#:8 〜二人の気持ち〜
あー…
「…まだ…宏くんのことが好き…」
お兄様の名前、宏っていうのか…
って、違う違う。俺はこんな時まで何を…
「お兄様のこと…やっぱり好きなんだ…」
「…ウン。ごめんね、守…あたし、親が決めた相手となんて…結婚したくない!するなら、自分の好きな人がいい…」
泣きながら言う神崎。
でも、それはそうだと思う。
好きでもないやつと結婚なんて、誰もしたくないはずだ。
…きっと、神崎は本当にお兄様のことが好きで、諦めきれないんだと思う。
けど、それでも好きな人のことを「お兄様」なんて呼ぶのは、きっとお兄様に子供だなんて思われたくなかったからだ…。
「…ばーか。誰がお前と結婚するかよ!お前みたいな自己中な女、ヤだね俺は。ったく、なんでお兄様はこんなやつがいいのか…」
「…えっ?宏くんが…あたしのこと?」
「うん。まだ好きだって言ってたよ。多分あんなかしこまった喋り方も、お前が宏さんのことを『お兄様』って呼ぶのと同じ気持ちだからだよ。」
「あ、宏くんは宏明っていうんだよ。てか宏くんって、あたしに自分のこと大人だって思わせたかったんだ…」
あ、宏明さんね。
「あ、あのね、守!」
「何?」
「あんたって、確かあたしの…」
「執事です。」
何か企んでる。俺はそうよむ。
けど、仕方ないから聞いてやろうと思った。
「あたしのお願い、聞いてくれる?」
神崎は、にっこりと笑った。
けどその笑みは、別に何かを企んでる感じではなかった。
本当の、お願いのようだ。
俺は、神崎のその「お願い」を聞くことにした。
そして俺は静かに頷く。
「あたしをこの家から連れ去ってほしいの」
「無理だろ。」
俺は即答した。
冗談だと思いたかったから。
けど、神崎の目は真剣だった。
「…やめろよ、そういうの。」
「あたしを、神崎家から追放して…。あたしを神崎じゃなくさせてよ!!!」
目は真剣だし、口調も真剣。
けど、俺はさすがに連れ去るのは無理だと思った。
「あのな、神崎。気持ちはわかるけど…」
「気持ちはわかるとか、そういうのを言ってほしいんじゃない!ホントにそう思ってんなら言うこと聞いてよ!お嬢様の命令でしょっっ!あんた執事でしょーーー!!!クビ!聞かなきゃクビーー!!」
ホントに理不尽なお嬢様だ。
そんな滅茶苦茶な命令なんて聞けるはずがないのに。
「…ホントに…一生のお願い…だよぉっ…」
とうとう神崎は泣き出してしまった。
俺は、こんな時でも思う。
神崎…今日結構泣いたし暴れたから眠たいだろうな…と。
最近、作者も眠いです。






