表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/25

#:22 ~神崎と、デート。~

「神崎奈緒です。宜しくお願い致します」


新入社員として、彼女を紹介した。俺は嬉しすぎて資料の打ち間違いを何度もしてしまった。それらを、資料を紙面に作成する前に修正し、制作し終えた。いくらIT企業といえど、俺だって普通の社員と同じくらい仕事するさ。…いや、普通の社員よりは少ないか。


「社長。神崎です」


社長室をノックする音が聞こえた。そして、愛しい(ヒト)の声も。彼女は入ってくると、俺が頼んでおいた資料を持ってきた。


「どうぞ。頼まれていた資料です。」


俺はそれを受け取り、パラパラとめくる。

暫くして、質問した。


「神崎。上下関係置いといて聞いて欲しい。お前、ここに入社する前から俺のこと知ってたよな?」


神崎はその言葉に、目を見開いた。彼女の返答を待っていると、戸惑いを含む言葉が出てきた。


「実は……私の兄も、社長と同じことを言ってました。」


それを聞いて、なんとなくピンと来た。

―――神崎は、俺のことを覚えていない。


「でも、私…実は…記憶が」

「もういいよ」


神崎の言葉を遮り、言葉を発した。笑ってみせたが、彼女は悲しそうな顔をしていた。


「今夜、予定は?」


にっこりと笑って言うと、彼女は少し安心したように答えた。


「…ない、です」

「じゃあ、デートでも行こうか」


俺の言葉に顔を少し赤くしてみせる神崎。昔の横柄な態度とは正反対だ。少し感心した。


「ははっ、食事だよ、食事。俺はそんな怖いことしないから」


そう言ってやると、彼女は笑った。


「是非、お願いします。」

「じゃあ、仕事終わり次第社長室来てくれる?ディナーの時に、さっきの記憶のハナシ。聞かせてもらうからさ。」


彼女は頷き、社長室を出て行った。



「社長!」


神崎は、社長室に入ってきた。そう呼びかけただけで、何も言わない。一応上下関係的には部下だから、「じゃあ行きましょう」とも言えないのだろう。そんな彼女を見て微笑すると、「いこっか」と言った。彼女は暫く俺の顔を見つめた後、「はい」と小さく返事をした。


「あの…社長?」

「ん?」


ようやく目的の店に着き、席にも着いたところだった。その時に、神崎が少し顔を引き攣らせて俺を呼んだ。

俺はその意味が分からず、彼女を見つめ返した。


「私…こんな素敵な店に連れてきてもらって、いいんでしょうか…」

「素敵?ああ、店外に飾ってあるイルミネーションが綺麗だったね。」

「それもだけどっ…そうじゃなくって!!」


益々分からなくなる俺に、彼女は困ったように再び言った。


「こんな…高級そうなお店、私には不釣合いです…!」

「高級そう?…そんなこと気にしてたの?」


俺が溜息をつくと、彼女は少し俯いた。別に、怒ってないのに。


「だって…」

「そんなことない。お前は綺麗だよ。…きっと、お前の男になったヤツは困るだろうなぁ。デート行く時だって、ヘタに汚いところ連れていけねーし。」

「綺麗…なんて、そそそ、そんな!!」


彼女は顔を真っ赤にして、首と手を一生懸命横に振った。


「さぁ…料理は予約の時に言ったし、記憶の話でも聞かせてもらうかな?」


彼女の顔を、覗き込むように言った。彼女は紅潮した顔をそむけながら言った。


「あの…私、自分ではこの会社に来て初めて社長にお会いしたと思っています。」


ズキ。

いきなり傷つくな。


「実は、記憶がなくて…」

「なんで、なくなったの?」


踏み込んではいけない気もした。けど、止められずに彼女に問い掛けた。

彼女は少し躊躇い、やがて意を決したように言った。


「本来私は、社長と同じ高校に通っていたようです。しかし、そこで突然の転校。これは兄から聞かされたことなので、転校した理由までは知らないです。そして、私はその転校と、転校の理由のせいで記憶をなくしたそうです。…兄はそれを、『ショックで記憶をなくした』と言っていました。」


ショック…?しかもそれは、転校と転校の理由も関係しているらしい。では、転校の理由を調べるまでじゃないか。…けど。俺は、そんな簡単に踏み込んでいいのだろうか?

色々な、複雑な思いが俺の脳を悩ませる。でも…彼女のスベテを理解したい。こう言えばいいのだろうか。

俺は、こんな風に思うほど神崎を愛してる。…ハズッ。自分で言っといて、恥ずかしいヤツだな、と思った。


「記憶がなくてごめんなさい。けど…私は…」


途中で、言葉をきる。続きが気になって、思わず身を乗り出す。


「私…社長といると、おかしいんです。社長の一言一言に鼓動が速くなって…」


俺の鼓動も速くなる。

―――それって、まさか。


「これって…恋でしょうか?」


彼女が顔を赤らめて言った。それと同時に俺の顔にも熱が宿る。

そして、高貴な店なんてことは吹っ飛んでて、思わず席を立ち上がり、神崎を抱き寄せた。

そして、少しの不安を込めて…


「俺も…好きだよ」


と、彼女の耳元で呟いた。




これで終わりだとは思っていない。神崎が、このまま簡単に俺のものになるなんて、そんな甘いこと…。

けど、このときの俺は舞い上がりすぎていたんだ。

だから、誰かさんの毒牙にかかったということにも気づかずに、いつもの冷静な判断さえも出来ずにいた。


それでも、神崎、お前を愛してる。

…なんて、馬鹿な男かな。

守と神崎がくっつきました!!


けど、先に謝っておきます。

ごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