#:11 〜あの頃の二人 宏明and奈緒さいど。〜
守がリビングを出て行った後のことです。
「守、行っちゃった…」
ドアをみつめる奈緒に、宏明が近寄っていった。
「奈緒」
「え、は、はい。」
「折角守くんが二人きりにしてくれたんだから、なんかする?」
「…お兄様?いつもと口調が…」
「まだ俺たちが恋人同士だったときみたいに呼んでくれよ。今だけ。今は、お前の兄じゃないから…」
―――さっきはお兄様って呼べ、なんて言ったくせに。
奈緒は、首をかしげていたが、宏明にみつめられてすぐに宏明を見た。
「なぁ。何したい?」
「へ?何したい、って?」
「恋人同士の夜の営み、とか?」
クスっと笑う宏明を、奈緒はただ呆然とみつめているだけだった。
「なんか、宏くんっぽくない。付き合ってた頃はそんなこと言わなかったクセに。」
「……え。」
「結局、あれだけ付き合っててもキス止まりだし?」
「……だって…怖かったし…」
「逆でしょ、逆!普通はあたしが怖がるところなのっ!」
急にしおらしくなった宏明がなんだかかわいく見えてきて、奈緒は笑った。
「何がおかしーんだよ。」
「別に…っあはは!」
「なんかむかつく…」
宏明は奈緒の腕を引いて、自分の方に寄せた。
さっきまで笑っていた奈緒も、宏明の真剣な瞳に吸い寄せられて大人しくなった。
「…奈緒。今だけ…恋人同士に戻ろう。」
そんな宏明の誘いに、奈緒は頷くしか出来なかった。
「宏くん。じゃあ、何話す?」
宏明が、緊張する奈緒を嘲笑い、抱き寄せる。
「何で緊張すんの?てか、話さなくてもいいじゃん。」
「…へ?でも、折角二人きりにしてくれたんだし…」
「だからこそ!もっとさ、恋人らしいことしよ?」
抱き締める力をちょっとだけ強くする。
奈緒は、宏明の背中に手をまわした。
「うん…。」
宏明はゆっくり奈緒を自分から離すと、奈緒の頬を手で柔らかくはさんで、そのまま奈緒の唇に自分の唇を持っていった。
………が。
「………は?」
奈緒は宏明の視界から突然消えた。
ゆっくりと視線を落とすと、倒れこみながら眠りにつく奈緒の姿があった。
「…ま、いっか。」
宏明は奈緒を抱えると、ベッドに移動させた。
「おやすみ…奈緒。」