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第四十五章 夏のお茶会

 照りつける日差しが厳しくなり、乾いた熱風が肌を撫でる頃。紅毛人達の貿易船が広州に到着しはじめて、そこからの朝貢品が届くようになってきた。

 広州にやって来た紅毛人達が持ち込んだ朝貢品は、直接宮廷に持っていくのではなく、一旦ピングォの元に集めてある程度の検品をしてから、いくらかまとめて皇帝の元へと運ばれる。たまに広州で紅毛人達が検品をした時点で問題が見つかり、そこに留めて修理なり何なりをしてからピングォの元へ運ばれて来ることもあるが、それにしても一旦連絡を寄越してもらってから、その品物の到着が遅れるというのを皇帝へ報告すると言うことをピングォは仕事としてやっている。この仕事を親から継いでもう何年も経つけれども、やはりこの仕事は面倒なことが多いし厄介なこともある。けれどもとても刺激があって、やめたいかと訊かれたら否と答えるほかない。

 今日も広州から朝貢品が届いた。それを使用人に蔵へと運び込ませるよう指示を出してしばらくすると、部屋の扉を叩く音がした。

「入りなさい」

 扉の向こうへ返事をすると、入ってきたのはジーイーと、それに連れられたジュイズだった。

「姉さん久しぶり」

「あなたが来るなんて珍しい。今回は何があったんだい?」

 前回来たときは恋路の手助けをして欲しいということだったけれども、今回もそう言ったことだろうか。それとも、皇帝へ献上する物語や詩歌を持って来たので寄っただけなのか。そう思っていると、ジュイズはワクワクした表情でこう答えた。

「そろそろ朝貢品が届く頃だと思ってさ。姉さん良かったら俺にも朝貢品見せてくれない?」

「朝貢品を?」

 朝貢品は皇帝に献上するものだ。なので、一般的な臣民はそれを目にすることはまず無いのだけれども、ジュイズは姉のつてを頼って一度で良いから見てみたいと思ったのだろう。

 そんなに気安く見られるものではないのだけれど。ピングォはそう思ったけれども、年に何度も機会があるわけではないので、折角だからジュイズにも見せておくことにした。

「わかった。蔵に入れてるからついておいで」

「やったぁ! ありがとう姉さん!」

 跳びはねんばかりに喜ぶジュイズから視線を外して、今度はジーイーの方を見る。

「一応、ジーイーも付いてきてくれるかい?

ジュイズはそそっかしいから、何かあったときいてくれると助かる」

「かしこまりました」

 ぺこりと一礼をしたジーイーと、上機嫌なジュイズを連れて部屋を出て、蔵へと向かう。蔵は庭の一角にあって、煉瓦造りの赤い壁と瓦が敷かれた黒い屋根が、眩しい陽に照らされて目に焼き付くようだ。

 蔵の中へとると、大きいものや小さなものが細々と置かれている。それは主に西からの輸入品であったり、西に輸出する予定のものだったりするものだ。

 その中に、朝貢品はあった。大切そうに箱に収められ、ピングォがその箱を開けると、中に入っていたのは黄金色で宝石に彩られた時計だった。

 それを見てジュイズが溜息をつく。

「すごい、見事なものだねぇ。皇帝陛下はこんなものをいくつも持ってるんだ」

 ジュイズもこれで家の仕事に興味を持っただろうか。ピングォはなんとなくそれが気になって訊ねる。

「私がやってるこの仕事を、あなたがやる気はない?」

 答えはすぐに返ってきた。

「姉さんがやってる仕事は、難しすぎて俺には無理だよ。俺は数字に弱いし、山の暮らしが性に合ってるんだ」

「……そうだね」

 ジュイズの言葉に、ピングォはやはり跡継ぎの問題の話は、ジュイズにはできないなと改めて思う。そんな事を考えたら、なんとなく気持ちが落ち込んだ気がした。

 朝貢品の蓋を閉め、蔵から出る。そこでピングォの目に入ったのは、青々とした草木の間にある食台だった。少し気分を変えたい。そう感じたピングォは、ジーイーにこう言った。

「ねぇ、そこでちょっとお茶でも飲まないかい?」

「そこでですか? 暑いですよ?」

「たまには暑い中飲むのも良いでしょう?」

 ピングォがなにか抱えているなと察したのか、ジーイーは一礼をしてそこを離れようとする。その時だった。蔵の上から誰かが飛び降りてきたのだ。飛び降りてきた人影はしれっとした顔でピングォに話し掛ける。

「よう、久しぶり。蝋梅蜜ができたから持って来たぞ」

 そう言って持っていた籠の中から栓がしっかり閉められた壷を出しているその人に、ジュイズが駆け寄った。

「コン、久しぶり! これから姉さんがお茶会するって言うから、コンも一緒にお茶しよう」

「ピングォが良いって言ったらな」

 良いと言うのはわかっているといった顔のコンに、ピングォはくすくすと笑って言う。

「もちろん良いさ。

それじゃあジーイー。お茶は六人分用意して」

「六人分ですか? ああ、なるほど……」

「ウーズィとチュンファンも呼んでおいで。折角コンが蝋梅蜜を持ってきたんだ。みんなで食べよう」

 すぐにピングォの言わんとすることをジーイーは察したようだけれども、念のためピングォは明確に指示を出す。一礼をしてその場を去って行ったジーイーを見送ってから、残りの三人は、庭の中にある食台の方へ向かい、椅子に腰掛けた。椅子が陽に照らされて熱を持っているけれども、なぜか心地よい温かさだ。

 椅子に座ってしばらく待っていると、茶器を持ったジーイーと、お菓子らしきものを持っているウーズィ、その後についてチュンファンがやって来た。

「お待たせしました」

 ジーイーが茶器を食台の上に乗せ、六つの茶杯にお茶を注いでいく。その間に、ウーズィは籠に入った緑豆碰を食台の上にそのまま乗せた。

 お茶とお茶菓子が揃ったところで、ピングォは全員椅子にかけるように声を掛ける。それからお茶会は始まった。

 コンが作った蝋梅蜜は、お茶に入れて味わうと、熱いはずなのに涼やかだ。それに緑豆碰を合わせると、少し沈んだ気持ちも持ち上がる気がした。

 ふと、チュンファンがピングォの顔を覗き込んでこう言った。

「姐さん、なんか最近元気が無いように見えるんですけど、何かありましたかね」

 何か、といわれたら跡継ぎのことで悩んでいると言うのがそうなのだけれども、それはなかなか口に出せない。事情を知っているジーイーも、そのことは語らなさそうだ。

 気の合う家族のようなこの顔ぶれで、こうして過ごす時間がまだまだ惜しい。ずっとこんな日が続けば良いのにと、ピングォは思った。

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