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気力をなくした元バーテンダーが地獄あたりでバーをやるハメになりました  作者: 高山シオン


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持ち場を抜けてきた3人と悩める女

 ひょっこり。大木の後ろから頭を出したのは、獄卒トリオのひとりトラパンだった。キョロキョロと辺りを見回している。井戸のところには誰もいない。


「おい、どうなんだよ」


 トラパンの巨体の後ろに隠れていた、デコ目がせっつく。


「うーん……おかしいなぁ……」


「何が!?」デコ目がイライラする。

「もういいよ!代われよ!」トラパンのお腹を、ぐいぐいと腕で押しのけ始めた。


 しかし、トラパンの巨体は、ちょっとやそっとでは動かせないのだ。デコ目が顔を真っ赤にして、頑張っている。やがて、肩で息をしながら、


「何だよっ!」と怒鳴った。

「お前ちょっとは痩せろよ!お前のパンツな、5人分の布地、使ってるって裁縫係が言ってたぞ!」


「ちょっと声のトーンおとせよ」冷静にツッコんできたのは一本角だった。「また黒猫が来たら面倒だろ」


 顔を真っ赤にして口を押えるデコ目。「分かってるよ……」と、負け惜しみを言っている。


「そうだよ。大好きな出世に響くよ」などと呑気に言うトラパンを、デコ目はジトッと睨んだ。

「すぐ怒る……」口をとがらせるトラパン。


「で、どうなんだ?」機嫌を損ねたデコ目に変わって、一本角がトラパンの隣に行った。

「なんか、あっちに変なのがいるんだよ」トラパンが指さしたのは、井戸ではなく、その先の木陰だった。

「見えないぞ」一生懸命に伸びあがる一本角を、トラパンが軽々と持ち上げた。まるで力士に抱え上げられた子供みたいな絵になった。

「あ、ほんとだ。何かいる」一本角が声を上げた。「あれ?もしかして……人間か?」


「え!?」デコ目が食いついてきた。「どこだよ!見せろよ!早く早く!」

「すぐエバるんだからなぁ……」一本角を下ろした後、トラパンはデコ目も持ち上げてやった。


 草むらに隠れて、ほとんど見えないのだが、横たわっている人間のように見えた。こんな、地獄でも天国でもない場所に人間がいることはありえない。(西馬は除く)

 3人の獄卒は好奇心に駆られ、そろりそろりと倒れている人影に近づいて行った。


「あ、ずるいよう」トラパンが声を上げた。

 そろそろと歩きながら、他のふたりがトラパンを盾にするように、後ろに隠れ出したのだ。

「しぃ!静かにしろよっ!」トラパンの後ろに隠れながら、デコ目が言った。

「そうだぞ、見つかるぞ」一本角が援護射撃をする。

 2人の獄卒に押されながら、トラパンは口を尖らせて歩き続けた。 


 草むらに倒れていたのは、髪の長い女だった。横を向いた状態で、寝息を立てていた。顔色がよくない。それでも美しい顔立ちだった。


「傷ひとつないけど、あいつが折檻したのか?」デコ目が興味津々で観察している。

「さぁ……。だとしたら、おいらたちのやり方とはだいぶ違うな……」一本角も女をじっくり見た。

「あ、動いたよ」トラパンが言う。


 女は「うーん」と唸った後、うっすらと目を開けた。ぼんやりとする女の視界に、まず飛び込んできたのはデコ目のデッカイ目だった。それから一本角。最後にトラ柄のパンツをはいたデカいやつ。

 異様な見た目の3人がいるにも関わらず、女は驚きもしない。ただ、目をこすりながら起き上った。


「頭が割れそう……」女が顔をしかめた。


「え!?頭が割れるのかっ!?脳みそ、ぶっ飛ぶのか?」デコ目が女の頭をつかんだ。

「痛い痛い痛い!離せよっ!」女が声を上げるが、お構いなしだ。


 しかし、女の頭には変化がなかった。がっかりして手を離すデコ目。


「ねぇねぇ」トラパンが女に話しかける。「あんた誰?」


「何!?このタイミングでっ!?」一本角がツッコむ。


 3人の視線が女に集まる。この異様な状況にも、女は一切ひるむことがなかった。ただ、何か考えている様子。そして口を開くや、


「それは、あたしが知りたい」と言った。「……っていうか、水……」

「おい」デコ目が言い、トラパンは水を汲むために井戸に走った。


 トラパンが、とりあえず桶のまま持ってきた水を、女の前に置いた。

「持ってきたよ」と、にっこりした。獄卒なのに。


「はぁ!?」女がキレた。「こんなデッカイので、どうやって飲めっつぅんだよ!このデブ!うっ……」

 急に怒鳴ったので、頭に響いたらしい。


(今度こそ割れるのか!?)

 デコ目が目を輝かせて女の頭を見るが、やはり変化はなかった。つまらん。


「はい」と言ったのは一本角だった。

 手に何か、長い円錐型のものを持っている。コップにしては、底が尖っていて安定感がない。形からすると、ひっくり返した角のような……。


「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 デコ目とトラパンが同時に声を上げた。

「何だよ。そんなに驚くことないだろう?」

 当たり前のように言ったのは、一本角……だったけど、今は頭に角が生えていないから何と呼んだら良いか分からない奴だった。

「外せるんだ、これ。便利だろ?」

 手に持った角を、頭に乗せるような仕草をしている。


「う、うん……」


 言葉を失う2人をよそに、一本角だった奴は、角をざっと洗うと、水を汲んで女に渡した。

 女はというと、角の匂いを嗅いだり、覗きこんだりしていたが、やがて、こわごわと水を飲みだした。すると勢いがついて、自分から桶の水をすくってガブガブと飲んだ。まるで底なしだ。

 そのうちに、落ち着いたらしい。コップ替わりにした角を、その辺に放り投げると、女はため息をついた。


「おいおい!」

 転がっていく角を、元は一本角だった奴が追いかけていくが、知ったこっちゃない。

 そのうち、一本角に戻った奴が帰ってきた。

「ひでぇ奴だな……」ぶつぶつと文句を言っている。


 さっきより、まともな顔になった女は、はっきりと目を開いて獄卒たちを見た。デコ目は、女の瞳に吸い込まれそうになる感じがして驚いた。

「こいつ人間じゃないかもな……」と、ポツリと言った。

「え!?あいつに折檻された人間じゃないの?」トラパンが覗きこむ。

「となると……天女か?」一本角が言う。

「いや、天女はもっと清らかだろ」デコ目が一本角に言い返す。

「あっ!?」女がキレる。

「ほら」デコ目の発言に、一本角とトラパンが頷いた。

「きっと、こいつ獄卒だな」デコ目が試すように言った。「衆合地獄の、刀葉の木の女だ」


 女の表情が曇る。やがて、何とも言えない苦悶の表情を浮かべたのだった。

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