったのだが、反論の余地もなく、あれよこれよとお城に連れてかれ聖剣を授けられてしまった。

聖剣は相応しい持ち主ではなければ弾かれる。それが無かったのだから、本当に私が聖剣に選ばれた勇者なのだろう。周りは拍手喝采でお祝いムードであったが、私はただ呆然とするしかなかった。


そんな平民の、ましてや田舎者の私が勇者に選ばれたことが面白くなかったのか、同行する特定のメンバーは不満気であることが露骨であった。


一人は、お城を守護する名を馳せた騎士様。

戦闘経験も豊富ながらまだ30手前のガタイの良いなかなかの色男である。「ぽっと出の女が剣を振るえるわけがない。」「剣士としての誇りを感じない。」とお小言が多いこと。

いやはや、私は好き好んで勇者になったわけではないのですが…。

私は彼に見えないよう溜息を吐いた。


そして、もう一人は最年少で王宮魔術師の長に抜擢された天才。魔法使い。

長い黒髪を束ね、モノクルを持ち上げる姿は何とも色気があり、お顔もお綺麗だかとんでもない毒舌野郎で「魔法知識のない者が魔法を使えるようになるなど、我々への冒涜だ。」「作法がなっていない。」とネチネチネチネチと嫌味を述べてくる。

へーへー、魔法を勉強出来る恵まれたお坊ちゃんには下々は無作法に見えますでしょうね。

私は内心で舌を出していた。


補助魔法を得意とする僧侶は女性で、有名な教会から派遣されたご立派な方だ。「聖女」と信者たちから親しまれており、聖女と呼ばれるだけあって、優しく穏やかな女性であった。

大事に囲われていたせいであまり外のこと知らないらしい。私も田舎育ちなので世間には疎い。親近感から打ち解け合うのは早く、すぐ仲良くなった。その存在はまさに癒やしである。

数少ない女性同士、仲良く出来ることに越したことはない。


そして最後にこの国の第二王子様。金髪に碧眼といかにも王子様といった風貌の青年で、民衆からの支持を得るため、彼も魔王討伐のパーティーに参列することは決まっていた。外見が王子様な彼は中身も見事な王子様で、別け隔てなく優しい人であり、田舎者である平民の私にも平等に接してくれた。


剣術も魔法も彼が教えてくれた。


騎士も魔法使いも私が気に食わないというのが分かりやすく、見て覚えろだとか、本でも読んでろとかしか言わない。教師に向かないタイプだ。僧侶は快く教えてくれようとしてくれたのだが、補助魔法しか使えないので、戦闘には向かない。


なので、王子様が進んで教鞭を執ってくれたのだ。


嫌な態度を取るのではなく、得意を伸ばし苦手と向き合わせる。真摯に取り組み丁寧に教えてくれる。


そんな彼の姿に敬愛を越えて淡い恋をするなのいうのが無理なことであった。私も年頃の娘である。勇者になる前はただの田舎娘で、恋だってまだの夢見る乙女だったのだ。

彼の優しい微笑みと励みは、魔王討伐という恐ろしい戦いへ赴く私の心の支えとなった。


それは身の程知らずの恋であると自覚していた。


彼には婚約者がいて、国の未来のために支え合おうと誓った女性がいた。幼少期から愛を育んでおり、互いに尊重し想い合っている、旅に出た先で度々語られる彼の寂しそうな顔を見る度胸が苦しかった。


私は彼の笑顔が好きだ。

早く旅を終わらせて、彼をお城に帰してあげたい。


私は彼を婚約者から奪いたいと思うほど深い愛は持ち合わせてはいない。

何より、それは私に目をかけてくれた彼に対する裏切り行為だ。


たから私は、彼の『友』として隣に立つことだけをこの旅で望んだ。


始めは彼に引っ張られるように先導する彼に付いて行くだけだった私も、旅に慣れてくると彼に意見を出して旅路は並ぶよう歩く。

そして最後は背中を王子様や仲間に任せて魔王の城を駆け抜けた。


きっと、それはただの「女の子」だったら出来ない。

好きな人との特別な体験だっただろう。


私はとびっきりの思い出を胸に、この恋心に蓋をすることを選んだ。


煌びやかなパーティー。鮮やかなドレスと品の良いスーツを纏う招かれた客人たち。キラキラとした華やかな世界。

平民には手の届かない、不釣り合いの世界。

眩しすぎて目がチカチカする。


このパーティーの主人公たちもいったん実家に戻って羽根を伸ばした後、思い思いにおめかし込んで社交界へと降り立った。

騎士様も魔法使いも自分が魔王討伐に投じた際の武勇伝を(騎士様は魔王決戦の際の興奮を抑えきれないのか豪快に、魔法使いは控えめに、しかし自分の活躍を詳細に)語っては周りを楽しませているようである。


