その二
*2019/3/23 改稿
「もちろんですよ。あなたをこれまでの生活から引き離す必要なんてありません。今日は妖怪、妖生として生きていくために必要なことを覚えてもらったら、すぐに家に帰れますよ。」
「よかった~。」
一番の不安がなくなり、ゆっくりと息を吐く--が、気になることはまだまだある。
「ところで、ここってどこなんですか?見慣れないところですけど。」
少し落ち着くことのできたところで、早速一番気になっていたことを訪ねた。
「ええ、それも説明するより見てもらった方が早いですね。外に出ましょう。」
促されるまま靴を履き、輝狐の後について屋外に出たわたしは、視界に飛び込んできた夢のような光景に、またしても絶句することになった。
「ここは私の故郷--妖界です。」
地形そのものに不思議なところはない。しかし道道を行き交う者たちは、どう見ても人ではない。一方で予想とは違い、日本と同様に車のようなものが走り、妖怪たちはイヤホンのようなものを耳に入れ、スマホのようなものを操作している。
「妖怪の世界...わたしたちが普段生活している世界とは違うところなんですか?」
「ええ、先程も少し説明しましたが、この世には人生、妖生、そして神生の三つの生、三生がいます。そしてそれぞれの生が不用意に争い合わないよう、三生に応じて、人界、妖界、そして神界の三つの並行世界が、隣り合って存在しているんです。またこれらの世界はそれぞれ平行して存在しているので、全ての世界に同じ国、同じ言語、そして類似した歴史があります。」
解ったような、解らなかったような...。微妙な表情をしていたのか、輝狐が付け加えて説明してくれた。
「簡単に言うと、生は違えど、世界は酷似しているということです。なので、不思議かもしれませんが、妖界にも人界にあるような電子機器があります。ただこちらでは電子機器は妖気というエネルギーで動作していますし、人界ではもう見られないような、巻物や着物なども日常的に使われているので、全く同じという訳ではありませんよ。」
「つまり、パラレルワールドみたいなものなんですね。」
納得して頷きながら、わたしは最終確認をすることにした。
「それで、”家に帰れる”ということは、人界には簡単に移動できるんでしょうか?」
そんなわたしに輝狐は微笑みながら、
「ええ、ただ先に『これ』を隠しませんとね。」
存在を忘れかけていた狐耳を指さされ、わたしは恥ずかしくなって俯いたのだった。