#:21 ~彼女との久対面~
暫く更新が途絶えていて申し訳ないです。これだけは、結構さくさくと更新をしたいのに、正直内容が思い浮かびませんでした。
では、本編に移りますので、どうぞ(*^□^*)
「失礼します」
彼女が言った。俺は緊張の面持ちだったが、出来るだけそう見せないように努めた。ドキドキと、自分の鼓動が早まるのが分かる。自分と顔を合わせて、何か言うだろうか。「久しぶり」なんて言ってくるだろうか。「あの時は何も言わずにいなくなってごめんね」とか。「今でもまだ好きだよ」…とか。色々考える度、顔の赤みが増してゆく。彼女はそれに構うことなく、自己紹介し始めた。
「神崎奈緒です。よろしくお願いします。」
なんの動揺もない、機械的な声。業務的。そんな彼女に、動揺さえも隠せない。俺と彼女の心境は、恐らく逆。今彼女は何を思っているのだろう。もしかして、俺のことなんて忘れたか…?
「あの…えーと、社長。」
どう呼べばいいのか迷ったらしい、俺を「社長」呼ばわりときた。もしかして、これは面接だからきっちりしなければならないんだと思って態度を分けているんであろうか。それにしたって、少し悲しかった。
「…すみませんでした。神崎さん。あなたがこの会社に入社することを希望した理由は?」
「兄が、この会社に入れと言ったからです。」
…「兄」?宏明さん?何故今更、この俺のいる会社に入れと…?
「ちなみに、私と面接する前に社員達と面接をしましたよね。その際にも、今と同じことを言ったのですか?」
「いえ。その時は、別の理由を言いました。」
「その理由は神崎さんの本心ですか?」
「残念ながら、違います。」
こう言えば不利なはずなのに、彼女はきっぱりと言ってのけた。まさか。まさかとは思うが、彼女にはこの会社に入りたいという願望はないんじゃ…?
「神崎さんは、この会社にどうしても入社したいと思いますか?」
「どうしても、とは思いません。」
「それは、入社したいとは思っていないのでは?」
「恐らくそうであると思います。」
俺は溜息をつき、落胆した。まさか、そのまさかだったとは。
「…神崎さん。他にも、この会社に入りたいと思っている方は沢山いらっしゃいます。その方々を押しのけて、あなたはここまで来られました。それならば、それなりの『意欲』が必要です。いくらここまで上ってこれる力があったとて、入社後に立派な働きをしてくれますか?いえ、あなたならしてくれるでしょう。しかし、私の思っている立派さには欠ける。この仕事に興味を持っていなければ、いくら仕事が上手くたって評価はされませんし、いつか衰えますよ。…もっともあなたは評価など必要ないでしょうが。」
シビアなことを言ったが、彼女を落としたいわけではない。むしろその逆、前から言っているように、俺は彼女を求めていたんだ。だから何も言わずに入れれば良かったはず。しかし、どうしても許せなかったのだ。この仕事に誇りを持っているであろう社員達、中村、そして俺。その全部を、拒絶されているような気がしたから。
「…身勝手なことを言って申し訳ありません。ですが、これは本心なので聞いていただけませんか。」
俺は黙って彼女を見つめた。彼女は少し躊躇ったように思えた。しかし、意を決したように俺を見据えた。
「今の社長の直々のお言葉に、甚く感動しました。正直仕事に興味を持ったわけではありませんが、私はあなたに興味を持ちました。これが、入社を希望する理由です」
そこまで言い切られ、もはや何も言えなかった。というか、逆に笑いがこみ上げてきて、思わず吹き出してしまった。
「ぶはっ…ははっ!」
さっきまでは拒絶されたと思い込み憤りさえ感じていたというのに、今は彼女の言葉を愉快だと笑っている。不思議だった。やはり彼女が好きだ。
「あの…やっぱり私何か間違っていましたか。」
「いや…社長に興味を持ったから入社したい、なんて初めて聞いたから、つい。」
いまだキョトンとしている彼女はやはり可愛い。
この可愛さに負けて、彼女だけに合格通知を出したのは誰にも秘密のことである。