もちろん、私も例外ではない。

私は女勇者の格好の時とは別人のように大変身していた。


伸ばし放題で一つに結いていた髪は綺麗に手入れされツヤツヤに、赤い髪のウェーブの美しさを見せびらかすようにたた下ろしただけにして、多すぎる髪は真珠のバレッタで留めている。

肌は僧侶と侍女さんたちの力で、プルプルのもちもちに。

サラシで押し潰していた胸も本来の形に戻し、凹凸のあるボディに添うように作られた淡い緑のドレスを着た私は、動きやすさ重視だった男装の「女勇者」の痕跡を跡形も無く消え去っていた。


実家が遠い私のために、僧侶が気を利かせてドレスとメイクアップしてくれる侍女を付けてくれたのだ。

彼女は、私の気持ちを最初から気付いており、私がどうしたいかも汲んでくれた。それ故に「最後の最後に好きな人の前で自分を着飾ってみせましょう」とお茶目に笑ってくれた。


聖女様、様々である。

私はこの旅で「親友」も手に入れていた。


あまりの変わりように、僧侶の隣で親し気に話す私を女勇者だとは気づかなかったようだ。騎士様も魔法使いも僧侶に私を紹介してほしいと頼み込んでいたが、僧侶も私も面白いのでネタばらしするまでスルーした。


それにしても凄いな。

外見が変わっただけでこんなに色んな貴族から声が掛かるとは思っていなかった。

私は僧侶の傍から離れないようくっついて曖昧に微笑んでいることで何とか場を切り抜けたが、僧侶は楽しそうに私を眺めるばかりである。


そして、パーティーも終わりに近づき、本日最大のイベント「ご褒美授与式」が今開催される。

会場の皆も、何より私達もドキドキであった。


一人一人名を呼ばれ、前に出る。

王様に「望みはなんだ」と問われれば、皆胸に秘めていた褒美を所望する。


騎士様は出世と爵位の昇格を。

魔法使いは魔法研究のための財産確保を。

僧侶は教会の約束されし安寧と個人的に過保護な教会に外に出るための口添えを願った。


そして、私は…。

名前を呼ばれて前に出ると、周りからざわめきが走る。

騎士様と魔法使いは分かりやすく度肝を抜いており、隣の僧侶はニコニコとしていた。


「私は『自由』を。

この国を出て、各国の旅をする権利を望みます!」


会場は更にざわめき始める。

王様も驚きを隠せないようで、少し焦りが顔に出ている。

騎士様も魔法使いも僧侶も褒美は想像の範囲内だったため、私の要望は「爵位と領土」だと思ったのだろうが、予想が外れたことに王様と貴族は戸惑っていた。


「勇者よ、魔王討伐で旅は疲れただろう?

爵位を賜って王都でゆっくりと傷を癒やすべきではないか?」

「いいえ、この旅で私は有意義な時間と経験を得ました。

私の世界は狭い。だから、もっと広い世界を見たいのです。」

「しかし、勇者よ。本来そなたは女性である。危険な旅に出るより結婚をするのが、女性の幸せではないか?」


どうしても、この国に勇者を留めて置きたい王様がそれらしい理由を並べてくる。貴族も頷いているが私の意志は変わらない。


「結婚をして全員が全員幸せになっていますか?

結婚したいかどうかは私が決めることで、他者から言われてするものではありません」

「しかし、そなた我が息子に好意を寄せていたのではないか?

皇后とはいかずとも、皇妃に迎え入れることも出来るぞ?」


爵位を与えて、この国の貴族と結婚させたかった王様はそれは叶わないと分かると、とんでもない王様の爆弾発言を投下した。

不敬など知ったことかと私は王様をじろりと見た。


「それこそ、不幸です。私は彼とその婚約者が想い合っていることを知っています。

私は『友』として彼らの婚姻を祝したいのです。」


私は寄り添う二人を見る。お似合いの二人だ。

討伐で長年離れていても、互いに慕い合う気持ちは変わっていなかった。そんな二人を私で汚したくない。


私はにっこりと笑って二人に手を振った。


「王子様、婚約おめでとう!!

