○○○年 九月 三十日
気づいたら夏の暑さはもう完全に無くなっていた。過ぎ去る日を思っても仕方がないことだけれど、私も今年くらいは避暑地で、ゆっくりと休暇を取っても良かったかもしれないわ。
涼しくなったというのに、冒険者達は来やしない。コボルド、ゴブリン、オーク達が、あなた達を待っている。
早く我々をボコりに来いと、手ぐすね引いて待っている。
ボコられる側が手ぐすね引いてるなんて聞いたら、クラドニアで名の知れた──今は亡き喜劇王も、草葉の陰で悔しがるでしょうね。
「そんな笑える奴が亜人共に居たのか」
そう言って墓場からひょっこり甦ったりするかもね、あまり気持ちの良い話ではないけれど。
暇になったまま昼になった。新米や見習い受付嬢達を先に食事へ行かせ、私と数名の事務員が残ることになる。
そんな時にやって来たのは、例の若い冒険者の二人組。──ところが今度は、二人の弱そうな少年を連れて来ている。
びくびくとした新入りの顔を見る限り、カツアゲにでもあっている様子だ。一応彼らは、首から下げた銅階級章を見せたので、滞在名簿に書き込んでおく。
「大丈夫だって、ゴブリンの群れくらいなら、俺たちで余裕だからよ」
などといつもの様に威勢の良いことを言っている。こいつらは反省するという事を忘れた猿なのかもしれないと、本気で考える。
あなたたちは、ゴブリン相手に武器を奪われて逃げ帰った事を忘れたのか──と言ってやると、二人は慌てながら「最近はゴブリン数匹を相手にだって、勝てるようになりましたよっ」とムキになって答えた。
メネレアが根気良く討伐の助言をした賜物かしら、あのお馬鹿な二人組がゴブリン相手とは言え、活躍できる日が来るとはね……
私は「だったら、その二人を守ってやりなさい」と声をかけて彼らを送り出す。
まだまだ頼りない冒険者たちの後ろ姿を見ながら、次の休暇にちょっとした冒険をするのも良いかもしれないと考え、私は一人、受付で笑ってしまう。
クラドニアは商業国として知られている割と大きな国(一部だが海にも面している)、しかし近頃は豪商や商会が力を持つようになってきて……みたいな話はここでは出ません(笑)




