その一
*2019/3/23 改稿
気付くと、わたしは見覚えのない部屋で寝ていた。先ほどまでいた神社のようにも思えない…というより、何より、窓から見える、外の景色は、全く見知らぬものだった。
「ここは?」
ゆっくりと起き上がると、景色よりもよほどおかしな感覚を覚えた。視界には入っていないが、確実に何かが、頭に、そしてお尻の辺りにくっついている。
「何なの?」
違和感のする頭に手を伸ばそうとした時、急に背後の扉が開けられた。
「体調はいかがでしょうか?」
入室してきたのは、輝狐だった。
「あ、輝狐さん...具合は悪くないんですけど、何か頭とお尻に違和感が...」
恐る恐る尋ねるわたしに、彼女は口調も変えずに答えた。
「はい、それは妖生化の影響ですね。触ってみましたか?「
「いえ、というより妖生化ってなんですか?」
「百聞は一見に如かず、まずは鏡で確認してみてください。」
そう言うと彼女は驚くことに、何もない空間から姿見を取り出し、こちらに向けて置いた。
「えっ!?」
魔法のような出来事よりも先に、わたしは信じられないほどに変貌を遂げた自らの姿に言葉をなくしてしまった。
「何なの、これ?」
混乱し、頭頂部から生えた狐耳を掴み引っ張ってみる。しかし予想以上の痛みを感じ、涙目になりながら手を離した。
「先ほども説明しましたが、あなたが助かるため、また守り神を継承するためにはまず妖生となり、力を扱えるようになる必要があります。私自身の種族を適応するのが最も簡単だったので、瑠花さんには妖狐になってもらいました。」
そう、姿見には、茶色い狐耳と、同色の柔らかそうな狐の尻尾を生やした彼女自身の姿が写っていたのだ。そしてそれ以外にも...。
「それに、なんで顔まで変わってるの?」
自分で言うのもなんだけど、わたしの顔は決して悪くはなかったと思っている。しかし真黒な前髪で目元を覆い、笑うことが苦手だったためか、誰からも「可愛い」、「綺麗」などと言われたことはなかった。それなのに、今見えている自身の姿は、狐耳と同様に、ライトブラウンの綺麗なストレートヘアに大きく茶色い瞳、透き通るように白い肌と、誰が見ても可愛いと言うようなものだった。
「ええ、髪や目は耳と似た色でないとおかしいかと思ったので、一緒に変えましたよ。ただ輪郭、目・鼻・口の形など、基本的な要素は全く変えていませんから、その姿で学校に通っても、髪を染めたくらいいにしかおもわれないでしょう。」
「えっ、それって...わたし、また学校に通ってもいいんですか?」
こんな非日常に巻き込まれては、もう普段の生活には戻れないだろうと思っていた。でもそんなわたしの問いに、輝狐は首を傾げながら答えた。