話で聞いてたけど、本当に素敵な人だね!

私は君たちの結婚式には出れないけど、お幸せに!

…君たちの幸せを願ってるよ!!」


私は、魔法で小さくしていた聖剣を取り出して魔法陣を展開する。

鉄錆色の毛を持った大きな狼の魔獣を召喚すると、私は跨った。


「王様、私は『望み』を伝えました。

それは決して難しいことではないはずです。

自由となった私はこれから旅に出ます!」


最後に本当にお世話になった僧侶に「手紙を書くからね!」と手を振る。

私は先に、彼女だけには私の願いを話していた。

そして、褒美をもらえたその時は外の世界を教えて欲しいと彼女から頼まれたのだ。


本当に自由になりたいのは彼女だろうに、優しい彼女は私の代わりに世界を見てきてくれたら幸せだと言ってくれた。


親友からの頼みである。

彼女のためにも私は旅に出ることをやめるわけにはいかない。


止めようとする衛兵を魔獣が飛び越え、何やら騎士様や魔法使いの静止を求める声を聞いた気がするが気のせいだと振り払ってバルコニーから飛び降りる。


感覚遮断、探知遮断の魔法を自分に掛けて私は国境を越えた。


最後に照れくさそうに、そして「ありがとう」と微笑む彼の姿が思い浮かぶ。


ああ、やっぱり、好きだなぁ。


私は頬に伝う涙をそのままに駆け抜ける。

夜は寒いけど、春の気温で温かい夜風が気持ちいい。


とても、とても、苦しいけど。

私は満ち足りた晴れやかな気分だった。


○女勇者

 田舎娘が勇者になってしまっただけだと自分は思っているが、魔力と剣術は勇者の称号に預かるほど潜在能力に長けていた。それも、聖剣のおかげだと思っている。

 王子様への恋は自分の人生の宝物だと思い出にして、旅に出る。

 聖剣は持主が死ぬとただの剣に成り果てる。


●第二王子

 ハイスペックイケメン。外見王子なら心まで王子。婚約者とは相思相愛の恋人同士。

女勇者のことは妹のように可愛がっていた。そして、彼女の恋心にも気付いていたが、きちんと断ろうと思っていた。

 女勇者の心からの祝辞に、幸せ一杯である。

婚約者も女勇者を気に入っていたので、彼女を害する者から絶対守ろうと根回ししてくれている。


○僧侶(聖女)

 優しく聡明な女性で女勇者の理解者であり、姉のポジション。

 箱入り娘と侮ることなかれ、敵に回すと一番厄介である。外に連れ出すきっかけをくれた。また一個人として接してくれた素直な女勇者に恩を感じており「親友」になれたことを嬉しく思っている。


●騎士様

 技術も才能もあるのに、爵位が低いためお嫁さんが来てくれない。討伐に成功したので出世と爵位を賜ることで結婚を夢見ていた。

 特別に好きな人がいたわけではないが、パーティーで別人になった女勇者を見て、好みがドンピシャだったようだ。

 当初は女勇者を快く思っていなかったが、成長した彼女を見直して最後には仲間として受け入れていた。


●魔法使い

 王子の次にパーティーの中では爵位が高い。貴族の血に誇りを持っていたので、勇者に選ばれた女勇者を最後の最後まで認めることは出来なかった。ただ、魔力操作や莫大な魔力量は悔しいが一目置いていた。

 プライドとコンプレックスの狭間で、美しく変身し魔力が輝かしい女勇者に一目惚れしたが、正体が分かり愕然。

 失恋し更にプライドとコンプレックスがズタズタにされた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い子!女勇者ちゃんマジで良い子! 聖女ちゃんも良い子! 第二王子も良い子! 筋肉とメガネ?知らない人ですね! [一言] これから先の勇者ちゃんは、様々な場所を旅して、色々な人に出会って…
[一言] これはその後女勇者には幸せになってもらいたい くだらないプライド発揮せずに最初から女勇者に親切にしてれば野郎2匹にも機会はあったかも知れないのに
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