その三
本日2階目の投稿です。最新部分からご覧の方はご注意ください。
*2019/3/23 改稿
「まず帰る前に、瑠花さんには変化の術を使えるようになってもらう必要があります。当然ですが、動物の耳と尾を生やしたままでは、人界では暮らしていくことはできません。」
輝狐は表情を引き締め、真面目な口調で説明を始めた。
「まず、妖生は皆、体内に妖気と呼ばれる、生命、行動、術式発動の動力源を持っています。人間だった頃のあなたは既に大量の妖気を有していましたので、妖生化した今では通常の妖の何倍もの量を持ち合わせているはずです。変化の術は微弱な妖気で発動することができるので、瑠花さんでも、気の流れさえつかめれば、習得は容易だと思います。」
「流れを感じる...妖気というのは、血液のように身体中を巡っているものなんですか?」
「いえ、心臓によって絶えず送り出されている血液と違い、妖気は引き出さない限り、妖臓と呼ばれる場所からほとんど動きません。まずは妖臓の場所を教えますので、目を瞑って、心臓の辺りに意識を向けてください。」
言われた通りに鼓動を刻み続ける、自らの心臓部へと意識を向けてみる。
「それでは私の言葉に合わせて想像してください。妖臓は縦隔、つまり左右の肺の間に位置しています。ここには気管や大きな動脈、静脈、そして心臓など、体にとって非常に重要な組織が密集しています。その中、周りの複雑な組織とは違い、楕円形の臓器が、傾いた莓のような形状の心臓の右下に、静かに存在しています。」
何かの術なのか、上手く想像することができなくても輝狐の言葉と同時に、説明されたものと同じ、臓器の画像が脳裏に浮かび上がってくる。そして同時に、本来感覚などない胸の奥、ある所に、明確な、暖かいような刺激を感じた。
暖かい…。
「妖臓の存在を感じることはできましたか?」
「はい、何か暖かいような感覚が、ある一箇所からしてきます。」
輝狐は表情を少し緩め、指導を続けていく。
「それでは次に、妖臓から妖気を引き出してみましょう。また、想像を続けてくださいね。妖臓からは、心臓から伸びる、血管のような管は繋がっていません。妖臓とは気の湖のようなもので、引き出す時には、そこから一滴の気を、目標の部位まで運んで行きます。変化の際には外見を変えるひつようがありますので、今回はその雫を広く、薄く、皮膚の表面を覆うように伸ばしていってください。」
感じていた不思議な熱は、少しずつ胸から身体中に広がり、そして皮のように体の表面を覆っていく。