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第八章 新たな私兵

 日差しが強くなり、動くと汗ばむようになった頃のこと。昼食後の仕事も一段落付いたピングォはゆったりとお茶を飲んでいた。

 青い香りにほんのりとした渋味。一緒に摘まんでいる乾燥させた桑の実の酸味は頭の中をすっきりさせてくれるようだった。

 仕事の合間の安らいだひととき。それをじっくり味わっていると、部屋の外からどたどたと騒がしい足音が聞こえてきた。

 何事かと思いながらぼんやり桑の実を食べていると、今度は扉を強く叩く音が聞こえる。

「姐さん、姐さん!」

 扉越しに聞こえる興奮気味のその声に、ピングォは気持ち大きめの声で返す。

「どうしたんだいチュンファン。そんな大声出さなくても聞こえてるよ。

とりあえず入りなさい」

 扉が勢いよく開く。チュンファンが部屋の中に入ってくると、その後ろに何人もの男が集まっているのが見えた。

 あの男達は何だろう。疑問に思ったピングォが訊ねると、チュンファンは威勢よくこう答えた。

「前に姐さんに頼まれた、私兵にお勧めのやつらです。俺と同じシマのやつらで、馴染みも深いんですよ」

「なるほどね。

それなら、後ろの者達も入りなさい」

 ピングォがそう指示すると、チュンファンの後ろからぞろぞろと何人もの男達が入ってきた。背が高いのから低いやつなど色々いるけれども、誰もみな筋骨はしっかりしていて頼りがいがありそうだった。

 確かに、見た感じ柄が悪いのは否めない。けれども、チュンファンと馴染みが深いのであれば採用するのも悪手ではないだろう。

「こいつらを私兵として勧めたいんだね?」

「そうです。みんな信用おけるやつらですよ

そうだよなおまえら!」

 チュンファンの声かけに、男達がおう! と声を上げて返事をする。少なくともチュンファンが彼らに信頼されているのはわかった。だから、ピングォはこう言った。

「わかった。チュンファンの勧めならうちで雇おうじゃないか。

ただし条件がある」

「条件……?」

 条件と聞いてぽかんとするチュンファンに、ピングォは厳しい面持ちで続ける。

「もしこいつらになにか落ち度があったときは、そいつだけでなくチュンファンにも責任を取ってもらうからね」

 その言葉に、チュンファンはこぶしを胸の前で突き合わせ、頭を垂れて返す。

「もちろんです、姐さん。俺がこいつらの面倒を見ます」

「その言葉、忘れるんじゃないよ」

 チュンファンからの了承をとった後、つづけて男達にも言う。

「あなた達も、チュンファンに迷惑かけたくなかったら、下手なことはするんじゃないよ」

「わかりやした!」

 男達ともそんなやりとりをした後、ピングォは連れてこられた男達を正式に私兵にするための契約書をジーイーに用意させ、男達に書名と判を押させていく。男達が沢山いる部屋に呼び出されたジーイーがいたく驚いている様子だったけれども、チュンファンの手下だと聞くと納得した様子で去って行った。

「姐さん、俺はジーイーに嫌われてるんでしょうかね……」

「あの子は荒事が苦手だからね、柄の悪い男がいっぱいいてびっくりしたんだろう」

 男達が契約書に書きこむ手伝いをしているチュンファンが、少し寂しそうに言うのでピングォもつい苦笑いをしてしまう。

 契約書に男達が署名しているのを見ていると、やはり文字が書けない者も少なくなく、その者の分はチュンファンが代筆している。面倒見が良いのは本当のことのようだ。

 感心したようにチュンファンを見ているピングォに、判を押し終わった男が次々に話し掛けてくる。なんでも、チュンファンは昔、この辺りを取り仕切る頭で、他のシマのごろつきに絡まれたり強請られたりした時には助けてくれただとか、食べ物がない時はシマのみんなの分の食料を、少ないながらもどうにか都合してくれただとか、今でも他のシマのごろつきから自分達だけでなくカタギの人々を守ってくれたりしているだとか、そんな話を聞かされた。

 まだやんちゃをやっているのかと思うとすこし呆れてしまうけれども、そうやって守るものがあり、守ろうとすること自体は良いことだ。なにより、今でも手下達の面倒を見ているのにちゃんとピングォの家での私兵としての仕事もきちんとこなしているのであれば何も文句はないし、問題は無いのだ。

 問題が無いばかりではない。こうやって手下を私兵として雇えるのならば逆に利益になっていると言っても差し支えはないだろう。地域のひとからすれば、ごろつきを私兵として雇うのは不安に思われるかも知れないが、下手にどこにも縛られない状態で抗争を起こされるよりは、こうやって私兵として雇い上げ、規律を持って悪漢どもを処理出来るようにしてしまった方が、少なくとも宮廷の役人達の覚えは良い。

 そう、なにも悪いことはないのだ。彼らを雇うことは……

 契約書の記入が終わり、晴れて皆私兵になったと言うところで、ピングォがチュンファンに言う。

「もし仲間が食べるものが無いと言った時は、私に言いなさい。

ある程度は面倒見ようじゃないか」

 その言葉に、チュンファンだけでなく私兵になった男達も声を上げる。

「ただし、いつでも、つねに。とはいかないからね。本当にどうしようもなくなった時だけだからね」

 すると男達は何度も頭を下げながらピングォに言う。

「ありがとうございます! 姐さん!」

「姐さん!」

「さすがチュンファンさんの雇い主だ!」

 そう、食べる物さえあれば犯罪をしない人間は数多くいる。そこを上手い具合に補佐するのが、ピングォ達のように金を持ったものの使命だとそう思っている。

 問題は、自分が持ちこたえられるように上手く振る舞うことが、簡単ではないという事だ。

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