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気力をなくした元バーテンダーが地獄あたりでバーをやるハメになりました  作者: 高山シオン


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ピアノ弾きとバーテンダー出会う

 西馬がいつも通りに店の準備をしていると、カランコロン……と、ドアベルが鳴った。


「まだ準備中なんですが……」

 とっさにそう答えつつ、この世界に決まった時間なんか存在してたっけと首を傾げる。


「いやあの……」

 入り口に立っていたのは髪の長い頼りなげな男だった。色が白く、細い。気まずげに髪をかきあげる仕草に変な色気があった。顔もなんとなく整っている。


「閻魔大王さん?に言われて、ここでピアノ弾けって。僕もともとバーでピアノ弾いてて……」


「へ?」

 カウンターを拭いていた西馬の手が止まる。

「あぁ……そういうことだったんですか」


「え?」

今度は男がきょとんとした。


「いえ、今日ここに来たら何だか前より店が広くなったような気がしたんですよね。それに急にアレが置いてありました」

 西馬が指さした先にあったのはアップライトピアノだった。グランドピアノじゃなくて、四角い感じのやつだ。光沢のある鏡面仕上げ。艶やかな黒が美しかった。今は蓋がきっちりと閉められていた。四角い椅子がしつらえてあった。


「なるほど、そういうことだったんですか……」

 西馬がカウンター拭きを再開しながら、ひとり納得している。それから、急に思い出して、

「あ、わたし西馬です。ここでバーテンダーをしています」

と、名乗った。もともと接客をしていた癖が出て、自然とソフトな口調になる。


「ぼく、神崎です」

 バーテンダーという人種に親しみを覚えた神崎は、急に打ち解けた気分になった。

「ここへは、どういった理由で来られたんですか?」


 西馬は少し考えた。「ここ」とは、どこのことだろうか。バーなのか、それとも「あの世」のことなのか。


「ぼく、本当についてなくて……花壇の角に頭をぶつけて、あっけなく来ちゃったんですよね」

 神崎が頭を掻きながら、照れくさそうに言った。


(あぁ、そっちの意味か……)

 西馬は拭き終ったカウンターの艶を眺めながら少しだけ考えた。振り向くと、神崎がニコニコと人懐こい笑顔で立っている。


「わたしは……しけいになったんです」


「はい?」


「だからその……死刑ですね。絞首刑です」


「……」

 神崎が笑顔のまま固まっている。彼の頭の中で今、西馬の口から出た言葉がものすごいスピードで漢字変換されているのだろう。市警……私刑……死刑。チーン。


「え!?」

 神崎の顔がハニワのようになった。びっくり仰天している。


「まぁ何ていうか、事故みたいなものですが」

 西馬にくたびれた笑みが浮かぶ。


「事故?事故で死刑ってなるもんなんですか?」


「いや普通はなりませんよねぇ……あはは」


「え!?いや笑いごとですか?死刑って、死刑ってよほどのことをしないとなりませんよ?例えば人を殺すとか……はっ!」

 神崎が自分の言葉で自分をどんどん追い込んでいる。もともと白い彼の顔が真っ青になった。忙しいことだ。


「あの。神崎さんはすでに死んでいるんですよ?わたしがもし殺人鬼だったとしても、いっぺん死んでしまった人は殺せませんよ」


「え?殺人鬼だったんですか!?」

 神崎の背中がドアにぶつかる。

「ぎゃふん」


(あぁ……ぎゃふんて言う人、本当にいるんだ)


「まぁまぁ」

 なだめすかすように西馬が明るく言った。

「例えばの話ですよ!」


「あ、そうだったんですか……。びっくりさせないで下さいよ」

 神崎の表情が和らぐ。

 その単純さに、西馬は呆れつつも、好感を抱かずにいられなかった。生きている頃も、そのキャラクターでまわりの人から愛されていたのだろう……なんてことを思って、ふと寂しさを覚えたりしながら。


「あ、ぼく何か手伝いますか?」

 カウンターの内側で掃除を始めた西馬に、神崎が声をかけた。

「そうですね……」

 言いかけたが、先日お手伝いを任せたが故に痛い目に遭っていたのを思い出してしまった。貴重なシャンパングラスがガラス片になってしまったのだ。

 あれは相手が獄卒だったからいけなかったのだ。


「いや、もうほとんど終わっています」

 西馬は笑顔で答えた。

「それより、神崎さんはどんな曲を弾くんですか?もしよかったらお好きな曲をひとつ弾いてみて頂けませんか?」


「分かりました」


 神崎の声のトーンが少し変わったのに、西馬も気がついた。


 ピアノの置かれた店の片隅に、神崎は座った。静かにフタを開けると、鍵盤が白く光を放った。神崎の肩が静かに動く。両手がそっと鍵盤の上に乗せられる。再び、小さく深呼吸。やがて……。


 スイッチが入ったみたいに、神崎の両手が鍵盤の上を走り出した。音が溢れ出してくる。西馬は作業の手を止めて聞き惚れた。たくさんの音に包まれて体が浮上していくような感じがする。こんな音楽を聴いたのは、生まれて(死んだのちも含め)初めてのことだった。

出会いは偶然ではなく必然である。

全ての出会いが自分にとって何らかの意味があるものなのだ。


さて、どうなることやら、このふたり。

(BLにはならないよ)

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