その一
1話あたりの文字数少な目です。文章力、表現力共に初心者並みですがよろしくお願いします。
*2019/03/21 改稿
********************
カーテンの締め切られた暗い家の一室。その部屋の一角では、今や唯一の住民となってしまった、三つ編みの少女が静かに涙を流していた。
彼女の名は河本瑠花、黒髪黒眼に眼鏡をかけた、17歳の女子高生である。先日たった一人の家族である母親を亡くしてしまった悲しみは、数日経った今でもなくなりはしない。それに加え、親戚も、友人さえもいない彼女に残されたのは、母と過ごした日々の思い出と、孤独感を増長するこの大きな一軒家だけなのだ。
********************
「こんなところで泣いてたって、悲しくなるだけだよね...」
解ってはいても、学校にも、知り合いの家にも、わたしが元気を取り戻せそうな場所はない。ただ、安らげる場所が、一箇所だけ思い当たった。
「このまま塞ぎ込んでてもどうにもならないよ。」
自分に言い聞かせながら、財布とスマホを使い古したポーチに入れて、数日ぶりに家を出た。
********************
東京の大都会、見渡す限り灰色の人工建築物だらけの地域。そんな中、周囲から隔絶されたかのように、木々に囲まれた小さな神社が建っている。
「やっぱりここは落ち着くな...」
ここ、守人稲荷神社には、大きな稲荷の像が設置されている。その像の近くこそ、わたしが唯一安らぎと癒しを感じることのできる場所だった。ゆっくりと歩み寄るわたしを、稲荷の像は不動のまま待ち受ける。
「こんにちは、稲荷さん。」
像の眼前で止まり、わたしは静かに語りかけた。他人に言うと笑われそうだが、その稲荷に話しかけるのが好きだった。話しかけることで心の傷は癒え、じっと動かずに見つめ返してくれることに言い知れぬ安心感を感じていた。
「聞いてよ、この間...」
この日も普段通り、悩み事を伝えようと口を開こうとしていた。しかしその瞬間、突然のブレーキ音が静寂を破った。
「危ない!」
「えっ?」
突然かけられた声に驚き社の入り口の方を振り返ったわたしの目に写ったのは、こちらへ急接近してくる暴走車だった。
「嘘でしょ!?」
危険が迫っていることに気付いても、恐怖に硬直した身体はピクリとも動いてはくれなかった。それに、今頃になって避けようとしたところで、もう車は目と鼻の先。
止まって!!
まもなく訪れるであろう痛みを想像し、目をきつく瞑る...