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第二十九章 鮮やかな焼き物

 春になり暖かな日差しが街中を照らす頃。ピングォは仕事をしながらもついうとうとしてしまっていた。来月にでも紅毛人の船が西に向けて出発するので、仕事の方も大詰めなのに眠気を誘う気候にはなかなか勝てないのだ。これはいっそのこと、一旦昼寝でもしてから仕事をした方がはかどるかも知れない。そう思った時のことだった。誰かが部屋の扉を叩く音が聞こえた。

 眠気を払うように頬を手のひらで叩き、返事をする。

「入りなさい」

 その声に、扉を開けて入ってきたのはジーイーだった。茶器は持っていないし、何の用だろうと思っていると、ジーイーがこう言った。

「買弁の方がいらしています」

「買弁?」

 またなにか手を借りたいのだろうかと思いながらも一応訊ねる。

「いつもの買弁かい?」

「はい。なんでもピングォ様の手を借りたいと」

 やはりか。とピングォは思う。とりあえず、買弁を通すようにジーイーに指示をして、ピングォは長椅子へと移動する。それから少しのあいだ待っていると、また扉を叩く音が聞こえた。また入るようにと返事をする。入ってきたのは、紫がかった茶色の急須とふたつの茶杯をお盆に乗せたジーイーと、その後に付いてきた買弁だ。ジーイーが長椅子の前の食台に茶器を置いてから、部屋の隅にある予備の椅子を食台に付ける。そこに座るようにピングォが買弁に促し、座った所で話をはじめた。

「で、私の手を借りたいみたいだけど、今回は何があったんだい」

 鷹揚にそう話し掛けるピングォに、買弁は薄くなった頭を撫でながら答える。

「はい、実は、紅毛人が陶磁器を買いたいと言っていまして。でも突然の事なので、すぐに私どもの方では窯元に手配出来ないのです。

それで、ピングォ様なら都合してくださるかと思って」

 まったく、便利なように思われている。とピングォは思ったけれども、自分の仕事はそう言う物だ。しかし、陶磁器と言えば以前にも買弁が無理難題を言ってきたのをピングォは覚えている。だから、確認するようにこう訊ねた。

「まさか、紅毛人が言ってる陶磁器ってのは天青じゃあないだろうね。もし天青なんだったら、こっちはお手上げだよ」

 すると買弁は、手を肩の辺りで振ってこう答えた。

「天青だなんてとんでもありません。まぁ、あの時は竜泉窯のもので納得していったようですが……

今回は天青ではなく、華やかな絵付けがされたものがほしいと言うことで」

「華やかな絵付け」

「はい、そうなんです。多分、景徳鎮のことを言ってるんじゃあないかと思うのですが」

 それを聞いたピングォは当然と言ったように返す。

「それなら、景徳鎮を都合してくれば良いじゃないか」

 それに対して買弁は、頭を振って返す。

「それが、来月出航する船に積みたいとかで、いまから窯元に発注しても間に合わないんです。はああ、どうしたものか」

 いかにも哀れだと言わんばかりの買弁の口ぶりに、ピングォは頭に刺している簪をいじりながら考える。そんな事を言われても、こちらもそんなに蓄えがあるわけではない。買弁の希望を常に叶えられる存在というわけではないのだ。

 そう思っていると、話が始まって隙を見つけられていなかったのか、空だった茶杯にジーイーがお茶を注ぎながら言う。

「ピングォ様、景徳鎮の二級品のものなら蔵にあったはずです」

 それを聞いてピングォが驚く。

「なんでそんなものが蔵にあるんだい?」

「二級品だから買い手が付かないと窯元に泣き付かれて、お父様が仕方なしに買っておいたものです。

二級品ですから、使うわけにもいかず蔵の中で眠っているようですけれど」

 それを聞いて、買弁は泣き付くような勢いで言う。

「ああ、二級品でも良いのです。紅毛人達に売れればそれで良いんです。ぜひそちらを分けては下さいませんかピングォ様。

もちろん、お代は払いますので」

 商魂たくましいなと思いながら、ピングォはジーイーにその景徳鎮を持ってくるように指示する。ジーイーは一礼をしてから部屋から出て行った。

「しかし、二級品で紅毛人は納得するのかね」

 ピングォの疑問に、買弁はまた頭を撫でながら答える。

「なんでも、西の国ではこの国ほど焼き物といいますか、陶磁器の技術が発達していないそうで、多少歪んだりしていても、この国の陶磁器だというだけで高値が付くんですよ」

 それから、ピングォ様にも悪い話ではないでしょう。と買弁はにやにやと笑っている。

 正直なところ、ピングォも蔵で腐らせておくよりはどこかに売ってしまった方が蔵も空くし良いことは多い。けれども紅毛人のことがますますわからなくなっていった。紅毛人は、そんなにも貧しい生活をしているのだろうか。それなのに海を渡ってこの国に? わからないことだらけだ。

 買弁と話をしているうちに、ジーイーがウーズィを連れて蔵の中から景徳鎮を持って来た。一抱えほどある箱ふたつ分いっぱいに、鮮やかに絵付けされた壷や杯、茶杯、急須、皿、そんなものが入っている。もちろんそれらは紙で包まれていて、中身を確認したときに、絵付けの状態も確認したのだ。

 食台の上に置かれた茶器を端に寄せ、箱から出した陶磁器をひとつずつ確認していく。どれもきれいに色がのっているし、一見どこが悪いのかはわからない。

 けれども、食台の上に置いてじっと見ると、どれもが微妙に、形が歪んでいるのがわかった。

「なるほどね。使用に支障はないと思うけど、確かに二級品だ」

 ピングォが納得した様にそう言い、買弁の方に目をやる。

「それじゃあピングォ様、こちら全て買い上げて構いませんかね?」

 揉み手をしている買弁に、ピングォは陶磁器を紙で包み直しながら返す。

「ああ、これは全部持っていきな」

 陶磁器をすっかり箱の中にしまい終わってから、ピングォは値段を提示する。買弁は喜んでその額を支払い。陶磁器の入った箱を背負って意気揚々と帰っていった。

 買弁が帰った後、ピングォはお茶をひとくち飲んで溜息をつく。

「あいつはいくらであれを売る気なんだろうねぇ」

 そうは思ったけれども、ピングォの元に残るお金に何か変化があるわけではない。紅毛人の相手は慣れたやつにやらせるのが良い。そう思いながら、ピングォは長椅子から立ち上がった。

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