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気力をなくした元バーテンダーが地獄あたりでバーをやるハメになりました  作者: 高山シオン


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大騒ぎの開店準備

 獄卒たちが手伝うというので、バーの中に入ってもらった。とりあえず掃除をしてもらおう、ということになって道具を渡した。西馬はカウンターの中に入った。

 すると間もなく、事件が起こった。デコ目が、まるで人間のガキみたいに、ホウキをさかさまに持つと一本角をぶっ叩いたのだ。


「痛って!」


 一本角もちり取りを持って応戦する。チャンバラか。埃がもあもあ舞い上がる。西馬はカウンターの中を掃除しながら、思っていた。


(そのうち飽きるだろ……)


 そう思っていた矢先、視界の片隅をビュッと何かが横切り、ガチャン、とイヤな音がした。見ると高価(少なくとも人間界では)なフルート型のシャンパングラスが軒並み倒れて割れていた。見るも無残。

 シャンパングラスの上には、何故かちり取りが乗っかっている。一本角が投げたそれを、デコ目がひょいと避け、結果としてバックバーに飛び込んできて、よりによって安定感が抜群に悪い、華奢なシャンパングラスのゾーンに飛び込んだのだった。


 いいグラスほど薄くて割れやすい。遠い目になる西馬。

 かつて生きて人間のためにバーテンダーをやっていた頃。SNS映えとかいって、フチ子さん的な人形を、色鮮やかなカクテルのグラスの縁に乗せたがる女どもがいたな……。


「超かわいー!」

「ばえー!」とか言って。

 キャッキャキャッキャと、それはそれは楽しそうだった。そうか、そうですか。楽しいですよね。そりゃ、良かったね。でも、ほんとうは、

「お前ら!みんな帰れー!」って言いたかった。

 でも接客だし。顔で笑って心で泣いて。そんな繰り返し。なんかブルース。堂々巡りの12小節。


 そして今、棚の中で倒れ、割れているシャンパングラス。ブチン、と音を立てて、西馬の中で何かがキレた。


「いい加減にしろ!お前ら!」


 自分でもびっくりするほどの大声だった。怒りで体中が熱くなっているのが分かる。

 さすがのデコ目と一本角も、動きを止めて西馬を見た。さかさまになっていたホウキが、やっと本来の姿に戻る。


「ジャマするなら出てけ!」


 西馬がビシッと出口のドアを指さした。開放されたドアの向こうにはトラパンの顔。体がでかすぎて中に入れず、仕方なしに外から覗きこんでいたのだ。急に指さされたと思ったらしく、びっくり顔になっている。西馬の怒る気がそがれる。


「ジャマって何だよ!」


 デコ目がカウンターに身を乗り出してきた。思いもよらぬ反撃。


「だいたい、なんだよこれ。折檻に使うにしたって大した威力もねぇし」

 と、不満そうにホウキをブラブラしている。かと思ったら、また一本角のことをぶっ叩いた。加減、というものが分からないらしい。埃が舞い上がる。


(えーーーーーーーーーーーー!?)

 驚きのあまり、西馬の顔がハニワみたいになった。

(ホウキ使ったことないんかーーーーーーーーーーーーーーーーーー!)


「なんだよ」

 デコ目がカウンター越しに牙を向いた。


(なんだよってなんだよ!)


 西馬はツッコみたい気持ちをぐっと飲み込んだ。ここで言い返しても水掛け論になるだけっていうのが、目に見えている。もう、ざぶざぶのビシャビシャだ。パンク〇ー〇ーのネタみたいに。


「ホウキって言うのは……ですね。折檻とかではなくて、お掃除に使うものなんですよ」


「お掃除って!?」


「……」


 時が止まったよね。る~るるる~る~……。


(なんか……くらくらしてきた……)


 デコ目が、カウンター越しに何か言ってきている。


(いや、分かった分かった。黙ってくれ。とりあえず、あなたたちにお掃除についてのレッスンを施さなきゃいけないらしいから。いや、もう一人でやったほうが楽だし早いし。なんだかなぁ。ほんとうに、なんだかなぁ)


「ホウキというのは、まずこのように構えて、こうして……床に落ちている埃やゴミをはくんです」

「ほぉ~。なんのために?」

「……ま、それは、おいおい教えていきますので。今日はとりあえず、ね。やってみましょう。はい!」


 パン、と手を叩く。一本角には雑巾の使い方をレクチャーした。

 その様子を、トラパンがなんとなく羨ましそうに眺めている。その足の間をスルリとすり抜けて、黒猫が入ってきた。 


 バフッ!


「わっ!」


 黒猫の顔面に向けて、埃が襲いかかってきた。タイミング悪く、デコ目が思い切り掃き散らかした埃が舞い上がってしまったのだ。


「ベッベッベッ!何をする!無礼者!」


 黒猫は地獄のような声で怒鳴った。かと思ったら、全身をバネのようにして跳躍し、デコ目の顔に飛びかかった。鋭い鉤爪が不穏に閃き、残像を残してデコ目の頬に傷を作った。


「ぎゃぁ!痛い痛い!」


 デコ目が暴れて椅子がひっくり返る。雑巾で拭き掃除をしていた一本角が、押されたはずみで、カウンターに腹をぶつけた。怒って雑巾をぶん投げる。飛んできた雑巾はデコ目に当たらずに、西馬の顔面に襲い掛かってきた。とっさに避ける西馬。


 ガチャン。


 今度は三角形のカクテルグラスがやられた。毎日毎日、磨き上げて手入れをしてきたグラスが、ガラスの破片になってしまった。


「無礼者!無礼者!」

「わぁぁっ!わざとじゃないんですぅ!わざとじゃ……」


 どたんばたん。


 どうにもならない。西馬はカウンターから出ると、デコ目の背中を押して、黒猫もろとも店の外に押し出してしまった。


「なんだよなんだよ」


「いいからいいから」


 一本角に拭き掃除をたのみ、自分がホウキを使って掃除した。なんだかムダに疲れた。と、思ったら……。


 バンッ!


 すごい音がした。振り返ると、デコ目が入って来ていて、カウンターの上に片手をついている。いや、その手でカウンターの上の何かを叩いたのだ。


「何かいたんですか?」

 何気なく西馬が聞くと、

「うん。蜘蛛」

と、デコ目が答えた。


(ふ~ん)

と、一瞬だけ思った西馬だったが、すぐにハッと思い出した。


「え!?蜘蛛!?」


「うん」


 デコ目がつまみ上げる。見覚えのある星の形のマークが見えた。やつだ。因縁の相手である宮脇が死んで、こっちに来て、生まれ変わって、蜘蛛になったのだ。その蜘蛛を、よりによって、何の関係もないデコ目が叩き潰してしまったのだ。


 ストッと、黒猫がカウンターの上に飛び乗り、西馬の顔を見て、にやにやしている。


「お前がぐずぐずしているから、こういう目に遭うのだ。どうする?生き返らせるか?」


 西馬は何も言えなかった。ただ疲れた。いろいろな感情がぐちゃぐちゃだ。

ドタバタはしばらく続きそうです。。。。

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