表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/25

#:9 〜二人の気持ち<2>〜

「バーカ。」

「…は!?」

「大体なぁ、お前の『お願い』は『命令』なんだよ!ホント、理不尽すぎる…言うこと聞かなきゃクビ、なんて…」


深くため息をつくと、神崎も言葉を詰めた。

本人は必死なんだろうけど、そう簡単にことが上手くいくとは思えない。

大体、神崎の家は金持ちなんだから。失踪とかしたら、普通捜索するだろう…


「あ…あたしは、本気…なんだよ…っ」

「だからお前はガキなんだよ」


後ろから聞こえてきた声の主に、俺たちは視線を移す。


「…お兄様…」

「宏…くん…」


その声の主はお兄様だった。


「『宏くん』?…変わった呼び方をするんだな。俺のことを、お前はいつも『お兄様』と呼んで線引きしていたクセに…今頃、彼女面しないでくれるか」


神崎は俯いてしまった。

俺は、お兄様のその冷たい言葉をただ聞き流すだけしか出来ず、ただ立ち尽くしているだけだった。

お兄様は、そんな俺を見て、どんどん俺に近づいていった。


「お前も未熟だな」


そう冷ややかに言われ、ぞっとした。

馬鹿にされてるわけでもなく、怒られているわけでもない。ただ、無表情に言われた。


別に立派な執事を目指しているんではなく、どちらかといえば嫌々ながらにやっていたハズなのに、何故か悔しかった。お兄様に言われたのが、無償に腹が立って…。


「でもっ…宏くんは、あたしのことが好きなんでしょ!?」


神崎がそう言うと、お兄様は俺のことを鋭い目つきで睨んだ。

俺がひるんでる間に、お兄様は神崎の胸倉をつかんでいた。


「俺はお前の兄だ。…生憎、妹に恋をするほど俺は飢えてないんでね」

「宏…く…っ」


お兄様は今、神崎にわざと酷いことを言って、酷いことをして嫌われようとしてるんだろう。

けど…


―――お兄様は、神崎の胸倉から手を離す瞬間、ほんの少しの間だけだけど、

切なそうな顔をしていた。


神崎は、それに気がついただろうか?


でも、きっと気づいていないだろう。

彼女自身、自分のことで大変なのだから。


「…ごめん…なさい。『お兄様』」


こんなことでいいんだろうか?

二人は好きあっているのに。


また、兄妹に戻ってもいいんだろうか…


「神崎。…お兄様。」


暗い顔をする二人に、俺が話し掛ける。


「神崎。お兄様のことがいくら好きでも、神崎家を捨てることは間違ってるんじゃないか?

お兄様。もっと自分の気持ちに素直になったらどうですか?」


二人とも無言になる。

きっと、一番痛いところを突かれたからに違いない。


「自分の気持ちに…素直になる、か。」


独り言のようにそう呟いたのはお兄様だった。


「守くん。…今だけ、奈緒と恋人同士に戻ってもいいだろうか。」


切なそうな顔をして聞いてくる。

別に俺に聞くことではないんだけど、きっとお兄様は自分の意思表示を俺にしたかったんだと思う。


「…今夜は、リビングを借りますね。」


俺はしばらくの沈黙の後、静かにそう言って部屋を出て行った。

きっと今夜、神崎とお兄様は「恋人」に戻るだろう…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